160 夜空を彩る幸せ
本日の2話目です。
そしてこれが第二章最終話です。
宜しければ、評価、ブックマーク、いいねをして頂けると嬉しいです。
「・・・うぅ、こ、こは。」
ゆっくりと瞼を上げ、ボヤけた視界で周囲を見回しながら声を出す。そして見覚えの無いグレンの姿に気づき、ほんやりとした目を見開いた。
「誰だお前達!?いや、待て、奴らでは無い?っ!?今は何時だ!?」
視界に入ったグレン達に対し、狼狽えながら警戒する領主。だがすぐに状況を思い出したのか、現在の時刻を確認してきた。
グレンの後ろに立つナインは、洗脳中の記憶がちゃんとあってよかったと内心ホッとする。
これなら、状況を説明するだけで理解してもらえる可能性が高い。
「今は18時半過ぎです。カルヴァース伯爵、現在の状況をお話しします。まずラグナロクの魔人ですが・・・」
領主であるカルヴァース伯爵に時間を伝えたグレンは、そのまま口を挟ませないよう丁寧な口調だが少しだけ早口になって説明を始めた。
「・・・なるほど、状況は理解した。ああ、自己紹介が忘れていたな。私の名はアルベルト。アルベルト・フォン・カルヴァース伯爵だ。この町の領主をしている。」
説明を全てを聞いたカルヴァース伯爵は、落ち着いた様子で立ち上がると自己紹介をする。
ちなみに僕達の名前や冒険者だという事は、説明時にグレンが伝えてくれている。
「まずは、危険だというのにも関わらず助けに来てくれた君達には、感謝を。」
そしてナイン達に向けて感謝を口にした。
あっさり信じるのか?自分で言うのも何だけど、僕達も普通に怪しくない?
「いえ、私達としても見過ごす事は出来ませんでしたので。・・・あの、私が言えた義理ではありませんが、信じていただけるのですか?」
グレンも同じ事を思ったようだ。洗脳中の記憶があるとは言え、それとこれとは別の話しだ。怪しいものは怪しい。
カルヴァース伯爵は、ふっ、と笑うと左手を上げ、手首に嵌めれている腕輪を見せてきた。
「これは真実の腕輪という。効果は門でも使われている嘘発見の魔道具と同じだ。装備者に対して嘘を付くと、この腕輪が振動する。」
「「「「なっ!?」」」」
驚きでナイン達4人が同時に声を上げた。
嘘発見の魔道具と同じ効果の腕輪だって?そんなのとんでもないくらいレアなんじゃないのか?嘘発見の魔道具だってレアなんだろ?
隣にいるメイに、思念ではなく小さな声で直接聞いてみる。
「やっぱりすごいレアなの?」
「あり得ないくらいのレア度だね。あれ1個で城が買える。」
「「えっ?」」
ナインの驚きに合わせ、僕達の会話が聞こえていたルチルも思わず声を上げてしまった。
城?館じゃなくて?それっていくらだよ。・・・億?
