156 ナインVSグラベル3
本日は2話投稿です。
2話目の投稿は20時です。
「秘密。」
教える訳ないだろ。
魔人である事は隠しているので、聞かれても話す気など無い。彼には、僕が何者なのかずっと悩んでいてもらう。
「治癒魔法・・・、いや回復魔法か?」
短時間で深傷が治っていた事に、グラベルはぶつぶつと推測を呟く。
何か言ってるな。どっちでも無いぞ。さて、血塗れなのをどうにかするか。
水の魔道具で落とそう。そう考えた時、水虎の長剣が視界に入った。
「あ、これでいいか。」
ナインはグラベルを放置すると、水虎の長剣を頭上に持ち上げ、アビリティの<水纏>を使用する。早い話しがシャワー代わりだ。
刀身に発生した水を魔力操作で引き離し、頭へビシャビシャと落とす。
「・・・よし、これでいいや。」
数秒だったが血は粗方落とし終わった。濡れなのはそのままだが。
ついさっきぶった斬られたナインの余裕がある姿に、グラベルが言葉を溢す。
「面妖な・・・。何なのだ貴様は。技術も経験も乏しい、レベルも低いのだろう。どう見ても弱者のはずだ。だと言うのに、貴様からは違和感しか感じん。」
眉間に皺を寄せ、まるで気持ちの悪いものでも見るような表情をナインへと向けてきた。
失礼だなこいつ。そんな顔で見るな。
少々不快に感じつつ、ならこちらもとグラベルへ聞きたかった疑問を口にする。
「違和感っていうなら僕も同じだよ。お前らってさ、何で魔人って名乗ってるんだ?」
胸に魔石を融合させ、魔物のように鑑定の対象となる存在。そんな存在は魔人どころかヒトですら無い。
だがその質問に、グラベルは言っている意味がわからぬとでも言いたげな表情をする。
「何を言っている?我らは魔人である。それ以外の何であるというのだ?」
何を当たり前のことを?と言われたような気がした。いや、実際にグラベルはそう思っているのだろう。
だからこそ、ナインは否定する。
「違う。魔人はこの世界に1人しか存在しないはずだ。」
メイの姿を思い浮かべ、事実を口にする。
「・・・なるほど、原初の魔人を知る者だったか。」
原初の魔人?メイの事か?
初めて聞く名称に、ナインは内心で首をひねる。
グラベルは得心がいった顔をすると、ゆっくりとした口調で語り始めた。
「確かに、理の中で生きながらも理外の存在である原初の魔人こそ、真に魔人と言われる存在だ。それは否定せぬよ。」
語られる内容にナインはより首をひねる。
理の中で生きながらも理外の存在?理って何のことだ?メイは何らかの外にいる?わからない・・・。ちょっとメイに、ってダメだ。仕方ない、全部終わった後に聞こう。
直接思念を送ってメイに聞こうと考えたが、向こうもまだ戦闘中かもしれないと思い、後にする。
「だが、原初は400年前を最後に消息不明となっている。大方、この世界から消滅したか眠りについたかのどっちかだろうがな。」
400年前を最後にという言葉に、ナインは原初の魔人とはやはりメイの事だったと確信した。
消滅はしてないぞ。それに、眠ってはいたけどもう起きてるぞ。
口には出さないが、心の中でグラベルの間違いを訂正する。
話しが佳境に入ったグラベルは、仰々しい雰囲気で左手を頭上に掲げ、ギュッと握る。
「我らは王の御力で魔石と融合し、1000人に1人の確率を超えて魔人となった。」
掲げた左手を下ろし、魔石がある胸の中心に当てる。
「魔石を有した人間。まさに、原初と同じではないか。」
顔に喜色を浮かべたグラベルが、バッ!と両手を広げた。
「だが原初はもういない。故に、我らが新たな魔人なのだ。」
同じではない。
グラベルの語る内容を黙って聞いていたナインは、心の奥底から否定する。
違う、絶対に違う。
自分自身が魔人であり、それと同時に原初であるメイを知るナインにとって、そんな理屈を認める訳にはいかない。
僕とメイは魔人族というヒト種に属する"種族"だ。だからこそ、僕達に鑑定は効かない。
だがグラベル達は違う。彼らに対しては鑑定が発動する。
まるで魔物のような鑑定結果が出る、そんな人ですらないような奴らと
「一緒にするな。」
凍えるほど冷たく低い声で、ラグナロクの魔人達を拒絶する。
「人間如きが、我らを否定するか。」
自身を否定された怒りで顔を顰めると、広げていた両手を下ろし、右手に持つ長剣を向けてきた。
それに対し、ナインも長剣を向ける。
「黙れ、偽者。」
同列に語られた事が許せず、より直接的な言葉でグラベルを拒む。
ここからは魔力も魔法も全開でいく。隠す事はしない。あいつは、全力をもって殺す。
本当は生かして領主や領軍に引き渡したいが、下手に生かそうとすればこちらが負け、爆破阻止失敗なんて事になりかねない。故に、殺す気を持って戦うのだ。
そうして互いに剣を向け合い、集中を高めていると、心の中に少女の声が届いた。
『ごめんナイン、今大丈夫?』
聞こえてきたいつも通りの彼女の声に、ナインは勝利の女神を見た気がした。
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