174 一日経って
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魔道具や倉庫の話で盛り上がった?ナイン達は、お茶とお菓子を用意すると昨日の事について振り返り始めた。
「一日経ったけどよ、よく考えなくても四人で対処しようなんて無謀だったよな」
そう言ってグレンは、テーブルに置かれたマフィンを手に取る。このマフィンだけでなく、テーブル上のお茶とお菓子は、メイドさんが持ってきてくれた物だ。言えば用意してくれるので、本当に贅沢に慣れそうで怖い。
彼の言う通り、今回の事は無謀の一言に尽きるだろう。とはいえ、それも仕方なかったが故だ。協力を仰ごうにも、知り合いも伝手も無い。誰が敵かもわからなかった。その上、事件について色々と判明していくにつれ、時間が限られていたりもした。結果として、僕達の出来る範囲も限られてしまった。
「大変だったね」
「そうですねぇ。ギリギリでしたね」
昨日一日の事を思い出したのか、メイとルチルは疲れた顔をしながらそう言い合った。ギリギリだったのは間違いないが、大変だったの一言で済ませられる内容では無かったと思う。
潜入や戦闘だけでなく、それらが終わってからもまた大変だったと思い出す。館中を駆け回り、昏睡者を覚醒させまくる。治癒魔法の使えないナインとメイは、ひたすら覚醒ポーションを飲ませる役だったが、それでも疲れるものは疲れた。
(そういえば、館の人達ってどうやって昏睡させられたんだろう)
邪魔をされないようにするためだろう。と理由は推測していたが、方法については話していなかった。その辺はどうなのか皆んなに聞いてみる。
「たぶん、呪怨魔法だよ」
「呪怨魔法って言うと、闇魔法の派生だっけ?」
「そうそう。あれって呪いとか気絶とか、そういう精神体に影響を与える魔法だからね。それで意識を刈り取ったんだよ。闇属性の魔法だから、使ったのはあの一番強かったグラベルって男じゃないかな?」
なるほど、そういう事か。メイの推測と説明に、ナインは納得する。呪怨魔法とは、中々に恐ろしい魔法のようだ。だが戦闘中に使ってはこなかったなと思い出す。そこんとこどうなの?
「呪怨魔法は発動まで時間がかかるんだよ。だから一対一の戦闘では、まず使わない、て言うか使えないね」
「て事は、三対三だったら使ってきた可能性があったのか・・・。その辺も含めて、洗脳の魔眼対策で一対一を選んだのは良かったんだな」
「そうだね。連携されてたらまず負けてたね」
結果的に見れば英断だったね。と敗北の可能性を口にしたメイ。それを聞きナインは、解消された疲れがまた襲いかかってきたように感じた。
「・・・よく勝てたね」
「俺らはまだマシだったぞ。ジャグラとリアンヌはCランクだったからな。ヤバかったのはお前が戦ったグラベルだろ。あいつBランクの62レベルだったんだろ?よく勝ったな」
ナインの呟きに、それはお前だろ。とグレンが返す。
確かに、よく勝てたなと自分でも思う。だが勝てた理由は、何となくわかる。まず一つは、自身が魔人であったため傷を負っても再生し、さらには洗脳が効かなかったという点だ。
二つ目は、グラベルの肉体がヒト基準であったという点だ。簡単に言ってしまえば、魔物とヒトでは、素の肉体の強さが違う。魔物の方が圧倒的に頑強なのだ。鱗や毛皮、筋肉量や質が違うからな。対してグラベルは、魔力はBランクの魔物並みにあったが、肉体はヒトと変わらなかった。Bランク魔物であったなら、ナインの攻撃はまともに通らなかっただろう。だが、Bランクのヒトならば通るのだ。
三つ目はシンプルだ。運が良かった。これだけだ。グラベルがこちらを舐めていた事。初手をナインが奪った事。相手の想定外の攻撃を用意出来た事。連携されなかった事。まぁ他にもあるが、そんな感じに色々だ。
そして最後。メイによる認識外からの不意打ちだ。正直、卑怯な手ではあった。だが、あれのおかげでトドメをさせた。あの一手も、重要な要素だったと言える。
自分が勝てた理由をつらつらと話すナイン。すると、それを聞いたグレンは、何となくだがナインの気持ちを察した。たぶん勝ちはしたが、ただ運が良かったくらいにしか思ってねぇなと思っているんだろう。と。
「まぁ、色々理由があったのはわかった。運が良かったのもわかった。第三者による不意打ちもわかった。だがよ、勝ちは勝ちだ。俺達はルールの決められた決闘をした訳じゃねえ。負けた方が全てを失う、殺し合いをしたんだ。だから勝った事を誇れよ。じゃねぇと、敗北に納得して死んでったグラベルに失礼だ。色々やらかした奴とはいえな」
確かに、運やら何やら、こちらに有利な部分が色々あった。だがルール有りきの決闘では無く、純粋な命の奪い合いにおいて、運は重要な要素だ。そして自身が勝利し生き残ったのならば、その勝利を誇らねばならぬ。それが勝者の責務だ。なにせ敗者は、そこで終わりなのだから。
