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レゾンデートル  作者: 星街海音
第二章 海町は明日を願う
158/251

157 ナインVSグラベル4

本日の2話目です。


 思念で届いたメイの声に、ナインは表情を変えないように気を付けながら答える。


 『一応大丈夫。これから忙しくなるけど。』


 『あ、ごめんね!今1階まで来たんだけど、何処にいるの?』


 声の調子からしてどうやらレッサーキマイラは無事倒したようだった。


 そうして戦闘を終えて1階までやってきたが、僕達が何処にいるのかわからないらしい。


 そういえばこのホールには気配と魔力の遮断結界が張られてたな。それにしても、良いタイミングだ。


 『館中央の2階奥にあるホールだ。それと1つ頼みがある。』


 ナインは思念会話で頼みの内容を簡潔に伝える。難しい事ではないので、メイは即座に了承してくれた。


 『オッケー!それじゃあ着いたらまた声かけるね。』


 『頼んだ。』


 そうしてメイとの会話を終えたナインは、剣を後ろに下げ、手元を隠すとグラベルへ向けて走り出した。


 ただただ真っ直ぐに突っ込んでくるナインに対し、グラベルが暗黒魔法を発動する。


 「ダークフィールド。」


 グラベルを中心とした周囲に闇が広がり、HPとMPの吸収地帯が出来上がる。だがナインはそのまま進み続け、フィールド内へと突入する。


 「んぐっ!」


 ダークフィールドに足を踏み入れた瞬間、吸収の効果で肉体からHPとMPが引き剥がされ、疲労感が襲う。


 わかってたけどかなりキツイな。しかも持続型だから中にいる限りずっとこれか。


 疲労感に少しだけ顔を顰め、それでも無視して走り続け、グラベルへと剣を振り下ろす。


 「はぁああ!!」


 「遅い!」


 ガキンッ!


 後から振ったグラベルの長剣が横から現れ、ナインの剣が弾かれる。ギリギリまで手元を隠しての振り下ろしだったが、ステータスの差であっさりと防がれてしまった。だがナインは慌てることは無かった。


 防がれるのは予想してたさ。


 ヒュンッ!


 「むっ!?」


 無防備を晒すナインの後ろからマジックソードが現れ、左上からの2撃目がグラベルへと襲いかかる。


 気付いたグラベルは咄嗟に後ろへと跳び、回避する。そしてそのままさらに数歩後方へ下がると、魔力を練り上げる。


 「逃げ場はやらん!ダークランス!」


 ギュンッ!!


 円錐状をした6本の闇の槍がグラベルの周囲に出現すると、即座にナインへ向けて発射された。


 迫り来る闇の槍を確認したナインは、槍へ向けて左手をかざす。


 「なら防ぐだけだ!マジックウォール!!」


 目前にマジックシールドよりも大きな半透明の壁が出現する。


 ドドドドドドッ!!!


 闇の槍がマジックウォールに衝突し、黒い爆発と連続した重苦しい音を響かせる。


 防御には成功したが、ナインの視界はダークフィールドとダークランスによってかなり悪い。グラベルの姿が薄っすらとしか確認できない。


 そんな薄っすらとしか見えない状態ではあったが、ナインにはグラベルが何をしてこようしているのかがわかった。


 構えながら剣に魔力・・・、エッジ系か!


 「まだまだいくぞ。ダークエッジ!!」


 ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!


 魔力を纏わせた長剣を高速で4度振り抜き、闇の刃を飛ばしてきた。

 

 くそ!さっきから数が多い!


 ダークハンドが8本、ダークランスは6本、そしてこのダークエッジは4本。正直、強い1発よりもこういう数が多い魔法の方がナインとしてはキツイ。レベルと装備が低いせいで防御力があまり無いからだ。グラベルもそれをわかっていてやっているのだろう。


 「マジックウォール!!」


 「終わりでは無いぞ。ダークエッジ!」


 足を止め、再度前方に魔力壁を生み出して防御する。それを見たグラベルはさらに追加でダークエッジを放ってきた。


 ガンッ!ガンッ!と闇の刃が魔力壁に阻まれる音が続く。


 打たれて防ぐばかりじゃ動けないな・・・。それなら、オリジナルを見せてやる。


 ナインは瞬時に魔力を高めると、ここ数日で作り上げた魔法を発動する。


 「イマジナリーアーム・ジャイアントフォーム。」


 魔法名を口にする。その瞬間、ナインの左腕の横に、3倍以上のサイズをした半透明の腕が現れた。


 これがナインオリジナルの無属性魔法、イマジナリーアームだ。


 イメージと高魔力により想造した腕を自身の周囲に出現させるという、シンプルな魔法である。実際の腕ほどでは無いがある程度動かす事が可能であり、しっかりと質量も持つので重さもある。これで殴られればかなりの威力となるだろう。