「仲間が失礼しました。」
「いや、構わんよ。お嬢さんが言っていた通りだ。それくらいはするな。・・・まぁそれでも奴らにはあっさり操られてしまったがね。」
メイの言葉を肯定した伯爵は、自重するように呟いた。
「さて、それでは事態の確認と対応をしなければいけないな。だがその前に、すまないがそこで眠らされている私の護衛騎士と執事長を起こすのを手伝ってくれ。」
そう言って伯爵はソファーで眠る2人の男性に視線を向けた。
「勝手に1人で動き回ったと知られたら、怒られてしまうのでね。」
煩わしいとでも言いたげな口調とは裏腹に、伯爵の瞳には深い心配の色が浮かんでいた。
「わかりました。では、閣下は私と共に兵を集めてからホールへ行き、事態の確認と対処を。冒険者の方々は、出来ましたら執事長と共に館内の昏睡者を起こしていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
目覚めた護衛騎士のジェームスさんは、伯爵から状況を聞かされるとすぐに事態への対応方法を決める。僕達へは、執事長と共に昏睡者への対応を依頼してくる。
「承りました。パウエルさん、よろしくお願いします。」
「かしこまりました。グレン様、皆様、こちらこそよろしくお願い致します。」
グレンの言葉に、執事長のパウエルさんは胸に右手を当てると深いお辞儀をして返してきた。
「すごい。めちゃくちゃ姿勢が綺麗だ。」
「私だってあれくらい出来るよ。」
「・・・何でメイさんが張り合ってるんですか?」
などと、後ろで立つグレン以外の3人は、話に入ることなど無く勝手に盛り上がっていた。
そこからおよそ2時間。執事長のパウエルさんと共に館内を駆け回ったナイン達は、途中の部屋で覚醒ポーションを補充しながらほとんどの昏睡者を目覚めさせた。
50を超えたところまでは数えていたが、あまりの多さに途中でわからなくなってしまった。それほどの人数が昏睡させられていたため、中々に大変だった。
「皆様、この度は本当にありがとうございました。後の事はこちらにお任せを。それと客室をご用意いたしましたので、皆様方はそちらでご自由にお休み下さい。」
人員が増え、館の者達だけで対応が可能となると、執事長はナイン達に感謝を伝え、それどころか休むための部屋まで用意してくれた。
そうして案内を受けて3階北西にある角部屋へと入ったナイン達は、言われるままに休憩を始めた。
現在、のしかかるような疲労によって4人全員がソファーの上でぐったりしている。
閉じていた瞼を開けたナインが、天井を見つめながらポツリと呟く。
「後はもう、僕達がやる事はないかな?」
部屋の外からは、メイドや従僕の声がずっと聞こえていた。その声を聞いていると、休んでないで自分達も何か手伝ったほうがいいのでは?と考えてしまう。
だがグレンはそうは思わないようだった。
「無えな。強いて言えば、余計な邪魔をしない事が今の俺達のやる事だ。」
なるほど。中途半端な手伝いは邪魔なだけか。
グレンの言い分に納得したナインは、開いた瞼を再度閉じようとした。
ピカッ!!!
その瞬間、突然窓から強い光が差し込んだ。
「「「「っ!?」」」
4人同時にソファーから立ち上がり、光が差し込んだ窓へと体を向ける。
なんだ!?まさか爆発か!?
僕達は失敗したのか?とナイン達が焦り始める。
だがその直後。ヒュー・・・、バーンッ!!!という音が、ナイン達のいる部屋へと届いた。
音によって光の正体に気付き、全員の緊張が緩む。
「あー、そっか。20時半からだっけ、花火って。」
窓から差し込む色とりどりの光を見ながら、ナインは正体を口にした。
「そういえばそうだったな。抽選会の事で頭がいっぱいで普通に忘れてたぜ。」
遅れて届く炸裂音が、体をビリビリと振動させる。
「花火が上がったって事は、抽選会が無事に終わったんだね。」
海上から連続で打ち上がる花火に、外から大きな歓声が湧き上がる。
「そうですね。私達は、乗り越えたんですね。」
視界に映る残光に、耳にこだまする残響に、全て終わったと実感する。
「これでこの町に、ちゃんと明日がやってくる。」
夜空を彩る幸せの花達に、ナインはこの町の明日を見た気がした。
こうして、爆破事件から始まったカルヴァースの町を巡る戦いが、ここに終わりを迎えた。
「あ、レッサーキマイラ取りに行かないと!!」
「「「は?」」」
唐突に発せられたメイの言葉に、しんみりした空気がぶち壊された気がした。
これにて、第二章が終了となります。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
趣味で書き始めたこの作品も、最初は「評価とかされなくてもいいや」とか思っていました。
ですが書き進めるにつれ次第に愛着が湧いていき、今では「評価されたい」「ブックマーク増えてほしい」などという欲が出てきました。
拙い文章ではございますが、今後も一生懸命書き進めていきますので、もしよろしければ応援のほどよろしくお願いいたします。
この後は10日間ほどお休みをいただきまして、7月11日より間章を。
そして、8月から第三章「聖人と聖女と聖剣」がスタートします。
皆様ぜひ、見に来てください。
それではまた7月11日に。
星街海音