141 メイVSレッサーキマイラ1
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「・・・行ったね。」
ナイン達が出て行った出口を見つめながら、少しだけ寂しげな色を含ませた声で呟く。
だがすぐににへらとした表情に崩れた。
まさかナインから抱きしめてくれるなんて。緊張感のある状況なのに危うく感情が爆発するところだったよ。
先ほどの別れの場面を思い出し、にやにやが止まらないメイ。すぐ近くにレッサーキマイラがいるのだが、そんなのはお構いなしだった。
メイ・ウォーカーという人物は、そもそもが普通のヒト種とはかけ離れた存在だ。
ヒト種ような生まれ方ではないという事。この世で最初に生まれた魔人であるという事。圧倒的な魔力を保有する魔石を持つ事。そして、この世界の観測者であるという事。
他にも色々と存在するが、そんな彼女がナインに好意を寄せる理由は、人とは違う価値観が故だった。
彼女が何故ナインを好きになったのか、それは一目惚れだった。
だがその一目惚れは、一般的な人間がするような一目惚れとは違う。
彼女は、直視したナインの心に、その意思の輝きに心を奪われたのだ。
一般人には意味のわからぬ理由だが、これが全てだった。
まぁ、今はそれだけじゃないんだけどね。
「うへへ・・・、今日は一緒に寝てもらおうかなぁ。そうだ!新しいパジャマを「グルゥォォオアアアア!!!」・・・うるさいな。」
怒り狂うレッサーキマイラの咆哮に、せっかくの幸せ気分を邪魔されたメイ。瞳に剣呑な色が浮かべ、ジロリと睨み付ける。
「はぁ・・・、先にどうにかしよ。」
というか、何であんなのが地下にいるのさ。
そもそもレッサーキマイラを含むキマイラ種は、魔界を生息地とする魔物だ。五大陸に存在する魔物ではない。いない事もないのだが、それはダンジョンの中だ。
洗脳で連れてきたのかな?でもどうやって魔界から・・・。地獄門はそう簡単に開けられないのに。
「・・・まぁその辺は後でいいか。それはそれとして、レッサーでよかった。」
構えをとりながら、メイがホッとしたように呟く。
キマイラ種というのは、進化することで強さと見た目が大きく変化する魔物だ。
進化し、Bランクのキマイラになると、獅子の頭の横に山羊の頭が増え、風属性が追加される。
Aランクのハイキマイラになると、さらにコウモリのような羽が生え、空を飛ぶようになる。
そしてSランクのキングキマイラまで進化すると、ハイキマイラとは比較にならないほどステータスが上昇し、体表に銀色の模様が増える。
流石に今の自分1人でBランク以上を倒すのは無理だ。だがCランクならばなんとかなる。・・・たぶん。
「ナインに補充してもらったから魔力はあるけど・・・、最初は剣でいってみよう。」
でも、剣通るかな・・・?
筋力が見た目相応な上にSTRが半分な今のメイは、ちょっと力の強い10歳児レベルだ。いくら剣の技術があると言っても、限度がある。
まぁ試してみればわかるか。
ダンジョンで手に入れた風狼の小剣を握り直したメイは、決めたら直ぐにとばかりに走り出す。
「うーん、ここまでかぁ。」
レッサーキマイラに向かって全力で走っているのだが、足が短くて歩幅が狭いせいか全くと言っていいほどスピードが出ない。ぶっちゃけ遅い。
元の体くらいとは言わないが、早く大きな体が欲しいところだ。
考え事をしながら走っていると、レッサーキマイラの前脚が上から迫ってきた。
「よっ、と。お返し!」
前脚の振り下ろしを横に跳んで回避し、同時に全力で斬りつける。が
ゴスッ。
「むっ!?」
斬りつけた前脚からは、ズバッ!という斬撃音とは違い、何とも言えないような鈍い音が鳴った。そして同時に、硬いものを殴った時のような衝撃が剣を握る手にやってくる。
「あちゃぁ〜。ダメだね。」
剣を持ち替え、衝撃でビリビリする手を振りながら残念そうに溢す。
刃はしっかりと立てた。立てたのだが、メイの筋力があまりにも低すぎた上に、レッサーキマイラの防御力が思った以上に高かった。結果、前脚には薄っすらとした傷しか付けられなかった。
「・・・もう何度か試してみよう。」
レッサーキマイラの傷痕を確認したメイはそう呟くと、剣での近接戦闘を続行した。
ダメだったのは確認したが、一応だ。それに、全部が全部ダメでは無いはずだ。どこかに攻撃が通る部位があるかもしれない。
たぶん、無いだろうなぁ・・・。
それから数分、本心では無理だろうなと思いつつ剣での攻撃を繰り返すメイ。レッサーキマイラを斬りつける度、地下独房にゴスッ、ゴスッという鈍い音が鳴り続ける。
10数回ほど剣での攻撃を試したメイは、レッサーキマイラから距離を取ると剣と肩を下げ、がっくりと落ち込みだした。
「やっぱり剣じゃ無理か。はぁ・・・、それにしても、ここまで弱くなってるのかぁ・・・。」
泣きたくなるほどの力の無さに、溜息と悲しみが口から漏れ出す。
まさか全く剣が通らないとは・・・。
剣だけで倒すのは無理だろうと思いつつも、同時にもう少しどうにかなると思っていた。それだけに、メイにとってこの結果はかなりの衝撃だった。
「グオオォォオオ!!」
「うるさい!今落ち込んでるの!!」
咆哮に対して文句を叫ぶ。だがそんなメイの気持ちをレッサーキマイラ理解する訳が無く、殺意増し増しの噛み付きをお見舞いしてくる。
迫り来る噛み付きを後ろに跳んで回避し、気持ちを切り替えて倒す方法を考え始めた。
剣が通らないから近接は不可。であれば魔法しかないね。
前脚の振り下ろし、噛み付き、闇魔法、蛇の尾が使う炎魔法、それら全てを回避しながら、思考を続ける。
魔力はマックスだけど、中途半端な魔法じゃ殺しきれないね。数撃ってもダメそうかな。
回避と思考を同時にこなすメイの視線が、レッサーキマイラの体に向く。
「・・・いい色してるね。」
舐め回すように全身を眺めたメイは、ニヤリと笑いながら嬉しそうに呟いた。
ふむふむ、綺麗に倒したいね。となれば今できる全力で・・・。
何かを見つけたメイは、ニヤニヤしながら一気に作戦を練り始める。そしてたった数秒で決定した。
「よし!これでいこう!」
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また明日。