186 クリアマリン
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「ここが、クリアマリンか!」
ノースト大陸が南に位置する港町、クリアマリンに到着したナイン達は、魔導高速船を降りると町をキョロキョロと見回していた。
クリアマリンは、ノースト大陸南側に存在する三国の内、南側の約半分を国土とする、蒼水国アクエリアスにある港町だ。残りの二国は小国であり、アクエリアスの左右に一つずつといった具合だ。
港町なため海岸線に位置している。だがカルヴァースと違い、高低差がほぼ無い町だった。それから町の至る所に、見たことの無い種類の木が生えている。
「変な木があんな。なんだあれ?」
「あれはココヤシの木ですよ」
「ココナッツが取れるやつだね。ねぇルチル、後でココナッツケーキ買いに行こ」
「そうですね。全部食べちゃいましたしね」
グレンの疑問に、この国出身のルチルが答えた。ココヤシという種類の植物であり、メイが言う通りココナッツという果実が採れる。このココナッツが、クリアマリンの名産品らしい。つかココナッツケーキって何?え?二人だけで食べたの?
土地の高低差だけで無く、建物の大きさもあまり無い。大きい物でも精々が三階建てだ。その三階建ても、見える範囲では二つくらいしか無い。
とはいえ、その分ビーチがあり、縦に短い分横に広い町だった。なんでも、町の三分の一がビーチなんだとか。
「凄い日差しだなぁ。もうすぐ冬だって言うのに・・・」
額に手を翳し、頭上から降り注ぐ陽光へと顔を向ける。聞いていた通り温暖な気候であり、もう11月下旬だというのに暖かい。と言うよりも暑い。このカンカン照りもそうだが、湿度が高い。たぶんだが、三十度近くある気がする。
「本格的に冬になれば、もう少し下がるはずだよ」
「そうですね。もう十度くらいは下がりますね。逆に真夏はもう十度上がります」
過去に来た事があるメイと、出身者のルチルが簡単にだが教えてくれた。その内容に、ナインとグレンは、揃って嫌そうな表情を浮かべる。下がるのはありがたい。それは全然嫌じゃない。寧ろ助かるくらいだ。だが真夏のもう十度はダメだ。死んじゃう。
(絶対夏には来たくないな。うん、今後も冬限定だ)
夏は近寄らないと心に決めたナインは、後ろに停泊する魔導高速船へと視線を向けた。
船員に聞いたのだが、魔導高速船は、今日明日整備をして明後日カルヴァースに帰るとのことだった。
「さて、と。観光したいところだけど、先にやらなきゃいけない事があるな」
魔導高速船を眺めナインは、観光願望を抑えながらそう呟く。
「私の肉体更新だね!」
やらなきゃいけない事の内容を、メイが嬉しそうに口にする。
そう、Bランク魔石を使用した、彼女の肉体更新だ。やるとするならば、今のメイの姿をあまり見られていない今が一番都合が良い。
一応乗ってきた高速船の船員に、更新後のメイを見られないように気を付けなければいけないが、彼らがクリアマリンにいるのは三日間だけなので、港に近づかなければ問題無いだろう。
ちなみに、更新を行うまでのこの短い時間でも見られる可能性があるため、メイには、フード付きマントを被って姿を隠してもらっている。かなり暑いと思うが我慢してもらうしかない。
「どこがいいかな?なるべく人が来ないところがいいんだけど」
「港の東側は、倉庫街になってるので、そちらなら人も少ないと思いますよ」
「んじゃそこだな。行こうぜ」
土地勘がしっかりしているルチルの提案を受け、グレンがさっさと決めてしまった。ナインもメイも特に異論は無いので「そうだね」と返す。
「また倉庫街か・・・。倉庫とは縁が多いなぁ」
「そういえばそうだね・・・」
ボソリと呟くと、横にいたメイが元気の無い声で答えた。
逃げたルチルを追いかけた先が倉庫街だった。サージェスという名の第三級魔人と戦ったのも倉庫街だった。まぁどっちもクリアマリンじゃなくカルヴァースだったけど。
「とりあえず早く行こう・・・、暑い・・・」
マントのせいでかなり暑いのか、ぐったりとしたメイが早くと急かす。
「ごめんごめん。行こうか」
汗だくになっているメイに謝ると、ナイン達は、東の倉庫街に向けて移動を開始した。
東にある倉庫街に入ってから十五分。未だナイン達は、奥へと向けて歩を進めていた。
入り口やその少し先くらいまでは、まだまだ人が多かったからだ。
「人とすれ違わなくなりましたね」
とはいえ、十分程進んだくらいで人が少なくなり、今ではもうほとんどいない。
ナインは、気配感知を使用し、周囲に人の気配が無いか確認する。
「・・・気配は、無いね。そろそろいいんじゃないかな?」
周囲に人の気配も無いので、流石にもう大丈夫じゃないかと思い、みんなに声をかけた。
ナインの言葉に足を止めたグレンが、同じように気配感知を使用した。
「気配は・・・、一番近くて四十メートルくれぇか。大丈夫じゃねぇか?」
グレンの気配感知スキルは、僕よりもレベルが高いため、感知範囲もかなり広いようだ。四十メートルならば問題無いだろう。
「急いでやれば大丈夫だと思うよ・・・」
顔中に汗をかき、顎からポタポタと水滴を垂らすメイが、なんでもいいから早くしてとばかりに答える。
「私は、初めて見るのでどんな感じなのかわからないですが、大きな音とかを出さなければ大丈夫だと思います」
「音は出ないから大丈夫だよ。かなり光るけど」
この中で唯一見た事が無いルチルに、大丈夫だが光が出ると返すナイン。とはいえ、音よりはマシだろう。
一応は大丈夫だと賛同を得られたナインは、周囲を見回し、ちょうど良さそうな倉庫と倉庫の間を指差す。
「あそこでやろう」
倉庫の壁と壁で挟まれた、幅二メートル程の通路だ。あそこならば、光が出ても屋根と壁によって防いでくれるはずだ。そこまで漏れる事もないだろう。
「いいよ・・・」
「ああ」
「はい」
ナインの提案に、三人が同意する。
そうしてすぐに通路へと移動する。すると、屋根と壁のおかげか日陰になっているため、湿度はあるがそれなりに涼しかった。
人の目も無いので、「もうマント取っていいよ」と言うと、メイはむしり取るようにマントを外した。
「ふぅー・・・、暑かった・・・。倒れるかと思ったよ」
「お疲れ様。ほら、水」
マジックバッグから水の魔道具とカップを取り出し、カップに水を入れるとメイに渡した。流石に不死身の魔人とはいえ、肉体はほぼ人間と同じなので、脱水症状や熱中症で意識を失うなんて事は、普通にあるからな。
カップを受け取ったメイは、ありがとうと答えるとゴクゴクと凄い勢いで飲み干した。
「もう二、三杯もらえる?」
「あいよ」
一杯では流石に足りなかったのか、おかわりをお願いしてきた。それから三度、カップに水を注ぎメイが飲み干す、というのを繰り返す。
「ふぅ!もう大丈夫!」
水を飲んで落ち着いたメイが、ニコリと微笑んでカップを返してきた。
受け取ったカップと水の魔道具をバッグにしまったナインは、もう一度気配感知を使用する。
(周囲に人は・・・、いないな)
改めて、自分達以外誰もいない事を確認したナインは、マジックバッグからBランクの無属性魔石を取り出す。
「よし、それじゃあ始めようか」
スマートウォッチの充電中
何故か充電されないので、時計本体を確認したら
充電端子が割れてました。
え?割れるの?
また明日。