表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レゾンデートル  作者: 星街海音
間章
183/251

182 別れと出航

宜しければ、評価、ブックマーク、いいねをして頂けると嬉しいです。


 14日後の11月18日。ノースト大陸から旅立つ日が来た。


 現在時刻は、早朝6時。ナイン達は、潜入場所ともなった領主館下にある専用港に、揃って降りてきていた。そして全員が、目の前の光景に目を丸くしている。


 「すご・・・」


 ポツリと呟くナイン。目に映る想像以上の存在に、そんな素直な感想しか出てこなかった。


 領主専用港には、物凄く高そうな船が停泊していた。大きさとしては、大手商会の持つ大型船と変わらないレベルだ。華美な装飾があるとかではない。そういった物は、最小限だ。だが全体が黒く輝き、所々に白で模様の入った船体は、剛健さと優雅さ、そして重厚感を感じさせる。魔物や海賊用の砲台なんかもあるので、ちょっとおしゃれな軍船みたいである。


 「あれに乗るんですね」


 「ああ、魔導高速船だ」


 僕達が乗る予定である伯爵の船は、魔導高速船という。通常の船であれば、帆で風を受けて進むのみだが、魔導高速船は、それだけではない。船体後部に、風と水の魔石を使用した魔導機関が搭載されており、この魔導機関によって生み出された推進力で進むことが出来る。


 「風と水を噴出するんだっけか?」


 「そうだ。推進力が帆だけじゃねぇから、通常の帆船よりも速度が出る」


 速度が大体五割り増しらしい。一応性能的にはもっと出せるらしいが、それ以上出すと船体にダメージが出る上に、乗り心地が酷いものになるらしい。それはちょっと嫌だな。乗った事無いけど、船って酔うんだろ?


 「なるほどねぇ。それはそうとこんな目立つ船、どこにあったんだ?」


 「普段は、あっちの一般港の奥に停めてあったらしいぞ」


 ここから見える一般港を指差しながら、教えてくれるグレン。何で知ってるんだ?と問えば、さっき船員に聞いたんだとか。いつのまに。


 出航準備を進める船員達の邪魔にならぬよう、離れた所で待機するナイン達。事前に出発準備も終えており、加えて全員の装備も伯爵から貰った物になっている。


 そんな中四人から少し離れた場所で、ルーチェが侍女さん達に囲まれていた。中心にいるルーチェはどこか誇らしげに胸を張っている。


 「あぁ、ルーチェちゃん・・・、可愛い・・・」


 「よく似合ってるよー!」


 「はーいルーチェちゃん、おやつだよー」


 やたらと持て囃され、渾身のドヤ顔を浮かべるルーチェ。これだけ囲まれている理由は、可愛いルーチェとお別れになるからだけではない。ルーチェの首に新たに着けられた首輪が原因だった。




 『ナイン様、こちら、ぜひルーチェちゃんにお使い下さい』


 数日前、部屋を訪れた侍女さんの一人が、そう言って首輪を渡してきた。赤地に白い模様が入った小さな首輪だ。ルーチェへのプレゼントらしい。なんでも、侍女一同でお金を出し合い、購入してきたんだとか。これには、受け取った僕だけでなく、メイ達も驚いた。


 どうしてなのか、侍女さんから話を聞くと、どうやら間に合わせで着けた、何の効果も無い赤いスカーフだけでは勿体無い。という話になったらしい。何だそりゃ。勿体無いって何だ?


 その後、『ナイン様達は、首輪を持ってないらしいぞ』と知った侍女さん達は、じゃあお金を出し合って購入しよう。という流れになったそうだ。じゃあがよくわからんのだが?


 そうして出し合ったお金でルーチェに似合う首輪を購入し、今日持ってきた。という事だった。


 『ルーチェちゃんへのプレゼントではありますが、私共を救っていただいたナイン様方へのお礼でもあります。お嫌ではなければ、是非使ってあげてください』


 そう言って頭を下げた侍女さんは、部屋から立ち去っていった。




 そして現在、その貰った首輪をいたく気に入ったルーチェが、くれた侍女さん達にお披露目をしているのだった。


 ちなみに、侍女さん達が『何の効果もうんたらかんたら』と言っていたように、頂いた首輪は当然のようにアビリティ付きだった。




癒しの首輪

等級:B

種別:従魔用首輪

属性:光

アビリティ:<精命治癒><サイズ調整>

耐久値:850/850




 癒しの首輪という名前の、従魔専用装備だ。属性は光で、まさかのBランクである。


 アビリティは二つあるが、サイズ調整のアビリティは、従魔専用装備ならばほとんどの物に付いているらしい。なので実質、アビリティは精命治癒だけとなる。精命治癒の効果内容は、名前から想像出来るように回復特化だ。装備従魔のHPとMPの回復量、回復速度を上昇させるという効果を持っている。すごく侍女さん達が選びそうな効果だ。


 それから、性能とは関係無くルチルが教えてくれたことなのだが、この首輪、おそらくだがもの凄く高いらしい。まず従魔用装備というのがそもそも高いらしい。そして、アビリティ付きになると、更に値段が跳ね上がるんだそうだ。


