138 リアンヌ
入ってきた方とは逆の入り口から、聞き覚えの無い女の声が聞こえてきた。
「っ!?」
なんだ!?気配しなかったぞ!?
驚愕しながらも声が聞こえた方向に向けて、咄嗟に全員武器を構える。
コツ、コツ、という靴音が妙に響く。数秒後、声の主と思われる人物が真っ暗な通路の先から現れ、足を止めた。
聞こえてきた声の通り、女性だ。明るい紫色をした長い髪に、顔には人を小馬鹿にするようなニヤケ面を貼り付けている。
鑑定は・・・、範囲外か。
距離が離れ過ぎていたためナインの鑑定が不発に終わる。仕方なく直接正体を誰何する。
「・・・ラグナロクの魔人か?」
それしかあり得ない。そう確信しているが、鑑定が届かなかったので一応念のためだ。
「おや?あたい達の事を知ってるのかい?という事はあんた達がサージェスを殺した奴さね?」
変わった喋り方をする女は肯定するような言い草をすると、こちらの正体にも気付いているような発言をする。
まあ気付くよな。こんなタイミングで侵入してくるような奴なんて限られる。
「あいつは自爆したんだ。僕達が殺したわけじゃない。」
「負けて死んだなら似たようなもんさね。」
仲間意識などかけらも無いような言い方だ。この女だけなのか、それとも魔人全体が仲間意識が薄いのか、いや、サージェスはこんな感じではなかったな。
「随分な言い草だな。で?お前は何級魔人なんだ?サージェスと同じ三級か?」
「はぁ・・・、どうもあの阿呆はペラペラと喋っていたみたいさね。・・・まあいいさ、あたいの名はリアンヌ。死んだ阿呆と同じ第三級魔人さね。」
リアンヌと名乗ったこの女は、余程サージェスの事が嫌いだったようだ。2度も阿呆と口にしている。
サージェスと同じ第三級か。さて、どの程度の戦闘力だ?いや、それよりも何故こいつは現れた?
「何しに来た?」
「ああん?別に来る必要は無かったんだがね、お前達が下から来たのがわかったから顔だけでも見ておこうと思っただけさね。」
「・・・なるほど、スキルか魔道具か。」
「ほう?中々頭が回るんさね。でもま、教えはしないが、お前達程度じゃどうすることも出来ないものがあるって事さね。」
そう言ってリアンヌは不適な笑みを浮かべる。その様子は、まるで自分が圧倒的上位者であるような振る舞いだ。
どうやら潜入時点でバレていたようだった。見張りがいなかったのに何故?と思ったが、おそらく気配感知のスキルか何らかの察知系魔道具を使用したのだろう。
そして同時に、見張りがいなかった理由も判明した。僕達の予想した、生き残りを出さないため、という理由だけでなく、そもそも見張り自体必要が無かった。という事なのだろう。
正直、見張りの代わりに何をどうやったのか詳しく知りたかったが、答えを知るリアンヌが素直に教えてくれる訳が無いので、泣く泣く諦めるしかなかった。解決した後に時間があったら調べてみよう。たぶん無理だろうけど。
それにしても、こいつも性格が傲慢な感じだな。魔人はみんなこうなのか?今後遭遇する奴が軒並みこんなのばっかりだとしたら普通に嫌なんだが。
「次だ。この部屋の魔物について、必要なくなったからって言ったな?どういう意味だ?」
リアンヌは僕の疑問に答えるように、必要なくなったからと言った。必要なくなったとはどういう事だ?必要だった大量の魔物がいらなくなった。そうなる理由は何だ?
「覚えていたんさね。」
リアンヌがニタリと気味の悪い笑みを浮かべる。そして右手を高く上げる。
「そりゃぁ・・・、こういう事さね!」
パチンッ!!
そう言ってリアンヌは右手の指を鳴らし、音を響かせた。
「ゴアァァァアアアッ!!!!」
爆音のような咆哮が地下独房に響き渡る。
「何だ!?」
「っ!上!!」
メイの声を聞き、咄嗟に上へと顔を向ける。
何かが上から降ってきていた。
「後ろに跳べっ!!」
グレンの叫ぶような指示で、全員が動く。
バッ!、ズダンッ!!
跳び退った直後、真っ黒な何かがナイン達がいた位置に音を立てて降りてきた。
間一髪で回避に成功したナイン達は、降りてきた存在に視線を向ける。土煙ではっきり見えないが、かなりの大きさだ。体長はわからないが、体高は2メートル近くありそうだ。以前戦ったアクアタイガーくらいある。
土煙と薄暗さでしっかりと把握出来ない中、現れたのが何なのか詳細を鑑定しようとするナイン。だがその行動は、隣に立つメイの呟きで中断された。
「レッサーキマイラ・・・。」
宜しければ、評価、ブックマーク、いいねをして頂けると嬉しいです。
また明日。