 魔力腕を出現させたナインは、弓を引くかのように左腕と左足を後ろへ引く。左腕の横に浮かぶ魔力腕も追従して後ろへと下がった。そして左足裏に魔力を集める。


 オリジナルはこれで終わりでは無い。


 「ブースト!」


 魔力壁を解除すると同時に、ナインは足裏の魔力を全力で解放した。


 ドンッ!


 地を叩く鈍い音が響き、魔力によって弾かれたナインが前へと加速する。


 これが2つ目のオリジナル魔法、ブーストだ。足裏に集めた魔力を解放、それによって生まれた反発力で加速する。という、イマジナリーアームよりも原理がシンプルな魔法だ。ただし、上手くいったように見えるが未だまともに成功した試しが無い。現に今も


 「うぅっ!」


 制御に失敗して左足の骨が折れていた。


 ちなみに、初めて使った時は足が粉々に弾け飛んだ。


 構えたままの体勢で加速し、迫り来るダークエッジの間を無理矢理すり抜ける。途中、何発か体を掠め血を吹き上がらせたが、そんなのは些細な事だと無視して真っ直ぐ突き進む。


 そうして一気に距離を詰めると左腕を突き込み、追従した魔力腕をグラベルへと叩き込まむ。


 ズガンッ!!!


 「うぐぅおおあああッ!!!」


 グラベルが後ろへと吹っ飛んでいく。だがナインは悔しさから顔を顰める。


 「ちっ!あそこから挟むのか!」


 直撃したと思ったのだが、グラベルは直前で剣を挟んで防御した上に、自分から後ろへと跳んで衝撃を抑えていた。


 飛ばされて距離を空けていくグラベルを見て、ナインは後の魔法のための準備をする。


 魔力を放出し、即座に魔力ポイントを2メートル程の範囲に 5つ設置していく。


 この魔力ポイントは遠隔で魔法発動させるのに使うものだ。ただし必須では無い。ルチルならばこれを使う事無く、遠隔で魔法発動地点を設定できる。


 単純にナインの魔力制御と魔法の習熟度では、魔力ポイントを使わないと遠隔発動が出来ないだけである。


 そしてわざわざ遠隔での発動を選んだのは、近くで使うと自分も巻き込まれるからだ。


 さて、ここが正念場だ。


 そうして準備が終わると、ナインはイマジナリーアームを解除せず、再度ブーストを発動して走り出した。


 殴り飛ばされたグラベルは数度床を転がるとすぐに立ち上がり、長剣に膨大な魔力を乗せると近づいてくるナインへ向けて横薙ぎに振り切った。


 「調子に乗るなッ!ダークカットッ!!」


 長剣から暗黒魔法による2メートル以上の大きさをした闇の左薙が現れ、迫るナインへ襲いかかる。


 大技!ここだ!


 それを見たナインは一気に勝負をかけにいった。


 「ゔぅぉおおおおッ!!!」


 床を右足で踏み締め、急停止をかける。だがそれだけで止まるとは思っていない。だから


 「ブーストォオオ!!!」


 踏み締める右足裏を魔力で弾き、無理矢理に止める。ゴキゴキゴキっと骨が砕ける音と痛みが体を襲うが、そんな物は些事だ。


 止まる事には成功したが、まだ闇の斬撃をどうにかしたわけでは無い。威力が強すぎてシールドやウォールでは間違い無く突破される。回避しようにも斬撃が大きすぎて横に逃げる事は不可能だ。同じように屈んで下を潜るのも無理。


 ならば上だ。


 「はっ!!」


 無事な左足で地を蹴り、上へと跳び上がる。だがこれで終わりでは無い。


 「シールド!」


 跳び上がったナインの後ろと、剣を振り切った体勢のグラベルの上に、魔力盾を出現させる。アクアタイガー戦でもやった、シールドを使用した擬似空中跳躍だ。


 タン!タン!スタッ!


