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レゾンデートル  作者: 星街海音
第二章 海町は明日を願う
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132 丘の下

本日の2話目です。


 「さて、と。とりあえず移動したけど、このまま港の方に行くのか?」


 ルート確保を目的としているので、このまま移動していいのかグレンに確認する。領主館から離れてしまえば、ルートを見つける事が出来なくなってしまうと思ったからだ。


 「まあ仕方ねえだろ。あのままあそこにいる訳にはいかねえからな。めっちゃ見られてただろ?」


 「うん。怪しまれたかな?」


 「たぶんあれくらいなら大丈夫だ。あれ以上はマズいけどな。」


 「そっか。」


 領主館がある丘を港に向けて降っていくナイン達。そうして歩いていくと、ふととある場所がナインの目についた。


 下へと降りる階段。この町の地下に張り巡らされた下水道への入り口だ。


 村くらいだと存在しないが、集落の規模が町以上だと衛生管理のため、必ずと言っていいほど存在する。


 「下水道、か。なあグレン、下水道は無理か?」


 町の地下の至るところにまで繋がっている下水道だ。もちろん領主館の地下にも繋がっているだろう。これを利用して潜入は出来ないだろうか?


 いけるんじゃないかと思ったナインは、さっそく使用可能かの可否をグレンに聞いてみた。だが、グレンの反応はあまり思わしくなかった。


 「あー、行けるとは思うんだが、かなりキツイな。」


 グレンは口をへの字に曲げて難色を示すと、キツイと言った理由を口にした。


 まず、構造とルートが不明。大抵の下水道は、人が通れる通路と水しか通れない狭い通路があり、領主館の近場から入ったとしてもすんなり行けるとは限らない。構造とルートの確認が必要になるが、そのために何度も入れば流石に目立つ。そしてそんな時間は無い。構造が描かれた地図でもあればいいが、基本そういった物は町の機密に値する。よって入手は不可。


 次に、下水道には人の侵入を阻むための鉄格子がある。しかも大量にだ。鍵があれば開けて通ることは出来るが、手に入るわけもない。じゃあ破壊すればいい、と考えるが、壊さなきゃいけない鉄格子の数が多過ぎる。それにどうしたって音が出る。下水道は音がかなり響くので、外まで破壊音が漏れかねない。


 以上の事により、下水道を使用しての潜入は厳しいと言わざるおえない。


 「なるほど・・・。無理だね。」


 黙ってグレンの説明を聞いていたナインは、全て聞き終えると静かにそう呟いた。


 下水道は無理だ。いや、時間があれば潜入ルートに出来たが、現状だと使えない。構造の把握、鉄格子除去、ルート確認、これらをやるための時間が圧倒的に足りない。


 どうしたものか・・・。


 正門不可、裏門リスク高、下水道時間不足。あとどこからなら行けるんだよ。


 下水道の利用不可を受け、落ち込んだりイラだったりを繰り返すナインと、周囲に目を向け潜入に使えそうな場所を探すグレン。


 それから10分ほど、歩き続けた2人は他に使えそうなルートを見つける事は出来ず、港まで到着した。


 「潜入出来そうな場所を探してた筈なんだけど、港着いちゃったな。流石にここまで来るとかなり領主館から離れるな。」


 海に向けていた視線を後ろに向ける。丘を降りてきたので、城のような領主館がかなり高く見える。


 今いる場所は、カルヴァースの北側にある港エリア、その最東端だ。はっきり言ってしまえば一番端だ。ここまで来るともはや船は無い。漁に使う資材やら、小舟やらがある資材置き場という感じだ。


 ナイン達は現在、その港の一番端に立ち、領主館を見上げている。


 「こうして降りてくると、領主館ってかなり高い位置にあるな。」


 「貴族なんてそんなもんだ。高く、大きくが好きな奴ばかりさ。」


 「グレンも?」


 「俺は田舎出身だ。」


 田舎という言葉に少なからずナインは驚いた。彼は貴族の四男と言っていたが、大きな貴族家では無いのかもしれない。ふむ、また一つグレンの事を知る事が出来たな。


 その後も領主館を見上げながら貴族についてくだらない話をしていると、見える景色の中でふと気になる部分を見つけた。


 丘の上にある領主館から見て南の陸側、そちら側はなだらかな勾配になっている。では現在ナイン達がいる北側はどうか。


 「崖か・・・。それに、あれは・・・。」


 切り立った崖になっていた。そして崖の下辺り、そこに何やら建造物のようなものが見えた。ただ距離があるので、あれが何かはわからない。


 「なあグレン、あれなんだ?あの崖下にあるやつ。」


 「あ?ああ、ありゃ港だな。たぶん領主専用、の・・・。」


 気になったナインがグレンに聞いてみると、すぐさま答えが返えってきた、だが次第に声が尻すぼみになっていく。

 

 領主館専用だと?という事は領主館内に繋がっているのか?であれば


 「使える?」


 潜入ルートとして使えるのでは?


 「・・・使えるな。」


 少しだけ考え込んだグレンは、頷きとともにそう答えた。


 「警備はいるだろうが、制圧するとしても一般の港も領主館も距離がある。音でバレる可能性は低いだろう。」


 「なるほど。どうやってあそこまで行く?」


 「舟・・・、俺達は4人だから小舟だな。陸地に沿って移動すれば夜なら見つかり難い筈だ。」


 「ふむ、なら黒い布かなんかを被った上で隠蔽スキルを使えば、よりバレ難くなりそうだな。」


 警備がいたとしても距離があるので音や目でバレ難い。少数なので小舟で移動が出来る。気配を消して目立たなくすれば、港まで近付ける可能性がかなり高くなる。


 裏門からの潜入なんかと比べても、リスクは低く、成功率が高そうだ。


 「だが、問題はある。」


 ここで決まりか、と思っていると、グレンが眉間に皺を寄せ、港からの潜入に何らかの懸念点がある事を告げた。


 「問題?」


 「ああ、事前にあの港の下見が出来ねえ。だから確認無しのぶっつけ本番になる。」


 どんな形になっているか、何処がどう繋がっているのか、その確認が出来ない。そのため、潜入時に対応しなければいけなくなる。


 確かに問題だ。だが


 「裏門から行くよりはマシに感じるけどなあ。」


 裏門からになれば、潜入ではなく襲撃となる。作成開始と同時に兵士や騎士が集まってくる可能性が高い裏門よりは、かなりマシに感じる。それに周囲に見つかり難い点もだ。多少荒っぽくなっても余裕を持てる方が、相手を傷付けずに対応しやすくなる。


 「まあ、俺もそう思う。つってもぶっつけ本番なのは変わりねえ。もし港からの潜入が出来ねえとなれば、急いで戻って裏門から突っ込むことになるだろう。」


 「それは仕方ないね。とりあえずは、港からの潜入を第一、裏門が第二って考えておく感じだね。」


 「だな。」


 出来ればここで決まりになってほしい。潜入ルートが決まらなければ、いつまで経っても準備に取りかかれないからな。


 「そんじゃあここで決まりだとは思うが、他にも無いかどうか、今日一日はしっかり探そうぜ。」


 「元々その予定だったしね。夕方までは頑張るとしますか。」


 そう言ってナイン達は港から離れると、再度領主館に向けて丘を登り始めた。


 潜入ルートはほぼほぼ決まった。あとは夕方に宿に戻り、メイとルチルに話してから準備に取りかからねば。

宜しければ、評価、ブックマーク、いいねをして頂けると嬉しいです。


また明日。

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