159 送信機と魔石
本日は2話投稿です。
2話目の投稿は20時です。
「周囲も問題無し。よし、中入ろっか。」
ガチャリ。
言うや否やノブを捻り、扉を開けてしまった。
大丈夫なのはわかるけど、もう少し警戒しようよ。
「はぁー・・・。」
そう思ったが、もう開いてしまったので口には出さず、溜息を吐く。
開いた扉から執務室内を覗く。
広い部屋の中心に3人の人物と、隅に無駄に大きな機械があった。
「・・・あの机のとこにいる人が領主かな?」
「たぶんそうだ。」
窓際にある机に目を閉じて座る茶色い髪に高級そうな服を着た40代くらいに見える男性。彼が領主のようだ。
そこから視線を手前にずらしていくと、机の前に置いてあるソファーに騎士と思われる鎧を着た男性と、執事服を着た男性が目を閉じて座っていた。執務室にいるという事は、この2人も何某か位の高い人物なのだろう。
館中にいた者達と同じようにこの3人も昏睡している。グラベル達を倒したのだが、起きる気配は無かった。
ナイン達は静かに執務室内へと足を踏み入れる。
「どうやって起こせばいいんだ?」
領主達を見ていたナインは振り返り、仲間達に聞いてみる。
「あの、先に送信機を止めませんか?」
ルチルが部屋の隅にある、大きな機械をチラチラと見ながら提案してきた。
執務室を探す道中グレンが話してくれたのだが、ジャグラが言うには送信機には無属性の魔石が取り付けられており、それを外せば送信機の機能が停止するらしい。
確かに、魔石を取るだけらしいし、それなら先に止めてしまったほうがいいか。その方が時間にも気持ちにも余裕ができる。
「そうだね。じゃあ調べて問題無ければすぐに取っちゃおうか。ナインとグレンもそれでいい?」
「いいよ。」
「ああ、先に処理しちまおう。」
そうしてナイン達は、領主達を起こす前に送信機を止める事にした。
全員で執務室の隅まで向かい、送信機と思われる機械を見上げる。
「でか・・・。」
思わず声が出てしまった。何せ高さが3メートル近くもあるのだ。執務室の天井が高いのでギリギリ届いてはいないが、それでも大きい。ルチルの予想では最低でも人間以上のサイズと言っていたが、目の前のこれは倍くらいあった。
ナインの目線の高さくらいに無属性の魔石が嵌め込まれていた。これを外せばいいらしいが、まずは本当なのか調べてからだ。敵の言葉をほいほい鵜呑みには出来ない。
「それじゃあ調べますね。」
「私も手伝うよ。」
「お願いします。」
魔道具に詳しいルチルと長年の知識があるメイが送信機の機能を調べ始める。ナインとグレンは魔道具に全くと言っていいほど知識が無いので、後ろで見守るだけだ。
そうして5分ほど、中を覗いたり触ったりしながら送信機を調べた2人は、確認が終わったらしく手を止める。
「終わりました。確かに魔石を外せば機能が停止しますね。まずこの送信機ですが・・・」
そして振り返ったルチルは、意気揚々と送信機の機能について解説し始めた。やたらと早口になったので理解するのに苦労したが、何となくは把握できた。と思う。
この送信機自体はルチルが前に予想した内容とあまり相違は無かった。では魔石は何のためなのかと言えば、なんでも本体を起動をさせるためと起動者の魔力を仲介し、増幅させるために必要な物なのだそうだ。その増幅させた魔力を送信機が信号に変換し、大きな本体で町中に拡散させる。という仕組みらしい。
「あー、魔石を取ると魔力の増幅が出来なくなるから使えなくなるって事であってる?」
「はい!あ、あと、起動自体もです!」
「そ、そう。」
魔道具熱で暴走気味のルチルに、ナインは圧倒される。一緒に聞いていたはずのメイとグレンは、我関せずと空気になっていた。
「えっと、じゃあ取っても大丈夫みたいだから外しちゃうね。」
「はい!」
やたらと元気なルチルの返事が、執務室内に響き渡った。
昏睡しているとはいえ領主達がいるの忘れてないか?
