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レゾンデートル  作者: 星街海音
第二章 海町は明日を願う
132/251

131 巨大な領主館

本日は2話投稿です。


2話目の投稿は20時です。


 明けて10月28日。


 豊漁祭開催まで残り3日となった今日、ナインとグレンは潜入ルート確保のため領主館へと向かっていた。


 領主館は、町の中央を南から北へと真っ直ぐ伸びるメインストリートを挟んで東側、その一番端にある小高い丘の上に存在する。イース大陸一の港町だからか、館の外観は屋敷というよりも城という方がしっくりくるような威容だ。


 丘の周辺は、各役人の家や警備隊、領軍、騎士の宿舎という感じで、公務に携わる者達の住宅が固まったエリアとなっている。


 この領主館と部下達の住居が固まるエリアを、住人達は貴族街と呼んでいる。実際には貴族なんて数人しかいないらしいが、まあそこはそれなのだろう。


 「警備が厳重だな。しかも警備隊じゃなくて領軍兵士だ。」


 「そりゃ貴族エリアだからな。」


 貴族エリアに入ると、1分もしないうちに十数人の兵士とすれ違った。このエリアには宿舎があるので、はじめは出歩いている兵士とただすれ違っただけだと思ったのだが、どうも違うようだった。なぜなら、兵士達は必ず3、4人のグループで行動していたからだ。


 「そんじゃあ一応注意しながら話すとして、潜入から完了まではおそらく、長くても1時間くらいだ。それと、日中は目立つ上に警備の目も多いから決行するなら夜だ。」


 領主館へと足を進めつつ、兵士に会話を聞かれないよう注意しながら、グレンが潜入作戦について話し出す。


 長くても1時間なので、実際はもっと短いだろう。そして決行が夜なのも納得だ。グレンが言うように、日中はどうしたって目立つ。警備の目も多いと言うが、住人の目だってある。ただでさえ難度の高い潜入なのだ、失敗のリスクは出来る限り抑えるべきだ。


 「決行日は、やっぱり豊漁祭当日か?」


 「ああ、祭り開催中は警備隊と領軍の大半が町中の警備に出払う。場合によっちゃ騎士も出るかもしれねえ。そうなりゃ相対的に領主館の警備が薄くなるはずだ。時間的にかなりギリギリにはなるが、失敗は出来ねえからな。」


 「短期決戦で確実に決めるには当日しかない、って訳か。」

 

 「そういう事だな。」


 ふむ、中々にギャンブル性が高い作戦になりそうだ。だがだからこそ、作戦の成功率を出来る限り上げなければいけない。祭り当日の夜が1番潜入しやすいというなら、僕達はそれを選ぶ。なにせたった4人での潜入だからな。


 そうして小声で話をしながら歩を進めていったナイン達は、今日のお目当ての場所に到着した。


 「でか・・・。」


 「遠くからでも見えてたがでけえな。流石港町の領主だ。金持ってんだろうな。」


 正門から20メートルほど離れた場所で立ち止まり、正面に見える領主館を見上げる。


 遠目からでもわかっていたが、本当に大きい。そしてどう見ても館では無い。ほぼ城だ。正門の扉は高さが5メートルくらいあり、幅にいたっては馬車が横並びで3台並べるくらいある。


 どうやって開閉するんだ、これ?魔道具か?もっと小さくて良くない?


 「・・・見られてるね。」


 口をポカンと開けながら館を眺めるナイン達に、正門前で警備をする騎士が鋭い視線を向けてきていた。


 「おっと。まあつっても大丈夫だろ。俺達は観光してるだけだ。何でもねえ顔しとけ。」


 「僕の苦手な分野だ。警備隊に探りを入れた時の事を思い出して欲しいものだね。」

 

 「そんな昔の事は忘れたな。」


 「ついこの間ですけど?」


 そうやって軽口を言い合いながらも、なんだかんだと言いながら慣れたのだろう、前回の警備隊の時よりは緊張していない。覚悟が決まっているのも理由としてあるかもしれないが、慣れたのはいい事だ。


 まあ、それはそれとして


 「正面からは無理だね。」


 「そうだな。横に人用の通用口はあるが、ありゃ騎士の待機部屋に繋がってる。使えば速攻でバレて即潜入失敗だ。」


 「ていうか、そもそも門番の騎士がいなくなる事は無いんだから、通用口云々の前にバレるだろ。」


 「どっちにしろ無理、と。まあわかってた事だ。」


 正門は祭り当日になろうと警備が薄くなる事は無いので、潜入ルートに使うのは絶対に不可能だ。ただこれに関してはグレンが言うように元々わかっていた事だ。それでもわざわざこうしてやってきたのは、一応確認は必要だろうと思ったからだ。


 やっぱり正門は無理と。


 「裏門とかは?」


 正面がダメなら裏だ。


 「無理だな。つっても正門よりはまだマシだろうから場合によっちゃ使うかもな。」


 「使うかも?でも警備はいるだろ?」

 

 「いるだろうが、裏の方が人の目に付き難いだろうし、音も響き難い。だから場合によっちゃだ。」


 「なるほど。」


 グレンの言い分に納得する。だがそうは言っても正門よりはマシなだけだ。一応は潜入ルートになるかもしれないが、警備がいる場所に突っ込むのなら、それはもはや潜入ではなく襲撃だ。警備の騎士を傷つける事になる。


 僕達としても、関係無い者を傷つけるような事は出来る限りしたくはない。だが、事態はそう甘い事を言っていられる状況ではない。騎士の命を優先した結果作戦に失敗し、町が壊滅するなどあってはならない。だから裏門を使う事になった場合、僕達は躊躇ったりはしない。しないが・・・。


 「使いたくないなぁ・・・。」


 声となってナインの口から溢れる。


 「まだここしか見てねえんだ、今日1日じっくり探そうぜ。他も見てまわりゃ、都合が良いルートが見つかるかもしれねえからよ。」


 「そうだな。」


 まだ探し始めたばかりだ。決定を下すのはまだまだ早い。しっかりと見て、確かめて、考えて、そしてから決めよう。


 グレンの言葉に頷き、視線を正門から門番の騎士に向ける。


 「おっと、そろそろ移動しよう。すごい目で見てる。」


 「とりあえず北の港側に向かうか。こっから行こう。」


 ギロリ、と音がしそうなほどの目をした騎士の視線から逃れるようと、領主館前の通りから港側に向かう通りに入る。急ぎたいところだが、急げばどうしても目立つので、我慢してゆっくりと歩く。


 「「ふうー・・・。」」

 

 気配や感覚で騎士の視線が切れた事を確認すると、2人揃って深い息を吐いた。


 危ない危ない。ちょっと長居しすぎたな。


 「さて、と。とりあえず移動したけど、このまま港の方に行くのか?」

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