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レゾンデートル  作者: 星街海音
第二章 海町は明日を願う
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130 自力で潜入


 「裏の組織が無理なのはわかったけどさ、組織って別に1つでは無いんだろ?ほかの組織じゃダメなのか?」

 

 何も大きいところでは無く、それ以外の受けてくれそうな組織に頼めばいいのでは?


 話を裏組織と潜入に戻したナインは、ふとした疑問を口にした。


 「それも無理だ。今回の潜入先は領主館だからな。中途半端な組織だと実力が足りずに潜入失敗なんて事になりかねねぇ。」


 いつも通りに戻ったグレンに、これまた先ほどのメイの時と同じようにピシャリと否定された。


 なるほど、潜入の難易度が高い場所だから組織の実力も高いものがいるのか。確かにその通りだな。いざ潜入となった時に、実力が足りずに失敗してしまったら、潜入先の警戒度が上がってより潜入し難くなる。時間の無い僕達にとって失敗は何よりもマズい。そして2度目の潜入というのは不可能だ。


 という事は、やはり裏組織は使えない。


 「各ギルドの協力も・・・、まあ無理だな。」

 

 「領主が操られているから、ですよね。」


 冒険者ギルド、商業ギルドなんかの大手ギルドの協力についても、グレンは不可を告げる。理由に関しては、ルチルが言葉にしてくれた。


 この町のトップである領主が操られている現状、各ギルドのトップも操られていないとは言えない。


 そしてもう1つ、こちらは信用度の問題だ。単純なことで、領主と一冒険者なら領主の方が信用される。ただそれだけだ。僕達がどれだけ声を上げようと、傀儡になった領主の一言で握りつぶされてしまう。


 よって味方はいない。


 「協力者は無し、と。やっぱり自力で潜入だね。」


 いつの間にか普通に戻っていたメイが、潜入についての結論を口にする。

 

 まあ自力しかないよな。だが潜入して終わりではない。


 「上手く潜入したとしても、ほぼ間違いなく魔人3人と戦闘だ。そっちの準備もいるだろ?」


 「そうですね。スキルだけじゃなくて、出来る限り装備なんかも良い物を用意した方がいいと思います。私は外に出られないので、買い物にもレベル上げも出来ませんが・・・。」


 「あー、買い物か。ルチルの分はメイに選んでもらうのは?同じ女性だし、メイなら知識もあるから変な物は選ばないだろ?」


 魔人戦を考えれば、ルチルも出来る限りの準備が必要だろう。そして当人が外に出られないなら代わりの者にやって貰えばよい。


 メイの方へ視線を向けると、ナインはそう提案する。対してメイは少しだけ不満そうにしていた。


 「知識無くても変な物は選ばないよ。ルチルはどう?私が見てくるのでもいい?」


 「はい、お願いします。」


 ルチルが了承したので、彼女の装備はメイが見ることになった。


 さて、買い物はいいか。となればレベルは無理だからあとはスキルだな。


 「スキルに関しては、この部屋の中で出来る範囲でだな。」


 「そうですね。隠蔽とか魔力統制なんかのスキルを上げておきます。」


 ナインの提案に、ルチルは少しだけ残念そうな表情をする。


 変装はしているので、おそらく気付かれる事は無いと思うのだが、今の状況だと万が一見つかった場合、かなり面倒くさい事になる。そうなれば潜入にも影響が出て、作戦失敗の可能性が上がる。どうしてもリスクの方が大きい。

 

 申し訳ないと思うが、ルチルには我慢してもらうしか無いのだ。


 「よし!それじゃあ明日は僕とグレンで潜入ルート探し、メイはルチルの護衛で宿待機だ。明後日はグレンとメイが交代な。だからルチルの分の買い物は明後日だ。それでいいか?」


 ナインがささっと明日と明後日の予定と人員を決める。


 別に急いで決める必要は無いのだが、今日出来る事はもう無い。そして、もうすぐ夕飯時である。いや、ここははっきり言おう。お腹が空いたのだ。


 「いいよ。」


 「問題無え。」


 「大丈夫です。」


 三者三様の返事を受け、ナイン達は今日の報告と会議を終える。そしてそのまま全員で夕飯の支度を始めた。


 どうやらお腹が減っていたのは僕だけではなかったようだ。












Side???


 「サージェスは・・・、ふむ、やはり死んだか。」


 月明かりが差し込む豪華な一室。そこに置かれた豪華な椅子に深く座る男は、感情を含ませぬ重い声で呟いた。


 「はい、ほぼ間違い無いかと。帰還も報告も無い上に、彼が出てから1時間後に、倉庫街にてこちらの計画には無い爆発がありました。おそらく何者かに負け、爆弾によって自殺したのかと。」


 椅子に座る男とは机を挟んだ反対側、部屋の中央に立つ真面目そうな声の男が、推測を交えて報告を上げる。


 計画の最終段階まで残り4日というそんな日に、町中にばら撒いている入場券の1つから異常信号が発せられた。この信号は、入場券を開けられるか破壊されるかすると発せられるものだ。


 今までにもこの信号が発せられた事は何度かある。その度にサージェスが現場に赴き、秘密裏に原因を排除していた。大衆に中を知られる訳にはいかないからだ。


 そうして今回もまた、異常信号を察知したサージェスは今までの対処と同じように、原因の確認と排除に向かった。


 そして戻っては来なかった。


 「は!いい気味さね。いつも偉そうにしていたくせにこんなレベルの低い大陸で殺されるなんて、とんだ恥知らずさね。」


 真面目そうな声の男よりもさらに奥。壁にもたれるようにして立つ独特な口調の女が、死んだサージェスを馬鹿にする。


 「リアンヌ、同志を貶すのはやめたまえ。」


 「ああ?弱いから死んだんさ、本当の事を言って何が悪いさね。」


 「やめよ、ただでさえ時間が迫っている。仲間内で言い合っている場合では無い。」


 2人の言い合いに、椅子に座る男が口を挟んだ。それから視線を真面目そうな声の男に向けると確認をとる。


 「ジャグラ、サージェスを倒した者が誰なのか、判明はしているのか?」


 サージェスを倒した者。そいつはほぼ間違いなく、魔人がこの町で暗躍している事に気付いている。計画の妨げになりうる存在だ。出来る事なら最終段階までに消しておきたい。


 「・・・申し訳ありません。爆発時、即座に警備隊を向わせましたが誰もおらず、痕跡も目撃者もおりませんでした。」


 「そうか。」


 敵は状況を把握して、即座に離脱していたようだった。中々に良くない状況だ。敵がどの程度の奴なのか、そしてどの程度の規模なのか、全くわからない。残り4日というタイミングで余計な懸念事項が生まれてしまった。苦々しい思いが湧き上がってくる。


 「ジャグラ、リアンヌ、この残り4日、警戒を強めろ。」


 椅子に座る男は、部下でもあり同志でもある2人にそう命じると、窓の外で輝く月に視線を移す。


 「どうやら簡単にはいかないようだ。」


 そうして男は自重気味な笑みを浮かべると、誰に訊かせるでも無い言葉を小さく呟いた。

宜しければ、評価、ブックマーク、いいねをして頂けると嬉しいです。


次回は月曜日です。

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