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レゾンデートル  作者: 星街海音
第二章 海町は明日を願う
153/251

152 グレンVSジャグラ2

本日は2話投稿です。


2話目の投稿は20時です。


 「強えなあんた。」


 口の端を上げ、顔に喜色を浮かべたグレンは、ジャグラへと賞賛の言葉を投げかけた。


 「貴方こそ、その重たい大剣であれほど早く斬り返してくるとは思いませんでしたよ。」


 表情も声色も変わらないが、それでもグレンと同じようにジャグラも相手への賞賛を口にした。


 ・・・やっぱり違えな。妙に理性的で感情が薄い。ふむ・・・、少し聞いてみるか。


 最初にジャグラに感じた違和感が膨らみ、この手の止まったタイミングでグレンは少しだけ質問をしてみようと考えた。


 「なあ、館内に兵士がいないのは、爆破に巻き込ませるためか?」


 おそらくそうであろうと思いながらもまずはこの辺からと考え、答えてくれそうな事から聞いてみた。


 「はい。爆破完了後、残存戦力を極力残さないようにするためです。グラベル殿の指示ですね。」


 やはりか。それにしても、グラベルの指示ね・・・。


 ジャグラの答えは予想通りのものだった。ただ追加された情報とその言い方に、グレンの中の違和感がさらに膨らむ。


 どう聞きゃこの違和感の答えが手に入る?


 グルグルと頭の中で聞き方を考えるグレン。だが結局、これだという方法は見つからず、シンプルに聞くことにした。


 「あんた、なんかあの2人とか自害したサージェスって奴と比べて驕った感じがしねぇな。」


 お前は調子に乗ってないな。という意味合いにすら聞こえる内容だが、これしか思いつかなかったのでどうしようもない。


 ・・・なんか、聞いた俺の方が驕った感じしねぇかな。


 自分の発言の悪さにグレンが落ち込んでいると、感情の薄い彼には珍しく、少しだけ苦々しさを含んだ声で返してきた。




 「それはそうでしょう。他の魔人方と比べて、私に魔人としての誇りなど皆無なのですから。」


 


 何かとんでもない事を聞いた気がした。


 「・・・なにを、言ってんだ?あんたも同じラグナロクの魔人だろ。」


 予想外の答えに混乱しかけたグレンは、何とか思考を落ち着かせるとその発言の真意を問う。


 魔人としての誇りなど皆無、だと?どういう意味だ?


 「確かに同じラグナロクという国に属し、同じ魔人ではありますが、同じ想いを持っている訳ではありません。そして同じ任務を遂行する同志ではありますが、決して仲間ではありません。」


 表情も丁寧な口調はそのままに、だが先ほどよりも強い感情を込めて言葉を吐き捨てた。


 込められた感情は怒りと恨みだった。


 想いが違う、仲間ではない。グレンには、これと同じような考えを持つ状況に覚えがあった。


 まさかよ・・・。


 胸糞の悪さを感じたグレンは、彼なら答えるだろうと信じて質問を続ける。


 「どうして、仲間じゃねえんだ?」


 ゆっくりと呟くようなグレンの問いかけに、ジャグラは躊躇うことなく答えた。


 「それは、私が強制的に魔人にされた人間だからです。」


 「強制的に、魔人にされた?」


 グレンは今、ラグナロクという国の大きな秘密に触れた事を理解した。


 人間が元になっているのは気付いていた。だが強制的にだと?つう事は元となる人間の意思は関係無いのか?


 「はい。ラグナロクの王の力によるものです。」


 おうむ返しをしてしまっただけで質問をした訳ではなかったのだが、ジャグラは隠す事無く誰が魔人化を行ったのかを口にした。


 「そうか。・・・強制的に魔人にされたんなら、何故あんたはラグナロクに従う?理由は何だ?」


 先ほどの胸糞の悪さを思い出しながら、グレンは問う。おそらくこの理由こそ、彼が怒りと恨みの感情を抱くものであると理解しながら。


 今まで変わらなかったジャグラの顔に、悲しそうな笑みが浮かんだ。


 「・・・貴方には、大切な人はおりますか?」


 その言葉だけで、グレンは完全に理解した。


 やはり、やはりか・・・。


 「人質か・・・。」


 ジャグラは、裏切れないようにされたのだ。


 「はい、息子です。今年で10才になります。最後に姿を見たのは1年ほど前ですね。」


 ジャグラの言葉に、グレンは引っかかりを覚える。


 「姿とか1年前ってのはどういう事だ?会えてねえのか?」


 「会う事は許されていません。姿を見る事は出来ますが、任務に成功した時だけです。それも5分ほどですがね。」


 彼は悲しそうな笑みを深め、聞かれたことに答え続ける。


 許されてねぇ上に、成功報酬で5分だと?外道じゃねえか。


 ラグナロクという国に対し、ドス黒い感情が湧き上がってくる。


 「・・・子供と一緒に逃げる事は出来なかったのか?」


 歯を食いしばり、絞り出すようにして言葉する。そうしなければ、感情のままに声を荒げてしまいそうだったからだ。


 「不可能です。原理は不明ですが、融合した魔石に逃走防止の細工がされているようですので。」


 「そうかい。」


 ジャグラの言葉にグレンはそう返すことしか出来なかった。


 息子を人質にとられて強制的に魔人にされ、会う事も話す事も出来ずにやりたくない任務をこなしてたった5分姿を見る。逃げる事は出来ない。


 「先ほども言いましたが、私はラグナロクに属していますが仲間意識など持ってはいません。ですがそれでも私が任務を遂行するのは、それが我が子の命に繋がるからです。」


 ジャグラはそこで一度言葉を切ると、瞳に強い意志を込める。そして己が決意を語る。


 「外道を行う事で愛する我が子を守れるのであれば、私は全力で悪となりましょう。」


 確固たる意思を口にしたジャグラ。だがその表情は、悪という言葉とは裏腹に悲しげな笑みのままだった。

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