173 魔道具マニアと倉庫
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時刻は夜七時半。
ジョブやら観光やらを済ませたナイン達は、夕方頃に領主館に戻り、その後すぐに夕食を頂いた。昨日の軽食と今日の朝食も中々の量と美味しさだったが、夕食は段違いだった。豪華。この一言に尽きるものであった。
「あのステーキはヤバい。また食べたい」
「俺も」
「私はデザートに出たケーキ!」
「私もです!使われたフルーツ。あれ、中央大陸産のイチゴでしたよ!確か、かなりの高級品だったはずです!」
お腹の中へと消えた夕食の光景と味を思い出し、あれが美味しかった、これが美味しかったと盛り上がるナイン達。
正直、豪華な食事が次から次へと運び込まれた時は、本当に食べて良いのか・・・?と少しだけ、ほんの少しだけビクビクした。唯一手放しで喜んでいたのは、隠れ貴族であるグレンだけだった。そして、色々なものを食べてきたであろうメイは、何となく予想できたがナインとルチルと同じくビクビクしていた。経験はあっても基本は庶民なのだろう。
「贅沢に慣れそうで怖い・・・」
口に残る味の余韻に、ナインがボソリと呟く。
僕達の領主館滞在は、おそらくだがまだ続く。船のお願いや魔石、解体もあるが、それ以外にも褒賞があるらしいからだ。ただ、今の領主館は今回の事態の対処で忙しい。故に、褒賞の用意に少し時間をくれ。と言われていた。一応その際に、面倒をかけることになるから宿に移るよ。と提案した。したのだが、執事長に全力の拒否をされた。
『皆様方は、この町と私共を救っていただいた大切な方々です。そんな方々をおもてなしせず、宿に泊めるなど出来かねます。ぜひ、町を出るまではこちらでゆっくりしていってください』
と、有無を言わさぬ表情をして言われた。
町を出るまでとなると、船の手配が済むまでとなる。船は、最低でも二週間は時間を頂きたいと言われているので、およそ半月の贅沢生活になるだろう。
「そうですね・・・。正直、当分干し肉とかは食べたくないです」
「だねぇ・・・、マジックバッグがあるとはいえ、容量とか重量を考えるとどうしてもね。普通の食料は嵩張るし、調理器具も手間も必要になるし」
干し肉や乾燥野菜なんかは、その名前通り乾かした事により体積や重量が減っている。それ故に、量を沢山持てるのだ。具体的には、大きな袋にまとめて入れてからマジックバッグの中に収納。という感じだ。
対して、普通の食材。生肉や生野菜などは嵩張る上に重い。そしてメイが言うように調理器具が必要になる。もちろん調理器具を使わずに料理をしようと思えば出来るが、ぶむちゃけたいしたものは作れない。食材を無駄にする事にもなる。
故に、一般的な冒険者というのは干し肉や乾燥野菜をメインとしている。調理器具も、持ったとしても鍋かフライパンくらいだ。僕も鍋とフライパンは持っている。生鮮食材や調理器具を持ち歩くのは、マジックバッグの容量が大きいBランク以上の高ランク冒険者がほとんどであった。
ちなみに、ルチルのマジックバッグは冒険者では珍しい容量の大きいリュックタイプだ。なので、彼女であれば調理器具や生鮮食材を持ち歩いてもおかしくないのだが・・・。
「七・・・、六割魔道具です・・・」
と言う具合であった。何でそんなに・・・?というか、服や予備の装備を考えると、容量ギリギリまで魔道具が埋め尽くしてそうだ。
「・・・持ちすぎじゃない?何をそんなに入れてるのさ?」
ちょっと気になる。そう思って口に出したが、これが失敗だった。メイから「あ、バカ・・・」と言う呆れたような声が聞こえる。
ルチルの瞳がギラリと光ったような気がした。
「ふふふ、よく聞いてくれました!それはですね!まずこれです!これは、瞬間冷却ボックスといいます!何とこれ、この箱に入れると僅か五秒でキンキンに冷やしてくれる優れ物です!ちなみに同型で別タイプの加熱型がこれです!こっちは五秒で加熱してくれます!次にこれです!これは小型全自動洗濯機という、洗濯物を入れてスイッチを押すだけで水を出して洗濯してくれる凄い魔道具なんです!洗濯魔道具は色々な物がありますが、これほどの性能で小型な物はかなり珍しいんですよ!それで次は・・・」
水を得た魚のように、バッグから魔道具を取り出したルチルが生き生きとしながら紹介と解説を始めた。話す毎に勢いが増し、息継ぎしてるのか?と思うほど喋り続ける。
先程ボソリと呟いたメイに、チラッと視線を送る。視線に気付いたメイは、首を横に振り、諦めろとでも言いたげな表情をしていた。過去に彼女もやらかしたのかもしれない。
グレンは表情を変えず、真面目な顔をしてルチルの魔道具解説を聞いていた。グレンも魔道具が好きなのかな?と思ったが、本心はやはり違うようだ。テーブルによって見えない部分で、彼の足がガクガクと震えていた。どうやら、そこまで魔道具に興味は無いが、聞いてあげないのはかわいそうだとでも思ったのかもしれない。グレンの優しさが出ただけだった。