 右足を再生させながらシールドを蹴り、闇の斬撃とグラベルを飛び越え背後に回る。そして解除せずそのままにしていたイマジナリーアームを変化させる。


 「ビーストフォーム!!」


 言葉とイメージに従って、イマジナリーアームの形がアクアタイガーの前脚に似たものへと変貌する。サイズが3分の2程になり、指先に鋭い爪が再現される。


 形を変えた半透明の前脚を、ナインは記憶を頼りに力一杯振り下ろした。


 「僕が食らった一撃だ!!」


 「ぶぐぅあっ!?」


 水は纏っていないが、ナイン自身が胸に受けた爪撃を再現する。


 振り返り、回避しようとしたグラベルの胸に爪が食い込み、切り裂いていく。


 だが第二級という階級が伊達では無いグラベルは、爪撃を食らいながらも長剣を前へと出し、ナインの腹部へと突き刺した。


 「がはっ!」


 衝撃でグラベルが吹っ飛んだ事で剣は抜けたが、口と腹部からは血が吹き出し、ナインは痛みで声を漏らす。


 それに対して回避出来ずモロに食らったグラベルは、さっきまでいた方向に殴り飛ばされ、床を跳ねる。


 ズダンッ!ズダッ!ゴロゴロ・・・


 「あ。」


 思わず声が出る。


 しまった!ちょっとやり過ぎた!


 魔力を配置した位置に飛ばしたつもりだったが、中心から2メートルほど奥まで転がってしまった。


 どうしよう、最後でミスった。と内心焦り始めたナイン。だがここで待ち望んでいた声が届いた。


 『着いたよ!』


 元気いっぱいなメイの声が意識の中でこだまする。先程も思ったが、なんて良いタイミングなんだとナインは喜んだ。


 『準備!威力は2メートル進むくらい!』


 『わかった!』


 簡潔に指示を出すと魔力設置位置に向かって走り出し、手前で足を止める。


 これで、決める。

 

 心の中でそう呟き、これが最後だと集中力を高めたナインは剣に魔力を込めながら左に構える。


 魔力設置位置を挟んだ向かいで、グラベルがゆっくりと立ち上がるのが見えた。


 「ふぅー・・・。」


 ナインは大きく息を吐き、空中に設置した魔力ポイントと繋がるように魔力を放出する。


 これで、全ての準備が完了した。


 体を赤く染め、顔歪めたグラベルは立ち上がると狼狽した様子を隠す事もせず、まるで化け物でも見るような瞳をナインに向けてきた。


 「き、貴様・・・、その魔力は何なのだ?貴様は何者なのだ・・・?」


 そしてふらふらとしながら囁くような小さな声で呟いた。


 対してナインは答えず、今の質問に全く関係の無い事を口にした。


 「なあ、僕達って、何人で潜入してきたっけ?」


 「・・・なに?」


 『いいよ。』


 言い終えたナインは、グラベルを無視してメイへと指示を出した。


 『了解!』


 ヒュンッ


 メイからの返事が来たと同時に、ホールの入り口から空気を切り裂く音がした。


 ドスッ!


 「ぬうあっ!?」


 何かが突き刺さる音と共に、グラベルが声を上げる。彼の腹部からは半透明の刀身が顔を覗かせていた。


 グラベル越しに、ナインはホールの入り口を見る。


 右手でピースサインをするメイの姿が見えた。


 メイによる不意打ちでのマジックソード。これが事前にしていた頼みの内容だった。


 スタッ・・・、スタッ・・・、スタッ・・・。


 背後からの衝撃により、グラベルが3歩前へと歩き出す。そして、準備していた位置の中心で足を止めた

 

 ドンピシャだ。


 剣を左に構えた状態のナインは、その場から動かず


 「魔刃剣・顕閃(まじんけん・けんせん)


 全力で剣を振り切った。


 一瞬にして設置された魔力が5本のマジックエッジに変化し、中心にいるグラベルへと殺到した。


 キンッ!!!!!


 「っ!!」


 回避も防御も出来なかったグラベルは、5本全ての直撃を受ける。


 体中に刻まれた斬撃痕から血が流れ出し、床に赤い水溜りが出来ていく。


 ・・・ドシャ。


 そして声を上げる事無くその場に崩れ落ち、赤い水溜りに小さな波紋を広げていった。

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また明日。

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