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レゾンデートル  作者: 星街海音
第二章 海町は明日を願う
151/251

150 ルチルミナVSリアンヌ3

本日は2話投稿です。


2話目の投稿は20時です。


 手加減も容赦もしない。慈悲も許しも与えない。


 この女には報いを受けてもらう。


 口にした言葉の裏にそんな思いを込め、リアンヌへと杖を向けたルチル。


 「舐めた口をきくさね。そういうのは、あたいを倒してからにするさねっ!」


 ニヤけ面を怒りの表情に変え、リアンヌは吼えるように叫ぶ。そして右手で長槍をくるりと回し、穂先をルチルへと向けた。


 「うるさいですね。だから倒しますって。」


 「まだ言うさね!フレイムアロー!!」


 ルチルの返しによってさらに激昂したリアンヌが炎の矢を5本出現させ、狙いもそこそこにすぐさま射ち放ってきた。


 飛来する炎の矢を確認したルチルは、焦る事なく旋風魔法を発動する。


 「ウインドアロー。」


 リアンヌと同じ数である5本の風の矢を出現させ、即座に射ち出す。狙うはこちらに向かってくる炎の矢だ。


 ガガガガガッ!!!


 空中にて風と炎の矢がけたたましい音を立てて激突し、両矢とも揃って砕け散った。


 砕けた炎の矢の残滓が空中を彩り、ルチルの視界を不明瞭にする。そしてそれを見たリアンヌは、その隙を逃すかと動き出していた。


 左前半身で槍を構え、ルチルへと全力で走る。


 「隙ありさね!!」


 今度こそ決めるとでも言いたげな表情をしたリアンヌが声を上げる。


 だが


 「そのパターンは先ほど見ましたよ。」


 魔法使用後にリアンヌが突っ込んでくることを、ルチルは予想していた。


 ここまでの戦闘で確信したが、リアンヌという魔人は近接主体の槍士だ。魔人らしく威力も魔力も高いが今のように、魔法は主に補助や牽制にしか使用しない。だからこそ予想は簡単だった。


 「グラビティフィールド。」


 こちらへと走り寄るリアンヌを中心として半径2メートルの範囲重力魔法、グラビティフィールドを発動する。


 「うぐっ!?」


 突如発生した3倍の重力によって、リアンヌがうめき声とともに膝を付く。


 警備隊にも使用した重力魔法グラビティフィールド。この魔法は発動地点を中心に、重力操作可能な球体範囲を発生させる魔法だ。


 範囲と重力値は発動者のスキルレベル、魔力に依存する。現在のルチルの場合、範囲は最大で半径3.5メートル。重力値は3倍から3分の1までだ。


 そう、この魔法は重くするだけではない。軽くすることも可能なのだ。


 「重力値変更。エアーブロウ。」


 動けなくなったリアンヌを見下ろすルチルは、グラビティフィールドの重力値を3分の1に変更し、膝だけでなく手までついたリアンヌの真下で風魔法を発動する。


 ブオッ!という音とともに発生した風によって、リアンヌが斜め上へと放物線を描きながら飛ばされる。


 「くそっ!だが自分で重力域から弾き出すなんてミスったさね!」


 リアンヌの言葉通り、斜め上に打ち上げられた事でグラビティフィールドの範囲外へと飛び出てしまった。だが問題は無い。


 「自分で飛ばしたんですから、ミスな訳無いじゃないですか。バカなんですね。」


 冷めぬ怒りによって先ほどから口が悪くなっているが、ルチル本人は気づいていない。彼女にとってリアンヌという存在は、そうなってしまうほど癇に障っていた。


 「重力値変更。範囲拡張。」


 グラビティフィールドの重力を3倍に戻し、範囲を現在の半径2メートルから3.5メートルに広げる。


 ちなみに、重力値の変更や範囲の変更をする場合、別に口に出す必要は無かったりする。では何故わざわざ言葉にするのかと言うと、その方が変更のイメージをしやすいからだ。


 ググンッ!と重力範囲が広がり、これから自由落下を開始しようとしていたリアンヌへと迫っていく。


 「あ、ぐぅぉあ!?」


 広がった範囲に足が入り、3倍の重力によって真下へと落下する。そして叩きつけられた衝撃と全身にかかる荷重により、リアンヌは踏まれたカエルのような体勢で床に磔にされた。


 だが静かにキレるルチルはこの程度では終わらない。


 「3倍じゃ逃げそうですね。アースブロック。」


 手をつき、体を持ち上げようとしている姿を見たルチルは、追撃としてリアンヌの真上に直径30センチほどの岩の塊を出現させた。


 重力範囲内に出現した岩の塊は、3倍の重力により凄まじい重さと速度となってリアンヌの背中に落ちた。


 ドゴッ!!


