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レゾンデートル  作者: 星街海音
第一章 紺碧と炎の剣
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017 始原都市アルメガ

今日も2話投稿です。


 「ナイン。ナイン・ウォーカーです。」


 メイにつけて貰った名前を口にする。

人に伝えると、やっとこれが僕の名前だ。という実感が湧いた。


 『ふふ。』


 メイが笑っていたが恥ずかしいので無視をする。


 「ナインか。いい名前だ。覚えていてよかったな。」


 門番のおじさんには覚えていたことだと思われた。

訂正してもややこしくなるので、そうですね。とだけ答える。


 「落とした物しか持ってないってことは金もないんじゃ無いか?」


 金・・・?

あ!お金!!

無いじゃん!!!


 「無い、ですね。」


 忘れてた。


 「やっぱりそうか。服もそれだしなぁ。」


 そうなのだ。

街には入れそうな感じになったが、お金だけじゃななくて服装もまずいのだ。


 顔の怖いおじさんは改めて僕の格好を見回すと椅子から立ちあがった。部屋を出るようだ。

遅れて僕も付いていく。

おじさんはその間も何か考えているような雰囲気だった。


 「うーむ・・・、あ!そうだ!」


 おじさんはドアノブに手をかけたところ突然大きな声をあげた。

どうやら何かに気づいたようだ。


 そうして急いで扉を開けて部屋の外に駆け出していった。

と、思ったら戻って来て笑顔で手招きしてきた。

笑うとさらに顔が恐い。


 「来い、いい物があったぞ。」


 最初の部屋に戻ってくると、おじさんは奥にある棚から何かを抱えてこちらにやってきた。

他の門番は不思議そうにそれを見ている。


 「これだこれ。見てくれ。」


 そういって、近くのテーブルの上に抱えていたものをどさどさと置いていく。


 「ガーデル。それ、落とし物と忘れ物か?」


 部屋にいた門番の一人がおじさんに声をかける。

おじさんの名前はガーデルというらしい。

名前を聞くのを忘れていた。


 「ああ。こいつ裸の上に記憶が無い状態で森にいたみたいでな。なんとかここに来たがほとんど何も持ってないみたいなんだよ。流石にこのまま街に入れるわけにもいかないから、ここから使えそうな物をあげようかと思ってよ。」


 ガーデルというらしいおじさんはほとんど一息にそう言うと僕の方を向く。


 「おっと忘れてたな。俺はガーデルだ。アルメガ警備隊で門番をやってる。よろしくな。」


 ガーデルは自己紹介をしてくれた。


 「よろしくお願いします。」


 「おう。そんでこれなんだが。この南門周辺の落とし物とか忘れ物でな。保管期間が過ぎて近々処分予定の物だったんだよ。どうせ捨てる予定だったし、お前に必要な物があったら持っていって問題ないぞ。」


 なんと。

これをくれるのか?

ガーデル。なんていい人なんだ。

それにしても僕は落とし物によく縁があるらしい。


 「ありがとうございます。正直かなり助かります。」


 すぐにお礼を言ってガーデルと他の門番さんと一緒にわいわい騒ぎながら処分予定品を漁り始める。


 「お、鞘があったぞ。サイズ的に使えるんじゃないか?」


 「サンダルあったよ。裸足なんだから履いていきなよ。」


 「マントがあるな。今着てるの穴空いてるしもう一着持っておきな。」


 皆んな楽しそうに勧めてくる。

僕はそれをありがたく受け取り、装備を整えていく。

しかし。


 「やっぱり服は無いですね。」


 僕は少し残念そうにそう言った。

処分予定品に服は無かった。

流石に服を落としたり忘れたりする者はいなかったらしい。


 「そうだな。・・・ちょっと待ってろ。」


 そう言うとガーデルは部屋の奥にある階段を登っていった。

そして少しだけ上でガサガサ音がすると、すぐにガーデルが何かを持って戻ってくる。


 「ほら。これ、やるよ。」


 ちょっとだけぶっきらぼうに言いながら手に持つ物を渡してくるので、僕は素直に受け取る。

そしてそれをテーブルに広げてみる。

黒いシャツと茶色いズボンだった。


 「俺の服だ。まだ着てないし洗濯してある。サイズはでかいがその格好よりマシだろ。」


 ガーデルの顔がちょっと赤かった。


 「ありがとうございます!!」


 本気で嬉しくて自然と声が大きくなってしまった。


 ガーデル。本当にいい人だ。

いつか必ずちゃんと恩返ししよう。


 そう心に決め、さっそくその場で着替え始める。

腰で縛っている紐を解き、フードを下ろす。

真っ白な長い髪がバサっと広がる。


 「「「「っ!?」」」」


 ガーデルたちがいた方から息を呑んだような音が聞こえた。

それを不思議に思い顔を向ける。


 四人がとても驚いた顔でこちらを見ていた。

僕は首を傾げる。


 『髪の色、目立つって言ったでしょ?』


 今まで黙っていたメイに言われて思い出した。


 「えっと、これは・・・。」


 「・・・その髪は目立つな。街中ではマントを付けてフード被っておけよ。」


 どうしようか焦っていると先にガーデルにフォローされた。


 「・・・わかりました。」


 「もしかしたら、その髪とかが理由で犯罪かなんかに巻き込まれて記憶を無くしたのかもな・・・。ほら、早く着替えちゃえ。」


 何やら都合よく勘違いしたガーデルに促され、急いで着替えを再開する。


 とくに変わった服ではないのですぐに着替えが終わった。

シャツとズボンを着てサンダルを履き。腰に剣を吊り下げて皮袋を背負い、マントを着けフードを被る。


 「大丈夫そうだな。それじゃあ話した感じ記憶が無い割には大丈夫だと思うが、街での注意事項とか伝えるぞ。」


 そう言うとガーデルは一つずつ注意事項を説明してくれた。

まぁ言ってしまえば大体は犯罪行為をするな、人に迷惑かけるな、街の中央は侵入禁止だ、みたいな事だった。


 「・・・わかったか?」


 「大丈夫です。」


 しっかりと頷く。


 「それじゃあ街の中に行くぞ。着いてこい。」


 最初に入ってきた扉とは反対にある扉に向かうガーデルについて行く。


 ついに街の中だ。


 先を歩くガーデルは扉を開くとこちらを振り返り、ニヤッと笑った。


 「ようこそ。始原都市アルメガへ。」

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