133 豊漁祭
潜入ルートを探していた日から、3日が経過した。今日は10月31日。豊漁祭当日である。
現在時刻は16時少し前。あと1時間もしないうちに日没だ。
潜入は17時開始を予定している。爆破が起きると思われる抽選会の開始時刻が20時。一応作戦可能時間は3時間くらいある。あるが、そこまでかかることは無いだろう。元々予定していた通り、長くても1時間ほどだ。
「こっちは準備出来たよ。グレンとルチルは?」
そんなもうすぐ潜入開始という時間ではあるが、ナイン達はまだ宿の部屋で待機していた。準備は粗方済んでいる。それなのに移動を開始していない理由は、単純にまだ早かったというだけだ。
「俺も終わった。」
「私も大丈夫です。」
29日、30日の2日間は出来る限りの準備に使った。
残念ながら豊漁祭間近のせいで門が混んでいたので、外に出てのレベル上げは出来なかった。町の門というのは日没で閉鎖される。混み具合によっては、その日に入場が出来ないなんて事も十分ありえた。
町の外に出れない分、装備の購入やスキルのレベル上げに時間を使った。まあスキルに関しては部屋の中で出来る範囲にはなったが。
「・・・そろそろ時間かな?」
メイは部屋の備品である壁掛け時計に視線を向け、時刻を確認する。つられてナインも時計に目を向けた。
「そうだな。」
潜入ルートや装備、レベル上げ、色々な事を残りの時間で出来る限りやった。やったのだが、もっとやれた事があったかもしれない、という思いが何度も頭の中を過ぎる。
絶対に失敗は出来ない。不安ばかりが募っていく。それでも、やるしかない。
全力で。後悔しないように。覚悟を決めて。
目を閉じ、深呼吸を一つ、そうして肩の力を抜くと仲間に視線向ける。
「行こう。」
全員に向けて告げる。
そして作戦開始まで残り1時間となった16時。僕達は全ての準備を終えて、部屋を後にした。
「人気は・・・無いな。」
宿を出てから30分少々で、ナイン達は3日前に見つけた港の一番東にやってきた。
祭り会場からも遠く、港の一番端に当たる場所なので、ものの見事に人気が無い。そして暗い。街灯すら無いような場所だ。
移動中、一応は警戒をしていたが、下手に気配を消したり姿を隠したりはしていない。人の多い豊漁祭中に気配が薄い者がいれば、それはそれで逆に目立つからだ。
「念の為今のうちからマント着て隠蔽もしとこう。」
「あー、そうだな。そのほうがいいか。」
メイの言葉に、全員がマジックバッグからマントを取り出し、すぐに装着する。
このマントは隠蔽のマントだ。準備の2日間に購入したもので、名前の通り隠蔽スキルと同じ効果が付与されている。効果自体はスキルレベル5くらいと微々たるものだが、無いよりはあったほうがいいだろうと考え、全員分を購入した。
それに、このマントと自前の隠蔽スキルを併用すれば、効果が加算されてそこそこの気配遮断効果になる。潜入をする上では必須の装備と言えよう。
ちなみに値段は1枚5万トリアとかなり高かった。一応まとめ買いで少し値引きしてもらったが、それでも4枚で18万だ。グレンとルチルもお金を出してくれたが、それでも高い。おかげでナインの財布はペラペラになった。
「それじゃあ完全に日が落ちるまで、待機しよう。明かりは使わないようにな。」
時間までの待機を言い渡し、その場に座るとナインは携帯食を食べ始める。一応宿で昼食をとったのだが、潜入中に夕食は無理なので、今のうちに何かお腹に入れておく。腹が減っては戦はできぬ、というやつだ。
食べながらみんなの様子を伺う。グレンは携帯食を咥えながら、大剣の手入れをしていた。ここ数日は使っていないのでずっとピカピカなのだが、念の為なのだろう。
メイとルチルは並んで座り、小声で何か話していた。『重力魔法』や『風魔法』など、聞こえてくる単語からして魔法に関する話だろう。ルチルの尊敬する翠の賢者について詳しいメイに、何かアドバイスでも貰っているのかもしれない。
仲間の様子を確認したナインは、その気負うことの無いいつも通りの姿に、そっと安堵する。もちろん緊張はあるだろう。だが、変に固くなったりはしていないので、コンディションは良いと見ていいだろう。
その後、各々バッグの中を確認したり、装備のチェックをしたりと過ごしていると、あっという間に30分が経過した。
「完全に沈んだな。よし・・・。」
薄っすらとだけ赤く染まる空に向けていた視線を戻し、振り返る。
「作戦開始だ。」
強く、だが静かな声で、開始を告げた。
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また明日。