161 忘れ物と気配
お待たせしました。
本日より、間章スタートです。
それと同時に、本日7月11日で、初執筆、初投稿から半年となりました。
この先も一生懸命頑張り、最後まで書き切りたいと思いますので
是非とも応援のほど、よろしくお願いします。
「あのタイミングで言うことじゃ無いと思うんだよなぁ・・・」
地下へと向かう階段を降りながら、ナインは愚痴るように呟いた。ラグナロクによる悪の計画を打ち砕き、超えた証の花火を見ている最中での、メイによる物欲丸出しな発言。はっきり言うがぶち壊しである。
「俺もそう思う」
「私もちょっと・・・」
「ごご、ごめんて・・・。でも流石にこれ以上放置すると劣化しちゃうからさ、仕方なかったんだよ」
2人にまで言われ、吃りながらも言い訳を吐くメイ。言っている事はわかる。貴重な素材だ、劣化させてしまってはもったいない。だがそれはそれ、これはこれだ。もっと言い方やタイミングがあったはずだった。まぁそれをわかっているからこそ、一応は謝罪の言葉を口にしていたが。
現在ナイン達は、メイが倒したレッサーキマイラを回収するために、地下独房へと向かっている。
客室を出る際、ちゃんと扉の前にいたメイドさんに事情は説明したので、館内を動き回っても問題無い。無いのだが、事件の対応で右往左往している兵士や使用人がいる中、自由にしているのはなんだか申し訳なくなってくる。
とはいえ、そこは流石領主である。屋敷内に詰めている兵士と使用人の数が多い。なので手は粗方足りているらしい。故に僕達は気にせず、けれど邪魔にならぬようさっさとレッサーキマイラを回収して、さっさと客室に戻ることを優先する。
数分で階段を降りきり、つい数時間前に通った地下独房にやってきた。やってきてすぐに大きな黒い塊が目に入る。
「改めて見てもでけぇな」
「だなぁ。アクアタイガーと同じくらいかな?」
「たぶんそんくらいあんな」
伏せをするかのような体勢で絶命するレッサーキマイラを見ながら、ナインとグレンはそのサイズ感に1ヶ月半くらい前を思い出す。
ユニーク個体のアクアタイガー。ラグナロクの計画の一部として、アルメガ周辺の東の森に放たれた魔物だ。冒険者パーティーを追いかけていたところにナインが割って入り、途中から参戦したグレンと共に倒した相手である。そんなアクアタイガーを思い浮かべ、目の前にいるレッサーキマイラと比べる。
(うん。やっぱり同じくらい大きいな。それにしても・・・、傷があんまり無いな。)
レッサーキマイラの死体を眺めていたナインは、その体に刻まれた傷の少なさに気づいた。
「ん?傷が少ねぇな」
隣で眺めるグレンも同じことに気づく。
「やっぱり少ないよね」
「ああ。皮の表面に擦ったような後はあるが、切れてはいねえな。ん?手には刺し傷があんな」
グレンはレッサーキマイラに近づき、体表や四肢を確認していく。素材の状態と、どうやって倒したのかを調べているようだった。だがわざわざ調べなくても、倒した本人から聞けばいいと考えたナインは、ルチルとお喋り中のメイに声をかける。
「なぁメイ。これ、傷少ないけどどうやって倒したんだ?」
「んー?あーそれはねえ。両手両足に拘束用に調整した魔力剣を打ち込んで、動けなくしたところに上からとどめ用の魔力剣を心臓にズドン。だよ」
そう言って簡潔に説明したメイは、すぐにルチルとのお喋りに戻っていった。
「だってさ」
「なるほど。この四肢の刺し傷は、その拘束用の魔力剣による傷か。とどめは上からってことは、背中に心臓を突いた時の傷があんのか。・・・どこだ?」
背伸びまでしてレッサーキマイラの背中を覗き込もうとするグレン。だが、レッサーキマイラが大きすぎて、全く見えないようだった。
仕方ないと考えたナインが、助け舟を出す。
「一回マジックバッグに入れて、横向きになるように取り出せば?」
「それだ!!」
いい笑顔で振り返ったグレンが、指をビシッ!とナインに向ける。その姿を見て、そんなに喜ぶことか?変なところが子供だ。と感じる。
そうしてグレンはいそいそと自身のマジックバッグを開き、レッサーキマイラを収納しようとする。だが黒い巨体はそこに居座ったまま、一向にバッグの中へと入っていかない。
何か問題でもあったか?もしかしてまだ死んでないのか?と一瞬警戒を強めるナイン。
「・・・でかくて入んねえ」
グレンの情けない呟きに、ナインの緊張は、一気に霧散していった。
「大きい?でもアクアタイガーは入ったよな?」