「・・・以上が今持ち歩いてる魔道具です!」
やっと終わったようだ。スッキリしたようなハツラツとした笑顔を浮かべるルチル。客室内には、説明のために取り出した魔道具達が所狭しと並べられていた。
一時間。一時間も、ルチルは喋り続けていた。おかげでナイン達は、ソファーの上でぐったりしていた。
とはいえ、何個か面白い物はあった。最初の冷却ボックスや加熱ボックス、小型洗濯機だけじゃなく、自動かき混ぜ機というものだ。出された時は、(普通に混ぜれば良くない?)と思ったが、調薬や調合などに重宝するらしい。なんでも、ランクの高い薬の制作時には、長時間のかき混ぜ作業があるからだとか。まぁ、魔道具を所持するルチル本人が<調合>スキルを持っていないので、意味は無いのだが。
もちろん、それいるか?と本気で思う物もあった。全自動野菜洗浄機だ。名前の通り、野菜しか洗えない。ボックス内に野菜を入れ、スイッチを入れると中に入れた野菜が水で洗われるものだ。ただし、構造上の問題なのか魔力消費量が洗濯機並みに多いので、一個洗うと魔力切れになる。どう考えも、普通に水の魔道具を使って自分で洗えばいいだけだった。
ルチルの発言で気になる部分があったナインは、ソファーにぐったりとしながら確認してみた。
「今持ち歩いてるって何?まだどこかにあるの?」
実家とか借家にでも置いてあるのか?と考えるナイン。だがそうではなかった。
「はい。他の魔道具はギルド倉庫に預けてます」
「ギルド倉庫?」
何だそれ?ギルドにそんなのあるのか?
初めて聞く名称に、ナインはガバッとソファーの背もたれから体を持ち上げると、首を捻る。
「あー、Cランクから使用可能になるサービスだからまだ教えてなかったね」
隣に座るメイは、ぐったりしていた体を起き上がらせるとギルド倉庫についての説明をしてくれた。
ギルド倉庫とは、冒険者ギルド、商業ギルドが有する古代の魔道具の事であった。正式名称は、亜空間倉庫というらしい。各ギルドど一つずつ所有し、三つ目は見つかっていない。そしてその性能だが、聖剣とは別の意味でヤバかった。
まず、魔道具本体だが、サイズが家一軒くらいある扉が付いた大きな箱らしい。この本体は、ギルドの本部にあるとのこと。そして本体だけではなく、分体が存在する。こちらは、見た目が同じでサイズが大体人間一人分くらいだ。この分体はいくつも存在し、世界中のギルドに設置されているとの事。
次に使い方だ、と言ってもやり方はとてもシンプルだ。物をしまう時は、本体か分体に付いた扉を開け、中に何かを入れるだけだ。逆に取り出す時は、中に手を入れ、取り出したいものを指定するだけである。ちなみに、盗難防止機能として、入れた人にしか出せないようになっているらしい。
最後に性能だ。とはいえこれもシンプルだ。本体内部に広大な亜空間があり、その亜空間には本体、分体の扉からしかアクセス出来ないようになっている。という感じだ。この亜空間だが、広大というだけあってかなり広いらしい。どのくらい広いのか、過去に調べられたらしいのだが・・・。
「は?限界が不明?」
「そうそう。調べても調べてもわかんなかったんだってさ」
どれだけ調べても、亜空間内部の限界がわからなかったらしい。故に、今では調べても無駄だと思われているのだとか。
上記の容量と、分体を通しての入出、先程述べた盗難防止の識別機能、これらの圧倒的とも言える性能が亜空間倉庫の持つ機能であった。
「・・・なるほど。で?Cランクからしか使えないのは何でだ?」
凄まじい性能と利便性を理解し、是非使いたいと思ったナインは、何でそんな制限があるんだと不満に感じた。
「・・・さあ?Cランクから一人前だからとかじゃない?」
そこに疑問を持った事が無かったメイは、たぶんこんな理由じゃないといった様子で答える。
現在のナインの冒険者ランクはD。メイはEである。グレンとルチルはCランクなので、ギルド倉庫を使用可能だが、ナインとメイは使えない。
(ふむ・・・、どうにかして早くランクを上げたいな)
特にしまいたい物があるわけでも無いのだが、ただ使ってみたい。理由としてはそれだけだ。
褒賞の件があるから、出来れば町の外には出ないでほしい。と執事長を通して領主に言われているのだが、そんな事を忘れたナインは、明日からギルドで依頼を受けてみようかな。などと、ランク上げに思考が持っていかれていた。
そんなナインの思考を、メイは正確に見抜く。
「町の外には出られないよ」
ジトっとした目で釘を刺された。
「わ、わかってるよ。考えただけだ。実行はしない」
実行する気満々だったが、言えば今度は釘では済まなくなる。ナインは少しだけしょんぼりとしながら、「ギルド倉庫は、ノースト大陸までお預けか・・・」と、隣のメイに聞かれないよう、声に出さずに呟いた。
タバスコが好きです。
食べるとお腹を壊しますが
タバスコが好きです。
また明日。