192 服屋は長い
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二階で戦闘用の服を購入したナインとメイは、彼女の普段着を選ぶために一階へと降りて来た。
購入した戦闘用の服は、シャツは同じものをもう一着。ズボンは、黒地にえんじ色の模様が入ったものだ。これも同じものをもう一着購入した。お揃いという事なので、サイズ違いのものをナインも二着ずつ購入している。
戦闘用の服というのは、予備も同じものを用意するのが一般的だ。何故かと言うと、例えば、他のパーティーや冒険者と合同で依頼を行う際、服の色がコロコロ変わったりすると場が混乱したりするからだ。
混乱しなかったとしても、個人の判別に時間がかかるような事はマナー違反でもある。なので、パーソナルカラーという訳では無いが基本的に冒険者は、戦闘用の服の色を変えたりはしない。変えるのは、防具の新調だったり、服や防具の破損とかで装備変更した時くらいだ。そこはどうしようもないからな。
ちなみに合計金額だが、上下二着ずつで6万トリアちょっとだった。一着約1万5千トリアだ。カルヴァース伯爵から100万トリアも貰っていたが、この調子で使っていたらあっという間に無くなってしまいそうだ。今後は節約しなければ。
売り場を見回すナイン。一階には、見渡す限り所狭しと服が陳列されている。ちょっと圧倒され、思わず言葉が漏れた。
「う、うーん、凄い服の数だな。これだけあるとどこをどう見ていいか全然わからん」
「そうだねぇ。あ、でも見た感じ、左が男性用で右が女性用みたいだよ。ほら行こう!」
「あ、おい、手を引っ張るな」
ニコニコとしたメイが、楽しそうに笑いながらナインの手を引いていく。
一階右側にある女性服売り場の中に入ると、メイは並べられた服を手に取った。
普段着は三着買う予定だ。少ないように思うが、依頼や移動なんかでそんなに着ないので、これで十分なのだ。メイとしてはいっぱい欲しいみたいなのだが、バッグの容量が少ないので我慢するらしい。お金も気にしてくれ。
取っては戻し、取っては戻しを繰り返していたメイは、真っ白なスカートを手に取ると自身の腰に当てがい、こちらへ振り向いた。
「どう?」
似合う?と聞いてきているのだろう。僕は彼女の持つスカートに目をやる。
白地のスカートの裾に、水色のレースが少しだけ付いている。可愛らしく、清潔感というか清楚感がある。メイの白い髪ともよく合っているように感じた。
「可愛いよ」
「本当!?じゃあこれにしよっかな」
僕のストレートな言葉に、満面の笑みを浮かべる。
「まだ見始めたばっかなんだから、とりあえず候補くらいにしとけば?」
「そうだね!じゃあこれに合いそうな上を見に行こっか」
そう言ってメイは、スカートをそのまま手に持ち、シャツなどの上着が置いてあるコーナーへと足を向ける。
到着すると彼女は、すぐに真剣な表情で服の吟味を始めた。
「うーん・・・」
「これはどうだ?」
横から手を伸ばし、ナインはラックにかかっていた一着を手に取った。
ナインが取ったのは、薄黄色をしたブラウスだ。裾と袖と襟に、スカートよりも小さなレースがあしらわれている。
僕からブラウスを受け取ったメイは、先ほどのスカートを腰に当て、ブラウスを上半身に合わせる。
「どう?」
数歩先に先に姿見が置いてあるのだが、そちらへは行かずに僕へと見せてきた。
「よく似合ってるよ。メイは暗い色より明るい色の方が良いね」
「そ、そう?じゃあ明るいので選ぼうかな」
頬を赤くしたメイが、照れ笑いを浮かべながらいそいそと姿見の方へと向かった。自分でも見てみるようだ。
僕とメイの防具は、ほぼ黒と言っていい色をしている。さっき買った戦闘用の服も下は黒地だ。一応上は白に近い灰色なのだが、服の上には防具を着ける。なので半分くらい上の色は見えない。
一応戦闘用は、目立たないようにだとか汚れる可能性も考えて明るい色にはしないようしている。だから普段着は、白とかの明るい色の方が良いだろう。
ちなみに僕の持っている普段着も、今着ているのみたいに上は白ばかりだ。決して選ぶのが面倒だったからではない。シンプルなのが良かっただけだ。本当だ。