サイズ感は大して変わらない。何故入らない?とナインは首を傾げる。するとその様子に気づいたメイとルチルが、お喋りをやめてナインの側までやってきた。
「なになに?どうしたの?」
「何かありましたか?」
いつまでも放置されたレッサーキマイラとグレンを交互に見ながら、2人が聞いてきた。余程お喋りに夢中だったのだろう、状況が全くわからないようだ。
「なんか、大き過ぎてバッグに入んないんだってさ。アクアタイガーとあんまり変わんないよね?」
ナインがささっと説明しながら、大きさに着いて聞いてみる。状況を知ったメイは「ああ、なるほど」と合点が言ったとばかりに呟くと、そのまま理由を口にする。
「たぶん、頭がついてるからじゃないかな?」
「あたま?」
言われてレッサーキマイラの頭部に視線を向ける。今にもグワァ!と叫び声を上げそうな形相が、死後硬直によって固定されている。
少しだけ怖いと思いながらも、ナインはその頭部を上下左右から眺める。1メートルまでは無いが、80センチくらいはありそうだ。そしてそれと同時に気づいた。
「あれ?アクアタイガーより大きい?」
1ヶ月半程前の記憶なので若干ぼんやりしているが、記憶にあるアクアタイガーの頭より1.2倍くらい大きい気がする。
「あー、あれよりは大きいね」
メイも大きいと感じていた。
(まぁ、誤差と言えば誤差だけど)
頭部が付いている上に、ちょっと大きい。これらの理由の所為で、マジックバッグの収納可能サイズをオーバーしたのだろう。もしかしたら尻尾の蛇も理由かもしれない。あれもそこそこ長いし大きい。
「とりあえず、入らないなら頭落とす?それでもいいけど」
メイがアクアタイガーを収納した時と同じように、頭を落として小さくするか提案してきた。だがそこで、メイの隣で成り行きを見守っていたルチルが手を上げた。
「あの、私のマジックバッグなら入ると思いますよ」
そう言って背負っていたリュック型のマジックバッグを下ろした。
「そっか、リュック型だと入るのか」
ナインとメイとグレンが持つマジックバッグはウエストポーチ型だ。それに対して、ルチルの持つマジックバッグはリュック型である。このリュック型の容量と収納可能サイズは、ウエストポーチ型の3倍である。
ちなみに、カバン型が2倍で、大リュック型が4倍となる。
ナインとメイのマジックバッグのランクはDであり、容量は20枠。グレンのバッグはCランクで、容量は40。そしてルチルの持つリュック型マジックバッグのランクはC。容量はグレンのバッグの3倍で120となる。だが、収納可能サイズは3倍では無いらしい。
とはいえ、グレンのバッグより大きいものを入れられるので、レッサーキマイラも問題無く収納出来るはずだ。
「じゃあルチル、悪いけど入れといてもらっていいかな?」
「はい。」
頼まれたルチルはグレンと場所を入れ替わる。そしてレッサーキマイラの頭を掴むと「よいしょ・・・」と呟いてリュックの中へと収納した。
アクアタイガーの時も見たが、巨体が一瞬でバッグ内へと吸い込まれる光景に、ナインは疑問を持つ。
「これ、今まで普通につかってたけどさ、どんな仕組みなんだ?」
「どんな?」
「これ、このマジックバッグ」
隣に来ていたグレンが、不思議そうな顔をしながら聞き返してきたので、ナインは自身の腰にあるマジックバッグを指差す。
「さあ?知らん。それが普通だからな」
「私も、とくに不思議に思った事無いですね。そういう物でしたので」
グレンだけでなく、収納を終えたルチルも、とくに疑問を持った事は無いと答えた。ならばここは、とナインは、色々な知識を持つメイへと視線を向ける。長い年月を生きる彼女ならば、知っていてもおかしくはない。
すると、視線に気付いたメイが、苦笑しながら口を開いた。
「期待してるとこ悪いけど、ルチルが言っていたのが正解だよ。そういう物なんだよ」
その後、詳しく聞いてみたのだが、マジックバッグとは、そういう物である。何がどうなってこうなった、とかなど無い。という事だった。
不思議だが、その不思議は普通だ。と言われた気がした。
そうしてマジックバッグの仕様で話題が逸れたが、レッサーキマイラの回収が終了したのでナイン達は部屋に戻ろうとなった。だがそこで、ナインは妙な気配を感じた。
「・・・ん?なんだ?何かいる?」
数日前、アマプラでプレデターを見ながら執筆していました。
凄く集中できましたよ。
プレデターに。
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また明日。