168 一緒に
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朝食後、すぐに客室を出たナイン達は、訓練場でレッサーキマイラを預けると早々に領主館を後にした。
「まだまだ祭りの片付けが終わらなそうだね」
堅苦しい貴族街を抜け、賑やかな大通りへと出てくると、町中は絶賛後片付け中の町民でごった返していた。だがその雰囲気もまた、祭り特有なのだろう。昨日で終わったと言うのに、町は笑顔で溢れている。
これが、僕達の守った光景だ。という思いが、ナインを含めた仲間達の心に実感として浮かぶ。
とはいえ、そんなしんみりとした感情もこの町の雰囲気では長続きする事は無い。
「ほーらルーチェ。これが町だぞー」
「みゃー!」
ルーチェを頭の上に乗せたナインが、まるで赤子を相手にするかのような猫撫で声を出し、風景を堪能させていた。出会った時のどうしたものかといった困惑はどこへやら、といった溺愛具合である。
ちなみにルーチェがヒト種の町を見た事があるかは、確認していない。だがこのテンションの高さを見るに、見たのは初めてだったのだろう。興奮し過ぎて頭に爪が刺さっているが、それもまた仕方ないと言えよう。
「そんじゃまずは冒険者ギルドに行くぞ。ルーチェの従魔登録をしなきゃなんねぇからな。遊ぶのはその後だ」
「はーい」
「みゃーん」
グレンの言葉に気の抜けるような返事をする一人と一匹。そんな2名?の様子にグレンは呆れ顔を浮かべ、メイは微笑ましそうな表情をしていた。
ルーチェは精霊獣なので従魔、つまりはテイムされた魔物とは違う。だが、そもそも精霊獣と契約する者がほぼいないため、冒険者ギルドでは、精霊獣との契約も従魔と同様の登録方式として統一されているらしい。そして従魔や精霊獣というのは、ギルドや役所に登録をしないと、場合によっては主人や契約者が罪に問われる事があるとのこと。故に、登録は義務であるのだそうだ。
これもまた仕方のない事だろうと、昨日説明を受けたナインは納得した。従魔というのは魔物だ。いくら従属契約を結んで大人しくなっていたとしても、側から見たところで従属されているかどうかなんて判断が付かない。一般人からすれば恐ろしい存在である事は変わらないのだ。だからこそ、登録というものが必要となる。登録をすると、従魔証という物が渡される。その従魔証を、首輪や足輪、耳輪などと合わせて装具とし、自身の従魔に装着させるのだ。そうすれば、この従魔はきちんと登録された従魔ですよ。という風に、側から見て分かるようになる。
『まあ、自分のためっつうより、周りのための登録。って感じだな』
従魔登録についての説明を受けた際、グレンは登録の必要性をそのような言葉で表して締め括った。
そうして町を歩く事20分。ルーチェに、町の風景を堪能させていたナイン達は、冒険者ギルドの前に到着した。
道中、真っ白な頭の上に白金色の子猫がいる、という姿はやたらと目立っていたが、風景を見せる事に夢中になっていたナインは、その目立ち具合に全くと言って良いほど気付く事は無かった。一緒に歩いていたメイ達が、若干恥ずかしそうにしていた事にも気付く事は無かった。
さて入ろう。とギルドの入り口に向けて足を進めようとしたナイン達。だがここで、ずっと思い詰めた様な表情で下を向いていたルチルが、バッ!と音がしそうな勢いで顔を上げた。
「あ、あの!」
ギルドの中に入ろうとしていたナイン達を、ルチルは大きな声で呼び止めた。振り返ったナイン達は、決意を固めたような表情でこちらを見るルチルに、どうしたのかと頭を悩ませ、心配する。
「どうした?」
グレンがいつもより少しだけ優しげな声色で、ルチルに尋ねる。緊張で上手く言葉が出ないのか、あわあわと口を動かしては何とか話そうとするルチル。数秒後、覚悟を決めたのか、彼女はゆっくりとしたペースで自らの想いを口にした。
「私も、皆さんのパーティーに入れてください」
パーティーへの加入希望。それが、ルチルの望みだった。
(そっか。これを言おうと思ってたからか)
町に出てからのルチルは、口数がとても少なかった。きっと緊張と不安が、彼女の胸中を埋め尽くしていたのだろう。だからだろうか、今のルチルの瞳にも、緊張と不安の色が見える。
パーティーの加入。これに、否という答えなど存在しない。だが、それはそれとして聞いてみたくはあった。
「理由を聞いても?」
僕達のパーティーの加入し、そして共に行く事を望んだ、その理由を。
決して意地悪では無い。ただ、本当に聴いてみたかった。それだけだ。ルチルもそんなナインの気持ちがわかったのだろう。緊張と不安の色が少しだけ消えると、彼女はポツリポツリと話始めた。
「私、ずっとソロで活動していました。その方が楽だから、稼げるからって。でも、今回この町にやってきて、あんな事件に巻き込まれて・・・。逃げていた時、私は、自分で選んだソロという立場を後悔しました」
彼女の口にする想いを、ナイン達は黙って静かに聞く。ルーチェも空気を読んだのか、動く事をやめてルチルへ視線を向けていた。
「後悔したからパーティーに入りたい。そういう訳ではありません。・・・逃げて、逃げて、そして隠れる事しか出来なかった。そんな私を、皆さんは追いかけて、見つけて、手を差し伸べてくださった。それが、凄く嬉しかった・・・」
その時の事を思い出したのだろう。ルチルは、ふふっと笑うと、笑みを浮かべたまま続けた。
「それから、信じてくれた上に匿ってくれました。その後も、解決するために、一生懸命悩んでくれました。私・・・、不謹慎だとは思いますがこの二週間、大変でしたけど、でもそれ以上にとても楽しかったんです。これが、仲間なのかなって・・・」
ルチルの素直な想いを受けたナイン達は、その顔に小さな笑みが浮かびあがる。自分達の行動によって彼女が、嬉しかった、楽しかったと喜んでいたからだ。
「そう思ったら、お別れは嫌だって、もっと一緒にって考えていました。これが、え、えと・・・、理由です」
抱えていた想いと考えを、一生懸命話したのだろう。最後が何かふわっとした感じになっていた。だが、彼女の気持ちはしっかりとナイン達に伝わっていた。だからこそ、パーティーリーダーでは無いが、ナインが仲間を代表してこう答える。
「わかった。歓迎するよ、ルチル」
彼女のパーティー加入を承諾する。
「俺もだ」
「私も!」
「みゃん!」
続いてグレンとメイ、それから何故かルーチェも、ルチルの加入を歓迎をする。
皆の承諾と歓迎を受け、ルチルはまるで花が咲くかのようにとても嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「皆さん・・・、ありがとうございます!」
余程嬉しかったのだろう。満開の笑顔を作るルチルの瞳から、ポロリと透明な雫が零れ落ちる。
「改めて、ルチルミナ・ファーライドです!よろしくお願いします!」
泣き笑いを浮かべたルチルは、自身の名を元気いっぱいに口にした。
今ここに、魔法使い、ルチルミナ・ファーライドが、自由なる庭園に加わった。
暑さで少し調子が悪いです。
また明日。