(そっか、そうだな。理由ややり方はどうあれ、僕が勝った)
グレンの言葉に、ナインは考えを改める。
「わかった。ありがとう、グレン」
「気にすんな」
ナインの礼に左手をパッと振ると、柄じゃねぇ事しちまったぜ。と、呟くグレン。そんな彼の姿に、(いや、君らしいよ)とナインは口に出さずに呟いた。
「そういえば、グラベルが死ぬ間際に、『目的を知るのは、王とその側近である八人の使徒のみだ』って言ってたよね?」
グラベルとの戦闘後、ナインはラグナロクの目的を聞いていた。その際、グラベルは自身の事を駒の一つと言い、目的を知るのは一部のみと言っていた。結局、目的は判明しなかったが、目的を知るものは判明した。
「言ってましたね。それにしても、王と八人の使徒ですか・・・。将軍クラスって話でしたよね。強そうです・・・」
「実際強いと思うよ。最低でもSランクはありそうかな」
「Sランク・・・。ありそうですね。確か、アクエリアスの将軍クラスである騎士団長もSランクだったはずです」
「国の最高戦力が八人かぁ・・・。いやぁー、ヤバいね」
ルチルとメイが使徒の強さについて話し出す。Sランクとは、レベルで言えば91から100くらいだ。当たり前だが、レベルは上がれば上がるほど必要経験値量も増え、上がりにくくなる。それ故に、世界中で見てもBランククラスならそこそこいるが、Aランククラスの者ですら多くない。Sランクなどもっと少ない。先程メイが言ったように、国の最高戦力である騎士団長や将軍くらいだ。だが、ラグナロクにはそんな最高戦力クラスが八人いる。どう考えてもヤバい強さだ。
「確かにやべぇけどよ。結束力とか愛国心みたいなのがあるかは微妙だぜ?」
使徒の強さに三人が少しだけビビっていると、グレンが一部を否定した。どういう事だ?
「俺が戦ったジャグラだけどよ、あいつは人質を取られて強制的に魔人にされた奴だったんだよ」
そう言うと、ジャグラが話したラグナロクの事を話し始めた。王による魔人化。反抗を阻止する為の人質。会う事は出来ず、一年に一度程度、遠目から見るだけ。魔石に施された逃走防止の細工。結果として芽生える、ラグナロクに対する恨みと怒り。
ジャグラから聞いた時の感情を思い出したのか、ゆっくりと話すグレンの眉間に、深い皺が刻まれる。気持ちはわかる。聞いているナイン達も、胸糞が悪いと感じていた。
「・・・そんなの、奴隷と変わらないじゃないか」
全てを聞き終えたナインは、その最低な所業に吐き気がした。
恨みと怒りを募らせ、それでも裏切る事は出来ず、強制的に外道へ堕とされる。
ラグナロクという国はどこまでも最低であった。
「俺もそう思う。あの時、ジャグラと戦って俺が勝った。だがよ、砂粒一つも嬉しくなかったぜ・・・」
グレンは、彼を斬った事を後悔してはいない。そこではなく、斬る事しか出来なかった、自身の力の無さを嘆いているだけだった。
もっと自信の手が長ければ、救えたかもしれないと。たらればだな。とグレンは頭を軽く振り、モヤモヤした感情と思考をリセットする。
「今回は、イース大陸侵攻の為の暗躍だったがよ、ラグナロクの最終目標は何なんだろうな」
そうして頭をリフレッシュさせたグレンは、最終的にラグナロクは何をしようとしているのか。と疑問を口にした。
「最終目標か・・・」
「何だろうね」
「イース大陸への侵攻、という事は国としての侵略ですよね」
グレンの言葉を受け、ナイン達は頭を捻る。うんうんと考えを続け、ボソリと呟く。
「世界征服・・・とか?」
「あー、有り得そう」
「色々な国に手を出してるみたいですからね」
ありそうありそうと、ナイン達は盛り上がる。だが、そこでグレンが別の予想を述べた。
「世界征服もありえそうだけどよ。俺は、終わりの国っつうくらいだから、世界を終わらせようとしてるんじゃねぇか?って考えたぜ」
「まさかー。終わらせてどうするんだよ。世界が無くなったら何の意味も無くないか?」
流石にそれは無いだろうと、ナインが否定する。
「まぁそうだよな。だがもし、奴らにとって何らかの意味や理由があったらどうする?」
グレンは、同意しつつも可能性を口にする。
何らかの意味や理由。これについてもナインは、まさかと否定しようとした。だがしようとして、思いとどまる。
(ラグナロクについては、正直何もわかってない。そんな状態で否定出来るか?もしかしたら本当に何か意味や理由があって世界を・・・)
ナインはそこで思考を止めた。
もしかしたら。そんなものは、考えれば考えるだけ思い浮かぶものだ。可能性を考えるのは大事だが、そこに振り回されてはいけない。
「・・・可能性の話だろ?」
有り得る、有り得ない。どちらにしても、今は何もわからない。ナインが答えると、グレンは「そうだな」と返してきた。
その後、ラグナロクの最終目標については、何の予想もつかぬまま別の話題に変わっていった。
予約投稿時、バスケを見ています。
凄い展開ですね。ドキドキです。
また明日。