 「ぐぎゃあっ!!」


 肉に当たる鈍い音と叫び声が響く中、ルチルは冷静にリアンヌの状態を確認する。


 ふむふむ、やっぱり頑丈ですね。それに再生力も高い。となればメイさんとナインさんが言っていたように、殺すか気絶させるしか無いですね。うーん・・・、あ、あれでいきましょう。あれなら死なないでしょうし。


 冷めた目と思考でこの後の対応を決定したルチルは、まずはと魔法を1つ発動する。


 「グラビティコントロール。」


 自身に対して発動した重力魔法グラビティコントロールは、物や人などの生物にかかる重力を操作する単体魔法だ。発動には対象に触れる必要がある。この魔法は対象指定型のため、物や魔法使用者自身であれば大概は問題無く発動出来るが、他人を対象とした場合、相手の魔法耐性が高いと弾かれて失敗してしまう事がある。


 操作可能な重力値と耐性突破率は発動者のスキルレベルと魔力に依存する。現在のルチルが操作可能な重力値はグラビティフィールドより高く、5倍から5分の1までである。


 自身の重力値を3分の1に変更し、グラビティフィールド内に入る。中に入る事でルチル自身にも3倍の重力がかかるが、グラビティコントロールによる3分の1の重力と相殺される。


 普通に動く事が可能なルチルは、重力と背中の岩で動く事が出来ないリアンヌへと近づいていく。


 目の前までやってくると、手に持つ長杖でリアンヌの腕と足をポン、ポンと叩き始めた。


 「右肘、右膝、左膝、左肘、と。」


 「う、うぐっ・・・、何、を。」


 ルチルの行動を不審に思ったリアンヌは顔だけをこちらに向け、途切れ途切れにそう口にした。


 「気にしなくて結構ですよ。・・・グラビティポイント。」


 「うぐぅあっ!!」


 リアンヌの問いかけを流し、ルチルは長杖で触れた両肘と両膝を対象にした重力魔法を発動した。


 肘と膝へと追加で発生した荷重に、リアンヌが声を上げる。


 重力魔法グラビティポイント。この魔法は、ルチルが指定した肘や膝などの一部分のみを対象とした部分指定型の魔法だ。指定範囲が狭いだけで仕様はグラビティコントロールとほぼ同じである。ただし、発動範囲が狭い事もあり、こちらの魔法の方が相手の魔法耐性を突破しやすいという利点がある。


 ルチルが操作可能な重力値は10倍から10分の1であり、今リアンヌにかけている重力値は5倍だ。


 「う、うう。」


 うめき声を上げるリアンヌをルチルは冷めた目で見下ろす。


 「殺しはしません。貴女は領主に引き渡します。まあ結局は処刑でしょうが。」


 尋問や拷問で情報を抜いた後、まず間違い無く処刑となるだろう。だがかわいそうなどとは毛ほども思わない。当然の報いである。


 「それでは、最後の時までしばし眠っていてください。さようなら。」


 その言葉を最後に、間接にかかる重力値を10倍に引き上げた。


 「ぎゃあああああああぁーーーッ!!!!」


 両肘両膝を砕かれたリアンヌの絶叫がホール内に響き渡る。


 あまりのうるささにルチルは咄嗟に耳を塞ぎ、同時に大地魔法を準備する。


 「・・・叫ぶ可能性を忘れてました。アースバインド。」


 耳から手を離してボソリと呟くと全ての重力魔法を解除し、準備していた大地魔法を発動する。


 床からスルスルと岩の縄が現れ、白目を剥いて倒れ伏すリアンヌを縛り上げた。間接が砕けているので手足が変な方向を向いているが、些細な事である。


 「えーと、うん。大丈夫ですね。あら?」


 拘束が問題無い事を確認したルチルは、側に落ちていたリアンヌの長槍に気付いた。


 中々良さそうな槍ですね。わっ!これ魔槍です!


 「・・・貰っておきましょう。」


 この潜入作戦の準備でルチル達はかなりのお金を消費してしまった。このままいけば領主から褒賞を貰えるだろうが、使い道の無いこれを売ればさらにお金を手に入れる事が出来る。


 いくらで売れるでしょうか。


 皮算用をしながら、ルチルはそそくさと背負ったリュック型のマジックバッグに魔槍をしまった。


 そうして未だ激しい戦闘を続けるナインとグレンへと視線を向ける。


 「手助けは・・・、いらなそうですね。ですが一応準備はしておきましょう。」


 2人の戦闘を確認したルチルは、必要無いとは思いつつもすぐに手助け出来るよう、魔力の回復を始めた。


 こうして、この事件最後の戦いの1つ目が、終わりを迎えた。

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