172 聖剣国家
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「なぁ・・・、さっき、聖剣がどうたらって聞こえたんだけどよ。どういう事だ?」
神妙で、それでいて真剣な表情をしたグレンは、先程までしていたメイとの会話の内容を聞いてきた。
「ん?ああ、なんかさ、ノースト大陸のアクエリアスに聖剣の勇者が現れたらし「誰だ?何の聖剣だ?どこの国だ?」うわぁ!?」
まだ話している途中だったのだが、そんなものは知らんとばかりに近づきながら問いただしてきた。これにはナインも何だ何だ?と若干慌てふためく。側にいたルチルもあわあわとしていた。
目の前にまできたグレンから距離を取り、聞こえた会話を掘り起こす。
「ま、待て待て!え、えーと確か・・・、風の、国の?とか言ってたはず。それ以上は聞こえなかった。誰とかどの聖剣とかはわかんない」
「風の国?緑風国か?・・・なら違ぇか」
ナインの言葉にブツブツと呟き始めたグレンは、何かが違うとわかると途端に落ち着きを取り戻した。
聖剣と勇者が、彼にどう関わるのかはわからない。彼の過去に関係した何かなのだろう。でも、僕達はそれを聞こうとは思わない。とはいえ、もちろん気にはなる。だが誰にだって秘密の一つや二つあるものだ。故に、本人が話したくなったらでいいのだ。
「落ち着いたか?」
「あ、ああ、すまん」
「気にするな」
どうやら落ち着きを取り戻したようだ。その様子に終始どうしたら・・・と、慌てていたルチルもほっとしていた。だが、まだ少しだけグレンの雰囲気が硬く見えた。
こういう時は、何か別の話題に集中した方がいい。そう考えたナインは、先程グレンが口にしたとある名称について聞いてみる事にした。
「なぁ、緑風国?ってなんだ?」
「んあ?ああ、聞いてたのか」
「うん。で、国なのか?」
「そうだ。緑風国ってのは、ウェス大陸南にある聖剣国家だ。正式名称は、緑風皇国フラガラッハって名前だ」
(聖剣、国家?)
またも飛び出してきた聖剣に関わる何かに、疑問と驚愕が同時にやってきたナイン。聖剣はその凄さ故に、勇者だけで無く国家にまで影響があるようだ。
聖剣国家。間違いなく、その言葉通り聖剣と国に大きな関わりがあるのだろう。たぶんだが、国に勇者、もしくは所持者がいるのではないだろうか。とそこまで考えて一つ気づいた。
(国に所持者がいたとして、素直に留まるだろうか?・・・ふむ、まず無いな。話に聞くだけでも凄い力なんだ。自分にとって都合の良い国に行ってもおかしくない。となれば・・・)
自身で国を選べない人物。生まれながらに国に縛られた者。国家の中枢に関わる存在。
(王族とかか・・・)
たぶんそうだろう。
「・・・王族が聖剣を所持している国なのか?」
予想の答え合わせをするため、グレンに確認してみる。
「よくわかったな。そうだ。聖剣国家は、その名の通り、王族が所持者となり聖剣を所持している国の事だ。ちなみに、フラガラッハってのは、風の聖剣の名前だ」
「やっぱりか。王族が代々受け継いでいく感じか?」
「ああ、基本は王から次期王である王太子にだな」
王族の中でも、王にのみ受け継がれるもののようだ。と、そこでふと疑問が浮かぶ。
「あれ?でもさ、所持者の条件って聖剣によって違うんじゃないのか?何で聖剣の継承ができるんだ?」
連続での質問な上に話題がずっと聖剣なので、グレンには申し訳無いが気になる。だが当のグレンは、もう完全に落ち着いたのか、いつも通りの雰囲気になっていた。寧ろ今の彼は、ナインに対して知識を語るのが楽しそうにも見える。まぁ結果オーライだ。
「あー、何つうのかな、聖剣の中でも炎、水、風、地に関しては、条件が似てたり同じだったりらしくてよ。その条件っつうのが、気に入った所持者とその血筋なんだとよ」
血が薄くなったり、王族から離れるとダメらしいけどな。と追加で補足をいれるグレン。所持者は、ほぼ王の直系であるらしい。降嫁したり分家になったりすると所持者には選ばれないそうだ。
ははー、そういう事か。とグレンの説明を聞いたナインは納得した。その条件なら継承は可能だ。ただその条件だとすれば、血筋が絶えてしまった場合、全く別の所持者が選ばれるようになる。という事だろうか?