そう思ったが、ルチルの解説で時間を取られてしまっていたので魔石を外すことを優先する。
送信機の中心部分に嵌め込まれている拳より少し大きい無属性魔石を両手で掴み、ぐっ!と引っ張る。
カチッ
「お?簡単に取れたな。」
何かが外れるような音が鳴り、魔石はすぐに取り外すことが出来た。
そうして忘れてたと思い、魔石に鑑定を使用した。
魔石
等級:B
属性:無
魔力値:100308/100308
「・・・Bランク。」
現れた鑑定結果を見たナインが、絞り出すように呟いた。
「え!?ほんとに!?」
「マジか!!」
「メイさんよかったですね!!」
聞こえたメイ達が、一斉に喜びの声を上げた。釣られてナインも声を上げようとする。だが、喉が喜びの言葉を発する直前で止まってしまった。
あれ?これって重要な物証なのでは?
爆破信号を発生させる送信機に取り付けられていた魔石。どう考えても重要な物だ。それ故に
「・・・これって、貰えない物じゃない?」
ナインの言葉に、喜んでいたメイ達がピタリと停止した。
そりゃそうなる。
「・・・提出しなきゃダメだろな。」
グレンが腕を組み、右手を顎に当てながら答えた。
だよねぇ・・・。
ナインは肩をガックリと落とす。
「・・・仕方ないよね。とりあえず、ここに置いとこっか。」
名残り惜しく思いながら、ナインは手に持っていた魔石を送信機の近くへ置く。
1番嬉しそうにしていたメイの顔は、怖くて見れなかった。
送信機を止め、魔石とお別れしたナイン達は、気持ちを切り替えて領主達を起こす事にした。
正直、まだ完全には切り替えられていないが、状況が状況なので落ち込んだままではいられない。
それに、全てが終わったらもしかしたら貰えるかも?という可能性もある。たぶん。
あるかもわからない可能性を考えながら、ナイン達は昏睡する領主の元へと向かう。
豪華な椅子に体を預け、眠るように気を失っている領主の姿に、先ほども思ったがどうすればいいんだと首をひねる。
「どうやって起こすんだ?」
「これを使う。」
ナインの言葉に、グレンが答えながらマジックバッグから透明な緑色の液体が入った瓶を取り出した。
「覚醒ポーションだっけ?」
緑色の液体の正体は、睡眠や気絶の状態異常を解除する覚醒ポーションだ。ナインとメイは状態異常になる事は無いが、一応自分もグレンやルチル用に持っている。
でもそれだけで起きるのか?
「これを使いながら治癒魔法のウェイクアップをかける。」
ああ、なるほど。重ねがけか。
治癒魔法のウェイクアップは、覚醒ポーションと同じで睡眠や気絶を解除するための魔法である。
確かにそれなら起きそうだなと、ナインは納得した。
「じゃあグレン。頼んだ。」
「グレンさん、お願いしますね。」
「・・・なんで?」
ナインとルチルは2人揃ってグレンにやらせようとした。意味がわからなかったグレンは理由を求める。
なんでって・・・
「「同じ貴族だから」です。」
2人揃って答える。実際、ナインには敬語や態度など、貴族に対しての対応方法がわからない。それ故、何が不敬になるのか不明である。ならば出来る人にやってもらった方がいい。
「・・・仕方ねえ。わかった俺がやる、お前らは少し離れてろ。」
「わかった。」
ナイン達の考えてることがわかったのか、グレンは不承不承ながら了承する。
そうしてナイン達が離れるのを確認すると領主へ近づき、覚醒ポーションを気管に入らぬよう気を付けながら、口の中へ少しずつ流し込む。
「よし、全部飲んだな。ウェイクアップ。」
飲み込んだの確認したグレンは、治癒魔法を発動する。魔法をかけられた領主がほんの少し発光し、光が収まるとすぐに効果が現れる。
昏睡していた領主の瞼が、小さく動いた。
「・・・うぅ、こ、こは。」
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