「これとこれは買う事にした」
戻って来たメイは、そう言って大事そうにブラウスとスカートを抱えていた。
服を見るのに邪魔になるだろうと思い、彼女の持つ服を持ってあげる。
「そうか。ほら、持っててやるから見ておいで」
「ありがとう!でも一緒に見よう!」
もっと選んで!と言いながら、メイは僕の手を引いてズンズンと店内を進む。
何度かメイと一緒に服を買いに来た事はあるが、センスに不安があるため正直言って未だに慣れない。女性物だしな。
さっきブラウスを選んだ時も、チラッと見た中で良さげだなと何となく感じただけだ。ぶっちゃけ内心ドキドキだった。拒否されなくて良かったよ。
それから数十分、二人は店内を回りながら「あれは変だ」や「これは可愛い」と言い合い、服を選んでいった。
「うーん、これもいいなぁ・・・」
棚に置いてある服を手に取り、メイが唸る。
僕の腕の中には、もう上下三着ずつあるのだが、どうやらまだ選ぶようだ。まぁこうなる事は予想していたので、もういいだろうとは言わない。多くなるようなら僕のマジックバッグに入れればいいだけだ。Cランクに強化してあるからまだまだ余裕はあるからな。
服を見て唸るメイを横目に、ナインは店内を見回す。沢山の服を眺めていると、ふと壁にかけられている一着に目が止まった。
メイから離れ、服へと近寄っていく。
壁にかけられていたのは、白い胸元から裾までの、オレンジ色のグラデーションが綺麗なワンピースだ。丈は膝下までで袖は無く、肩の部分が紐になっている。涼しげでありながら夕暮れを思わせるような一着だ。
ちなみにナインとメイが日焼けする事はない。厳密には日焼けをしているが、即座に肌が再生されるため、変化しないのだ。物凄く便利だが、肌が白いままなのはちょっと残念だ。
服をじっと見つめ、メイが着た姿を想像した。
(これ、良いな)
メイに似合いそうだ。そう思ったナインは、大量の服を何とか片手で持ち直し、壁からワンピースを取る。
そして、未だ難しい顔で唸っているメイの元へと戻ると声をかけた。
「メイ」
「ん?なに?」
「これ、どうかな?あー、似合うと思って」
こちらを振り向いたメイに、少しだけ照れながらワンピースを手渡す。
受け取ったメイは、パチパチと目を瞬かせる。
「・・・選んでくれたの?」
メイがちょっとだけ驚いた様子を浮かべながら、確認するように呟いた。
今までも彼女の服を選んだ事はある。だがそれは、彼女に選んでと言われたからであり、自主的にではなかった。対して今回選んだワンピースは、それらとは違う。ナイン自身がメイに似合うと思って選んだ物だ。だからこそ、彼女はちょっとだけ驚いたのだろう。
「うん。似合うと、思って」
照れにより若干歯切れ悪くなる。だが彼女にはそんな事は関係なかった。
「ありがとう!ちょっと着てみるね!」
「あ、うん」
今日一番の笑顔を見せると、メイはワンピース片手にすぐさま試着室へと向かった。
試着室の中へと入ると、ゴソゴソと音を立てて着替えを始める。そして少しして試着室のカーテンが開き、ワンピースを着たメイが姿を見せた。
「あの、えっと、に、似合う、かな?」
物凄く照れた表情をしたメイが、途切れ途切れな言葉で聞いてきた。
だがナインは、そんなメイに言葉を返せなかった。
「ナ、ナイン・・・?」
少しだけ不安そうになったメイに声をかけられ、ナインは正気に戻る。
「ああ、ごめん。よく似合ってる。可愛いよ」
何も喋らなかったせいで不安にさせてしまったと感じだナインは、急いで感想を口にした。慌てていたせいか物凄くストレートな言葉になる。
ナインの言葉に、メイが頬を染めながら綺麗な笑みを浮かべる。
「・・・ありがとう」
とても嬉しそうなメイは、いつもとは違う小さな声でお礼を呟いた。
このワンピースは、僕が買おう。
笑顔の彼女を見て、ナインは自分が買ってプレゼントしようと即決した。なにせ彼女がこれほど喜んでいるのだ。買わないという選択肢は存在しない。
それに・・・
見惚れるくらい可愛かったからな。
ポン酢が好きです。
ポン酢をかければ何でも美味しくなると思ってます。
美味しすぎてたまに飲みます。
※ジュースのように飲むわけではありません。小さなお皿に入れてます。
また明後日。