この事についてもグレンに聞いてみた。
「その通りだ。王とその直系が死亡した場合、所持者になれる存在が完全に消える事になる。そうなると、聖剣はその場から消えるらしい」
「消える?どこにいくんだ?」
消滅、ではないだろう。ならどこに?
「わからん。山の中か森の中か湖の中か、はたまたダンジョンか。どこに行くかは知らねえ。一応は人が到達可能な場所らしいけどな。そこで新たな所持者を待つんだそうだ」
「見つけた人が所持者に選ばれなかったら?」
「そうなったらまた消えるのさ。そんで別の場所に再出現する」
聖剣とは何とも面倒くさい武器のようだ。圧倒的に強いくせに、いや、強いからなのか?所持者を選ぶわ、消えるわ、また消えるわとやりたい放題だ。
「欲しいのか?」
「いらない」
いくら強くても、そんな面倒な武器はいらない。それに、所持者に選ばれなかったら本気でショックを受けそうな気がする。うん、いらない。
ナインは自身の中で、聖剣を面倒くさい武器と位置付け、心の底から拒否した。
「それがいい。それに、あんなもん探して見つかるもんじゃねえからな。時間が勿体ねえよ。探すだけ無駄だ」
探さないほうがいい。と言ったグレンは、表情から薄っすらと嫌悪感を出していた。やはり、彼は聖剣と何らかの関わりがあるのだろう。そして聖剣が嫌いなようだ。
聖剣の話をして、何となくだがグレンについての予想は出来た。合っているかはわからないけど。とはいえさっきも言ったが、本人が話したくなったらだ。そしてその機会は、たぶんだがそう遠くもないだろう。
「そうするよ」
「ああ」
「ただいまー。・・・どしたの?」
暢気な笑顔を浮かべたメイが、ジュース片手に戻ってきた。彼女の側には、いつの間にかルチルもいた。そしてジュースを持っている。どうやら手持ち無沙汰になり、メイのところに行っていたようだ。
そんなメイは、戻ってきてすぐにナインとグレンの様子を見て首を傾げる。
「何でもないよ。それより、僕達の分は?」
「半分ずつだよ!」
そう言って飲みかけのジュースをグイッ!と僕に突き出してきた。コップには何故かストローが二本挿さっている。
これは、そういうことなのか?
(えー・・・、こんな町中で嫌なんだけど?)
そして隣のルチルにいたっては、「え!?わ、私はグレンさんと半分ずつなんですか!?え、えと、恥ずかしいです・・・」と変な勘違いを晒している。対してグレンも、「い、いや、ルチルが飲んでいい!」とテンパっていた。
お前、どうすんだよこの空気。
いきなり訳分からん空気に変えられ、ナインは溜息を吐く。
「・・・買ってくるわ」
「あ、俺も!」
突き出されたジュースから視界を外したナインは、変な空気に耐えられなくなったグレンとともに、ジュースの屋台に向かう。
後ろからは、「何で!?せっかく二本挿してもらったのに!」という声がしたが、町の賑わいのせいで何も聞こえなかった事にした。
冬にした引っ越しで服を大量に捨てました。
ですが捨て過ぎたのでしょう。我が家の衣装ケースの中には、夏服が数着しか入ってませんでした。
また明日。