127 今わかっている事
本日の2話目です。
コンコン、ココン、コン。
「戻ったよー。」
宿に戻ってきたナインとメイは、借りている部屋の扉を特定のリズムでノックした。これは事前に決めておいた味方識別の合図だ。まあこの4人しか知らないので、味方識別も何もないんだが。念の為だ。
ガチャ。
「メイさん、ナインさん、おかえりなさい。」
「ただいまー。」
鍵と扉を開けてくれたルチルが、微笑みながら優しい声で迎えてくれた。それから僕達が中に入ると、ルチルがすぐに鍵を閉める。防犯と警戒のためだが、どちらかと言えば警戒の方が大きい。宿のスタッフであろうとルチルの姿を見られるわけにはいかないからな。
部屋に入ると、グレンが床の上で大剣の手入れをしていた。今日の彼はルチルの護衛だったので、やることがこれくらいしかなかったのだろう。どれだけやっていたのだろうか、刀身がピカピカに輝いている。
まあ、護衛が酒を飲む訳にはいかないからな。仕方ないことだろう。
「おう、戻ったか。こっちは何も無かったぞ。」
ナインの姿に気付いたグレンは、片手を挙げると簡潔に報告してきた。何も無いのは良いことだ。
「お前らは「メイさん!何で朝と服が違うんですか!?」・・・何かあったみてえだな。」
被せられるように発せられたルチルの声に、苦笑するグレン。服が変わっていれば流石に何かあったと気付くだろう。
グレンに苦笑で返すと、ナインはリビングスペースに置いてあるソファに座る。
「あー、とりあえず先に報告するよ。」
大事な事は先に済ませたほうがいいだろうと考えたナインは、全員をテーブルに呼ぶと、森で行った分解の事から話し始めた。
「ラグナロクの魔人か・・・。まさかイース大陸にいるとは思わなかったぜ。」
全てを聞き終えたグレンは、あまりの驚きに小さな声でそう溢した。彼の言葉に疑問を感じたナインは首を傾げる。
どういうことだ?いるとは思わなかったって言い方からして、今までは来たことがなかったってことか?
「この大陸には侵攻がなかったのか?」
「俺が知る限り無えな。」
「私も聞いたこと無いです。」
ナインの質問に、グレンとルチルが間を置かずに答える。どうやら2人とも聞いた事がないようだ。という事は
「これが初めての侵攻、って事?」
言おうとした思っていた事をメイが先に口にした。そう、初侵攻だ。いや初暗躍かな?まあどっちでも同じか。
それにしても、どうやらこの事件は思っていた以上にかなり大きいようだ。偽装爆弾を使った領主によるテロ行為だ、と思っていたら、他国による侵略行為だった。前者だったとしてもかなり大きい事件なんだけどさ。
「わからん。もしかしたら表に出てねえだけで過去にあったかもしれねえからな。つか俺から話し始めたけどよ、ぶっちゃけそこは今重要じゃ無えんだよな。」
「そうだな。初の侵攻とか関係無く、ラグナロクの暗躍は絶対に止めないといけないからな。」
豊漁祭での一斉爆破。それによるカルヴァースの壊滅。ここに初の侵攻がどうたらなど関係は無い。
止められなければ、人が死ぬのだ。
「とりあえず、前にやったみたいに今わかっている事を紙に書いてみませんか?判明している事がかなり増えたので、整理する意味でもいいと思うんです。」
「そうしよっか。えーと、紙、紙・・・。」
ルチルの提案を受けて、メイが紙と筆記具を用意する。そうして用意が出来ると、現在判明している事柄を各々が口に出し、メイが紙に書き込んでいった。
敵について
ラグナロクの魔人が4名(内1名が自爆により死亡)
グラベルという名の第二級魔人がリーダー
人を傀儡にする何らかのスキル持ち
死亡した第三級魔人サージェスが自分は2番目に強い(真偽不明)と言っていたので、残り2名はおそらく第三級魔人
領主が傀儡にされているらしく、事件に関わっていない可能性大
他にも操られている者がいる可能性大
ラグナロクの目的
入場券型の魔道爆弾を用いた、豊漁祭中にある抽選会での一斉爆破
カルヴァースの壊滅
爆弾について
遠隔で起爆信号を送ることにより、爆発する
起爆装置がどんなものかは不明(サージェスの自爆により、情報と現物の回収に失敗)
行動方針
豊漁祭抽選会までにラグナロクの魔人を倒す、もしくは起爆装置を押さえる
起爆装置がどういう原理の魔道具なのか推測する
領主を操り、警備隊を利用している事から、おそらく魔人と起爆装置は、領主館に存在すると思われるので、潜入方法を考える
「・・・こんなところかな?最初から見るとかなり判明したね。」
以前と比べると、沢山書き込まれた紙を見て、メイが嬉しそうにする。対してナインは、何も嬉しくなかった。
何せ魔人によるカルヴァース壊滅を止めるためには、領主館に潜入しなければならないからだ。しかも潜入後、魔人か起爆装置を押さえなきゃいけないが、装置がどんな物なのかナイン達は全くわかっていない。
そしてもう1つ。魔人を倒すだけで止められるのか?という問題もある。もし起爆装置が時限式になっていたら?そうなれば魔人を倒したとしても爆発は止められない。
だからこそ、起爆装置について情報を得られなかったのがかなり痛いのだ。
苦い顔をしながら紙を見ていたナインは顔を上げると、同じく紙を見ていたルチルに質問を投げかけた。
「ルチルは起爆信号を送る魔道具について、何かわかったりしないか?」
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また明日。