 「あー!可愛いー!!」


 フルーツを食べるルーチェの姿に、黄色い声をあげる侍女さん達。果たして彼女達は、いったいいくら使ったのだろうか。とてもじゃないが怖くて聞けない。


 そうしてチヤホヤされているルーチェを放置し、ナイン達は、忘れ物は無いかなどと話をしていると、いきなり港内の空気がビシッと引き締まったような感覚がした。


 カルヴァース伯爵が、執事長のパウエルさんと護衛騎士のジェームスさんを連れて、港にやって来た。流石に無視して出航準備を進める訳にもいかなかったのか、港内の全員の手が止まる。


 「楽にして構わん。皆、出航準備を続けてくれ。お前達もな」


 伯爵は、船員と、ついでにルーチェに群がる侍女さん達に向けてそう言うと、ナイン達の方へやって来た。


 「閣下、おはようございます」


 グレンが代表して挨拶をし、続くようにナイン達三人も挨拶をする。伯爵は、「ああ、おはよう」と返事をすると、船へと視線を移した。


 「この様子ならもう少しで準備も終わるな。君達の準備も大丈夫か?」


 視線は船に向いたまま、伯爵が聞いてきた。


 「問題ありません。閣下から頂いた褒賞で、物資も装備も良い物を揃えられました」


 「そうか」


 グレンの言葉に、伯爵がこちらへ振り返る。そして伯爵の視線が、ナイン達一人一人に向けられる。どうやら褒賞としてあげた、自身のコレクションを見ているようだ。


 そうして確認を終えた伯爵は、満足そうに一度頷く。


 「うむ、全員良く似合っている。譲った私も嬉しく思うぞ」


 しっかりと貰った装備を着けている事が嬉しいのか、伯爵は笑みを浮かべるとナイン達に向けてそう言った。ふむ、似合ってるか。ちょっと照れるな。


 「ありがとうございます。頂いた物は、大事に使わせていただきます」


 「ああ、だが大事にし過ぎて惜しむなよ。危ない時は、それらを捨てでも生き残れ」


 「はい。肝に銘じます」


 伯爵の言葉に、グレンだけで無くナイン達も頭を下げる。何故、伯爵がそんな言葉を言ったのか、その理由を全員が正しく理解した。


 とても大切なコレクションを譲ってもらった。だから大事にしようとするだろう。だがそんな大事な物であろうと、命の危機がある時は、捨てでも生き残れ。物は、どこまでいっても物だ。命には変えられない。優先順位を間違えるな。


 伯爵は僕達に、そう伝えたのだ。


 「うむ」


 僕達が理解したと判断した伯爵は、満足そうに一つ頷くと、視線を船へと戻した。







 そうして伯爵がやってきてから三十分ほど経過した頃、ついに出航準備が全て完了した。船員達が全員乗り込み、後はナイン達が乗るだけである。


 ナイン達四人とルーチェが伯爵の前に並ぶ。そして、最後の挨拶をするためグレンが口を開こうとした瞬間、伯爵が先んじた。


 「改めて、このカルヴァースを救ってくれた君達に、最大の感謝を」


 そう口にした伯爵は、ナイン達に向けて腰を折って礼をした。そして伯爵だけでなく、パウエルさん、ジェームスさん、港に残る船員達、侍女さん達まで、頭を下げた。


 目の前の光景に、グレン以外の三人がガチガチに緊張しだす。グレンはグレンで、(どう返せば)と困惑が顔に出ていた。それでも何か返さねばと、何とか言葉を選ぶ。


 「皆様をお救い出来た事、私達も嬉しく思います。またいつか、皆様方と笑顔でお会いできる日を楽しみにしております」


 そう言って四人と一匹は、ゆっくりと頭を下げた。


 謙遜はしない。救おうとした事も、救った事も事実だからだ。だから、またいつか笑って会おうと、再会を期待する言葉を、グレンは口にする。


 伯爵達とナイン達が、同時に頭を上げる。謙遜をせず、いつかの再会を口にしたグレンの言葉が気に入ったのか、伯爵は今までで一番とも言える笑顔を浮かべた。


 「ああ、またいつか。その時は、また私の所に泊まりたまえ。君達のために部屋は空けておこう。パウエル」


 「かしこまりました。常にご用意致しましょう」


 「うむ」


 どうやら次カルヴァースに来た時は、宿と食事について気にしなくていいようだった。伯爵の思いつきのような提案に、パウエルさんまでノリノリである。


 そんな伯爵達の様子に、ナインは笑みを浮かべる。


 (アルメガと同じく、ここもまた、僕達が帰ってこれる場所だな)


 目覚めてからたった二ヶ月ちょっとだが、また一つ、ナインにとって帰る場所が、帰ってこれる場所が増えた。


 だからこそ、別れの言葉はアルメガの時と同じにする。


 「いってきます!」


 元気良く、そして笑顔で、また会おうという気持ちを込めて。


 そんなナインの言葉に、伯爵も笑顔で答える。


 「ああ!いってらっしゃい!」


 「お気を付けて。皆様のお帰りを、我ら一同お待ちしております」


 パウエルさんが続き、それから船員さん達と侍女さん達が口々に「いってらっしゃい!」と声を上げた。


 ナイン達が船に乗り込み、出航するまで、彼らの声が止む事はなかった。

というわけで、これにて間章終了です。

次話から第三章「聖人と聖女と聖剣」となります。

正直、間章と三章を分ける必要はなかったのですが、

面倒臭いのでそのままにします。(いつか直すかも・・・


次回の更新は、来週水曜日です。

それでは、また。


星街海音

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