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レゾンデートル  作者: 星街海音
第二章 海町は明日を願う
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126 逃走と帰還

本日は2話投稿です。


2話目の投稿は20時です。


 「メイっ!!げほっ!げほっ!」


 土煙で視界が遮られる中、腰に抱きついているメイに呼びかける。


 くそ!油断しないようにしていたのに頭から抜けていた。奴め、自爆しやがった。


 逃げられない上に、この後殺される事がわかっていたからだろう。手足が無い状態で何とか起爆装置を使用し、自身が持っていた入場券を爆発させて自爆しやがった。


 しかも、ついでとばかりに僕達を殺そうとまでしてくれた。


 「メイ!メイっ!!」


 呼びかけても返事どころか反応すら返ってこない。彼女もナインと同じように死ぬことはない。そうとはわかっていても、どうしようもない焦りが生まれてしまう。


 爆炎に飲まれる瞬間、メイはマジックウォールという名前の半透明の壁を出現させる魔法を使用し、炎から守ってくれたのが見えた。


 だが、完全には防げなかった。爆発によって生じた余波が魔力壁を伝って回り込み、ナインとメイの元にまで到達した。


 結果として、爆炎は防げたが熱風は防げず、ナインは火傷を負い、メイは火傷だけじゃなく、服が半分ほど焼けてしまっていた。


 「痛たた・・・、大丈夫。やっぱりこの年齢の体だと防御力が低いね。ちょっとだけ意識が飛んでたよ。」


 「よかった・・・。」


 今の肉体の弱さに愚痴を溢しながら、メイが意識を取り戻した。


 「心配かけてごめんね。それより、何か残ってないか急いで確認しよう。じゃないとすぐに警備隊がやってきちゃう。」


 「そうだな。でも・・・たぶん、何も残ってなさそうだけど。」


 土煙が晴れ、あらわになった爆心地をさっと確認したナインは、小さな声で溢す。


 サージェスがいたであろう場所は、地面が浅く抉れ、周辺は黒く染まっていた。周囲には、燃えかけの木箱や、細かい瓦礫などしか見当たらない。


 そしてサージェス自身も見当たらなかった。どうやら粉々に吹き飛び、焼け消えてしまったようだった。


 「本当だ、何も残ってなさそう・・・。」


 「ああ、もしかしたらあるかもしれないけど、探す時間は無いな。」


 「だねぇ。仕方ないね、逃げよっか。」


 「そうしよう。」


 おそらく、あと数分もしないうちにこの場に警備隊がやってくるだろう。このままでは逃走ルートが無くなってしまう。なので急いで逃げなければいけない。


 ナインとメイは遺留品の捜索を泣く泣く諦め、気配を消して倉庫街から全力で離れた。












 「ここまでくれば大丈夫かな?」


 町の北西にあった倉庫街から全力ダッシュで逃走し、南西の街壁付近までやってきた。


 急いで倉庫街から離れたため、警備隊に遭遇する事は無かった。ただ、爆発音を聞いた周辺住民が家の外に出てきてしまい、通ろうと思った道が軒並み塞がれてかなりの遠回りをする羽目になった。

 

 「周囲に人の気配は無いな。メイ、今のうちに着替えちゃえ。」


 「あ、そうだね。焼けてボロボロだった。」


 メイの服、というより防具は、先の爆発で上下の半分ほどが焼けて穴だらけになってしまった。このままでは人のいるところを歩けない。


 「ちょうどいいから、さっき買ったやつ着よっと。」


 マジックバッグから買ったばかりの服を取り出し、いそいそとその場で着替えはじめるメイ。どことなく嬉しそうに見えるのは、買ったばかりの服が着れるからだろう。いつもは防具ばかりだからな。


 ナインは周囲を警戒しつつ、メイが脱ぎ捨てたボロボロの防具を拾い、ゴミ用の皮袋に突っ込む。


 「それしても、起爆装置について聞けなかったのは痛いな・・・」


 「あー・・・、現物も吹っ飛んじゃったもんね。」


 「そうそれ。最悪情報を吐かなくても、現物さえ確保出来ればいいと思ってたからなぁ・・・。自爆の可能性が頭から抜けてた・・・。」


 「私も。ずっと森に引き篭もってたから、感覚鈍ってたよ・・・。」


 手足を落として無力化したことで油断を、メイは長年の引き篭もりによる衰えで感覚が鈍くなっていた。結果、まんまとサージェスに自爆を許し、貴重な情報源を失った。


 くそ、時間が無いってのに失敗した。


 「はぁ・・・。」


 ナインは内心で悪態を吐き、大きく溜息をこぼす。


 「まあ私も油断があったから言えた義理じゃ無いんだけど、切り替えよう。もうどうしようもないしね。」


 衰えていたことに落ち込んでいたはずのメイが、あっさりと気持ちを切り替えていた。この切り替えの早さもまた、長年の経験からくるものなのだろうと、少しだけ感心する。


 確かに、もうどうしようもない。サージェスは持ち物ごと木っ端微塵だ。残ったのは抉れた地面と焦げ跡のみ。だからこそ、どうにもならない事にいつまでも落ち込んでいるのは時間の無駄だ。


 反省はもうした。今見るべきは後ろではなく前だ。


 一度だけ深く息を吐き、物理的に意識を切り替える。


 「ふぅー・・・、よし!もう大丈夫だ。」


 「私も着替え終わったよ。じゃあ宿に戻ろっか。なんだかんだ言っても、まったく情報が得られなかったわけじゃないからね。」


 そうだ。自爆は許してしまったが、ラグナロクの魔人が関わっている事や、豊漁祭で一斉爆破をしようとしている事は判明した。戻って留守番している2人に共有しなければ。

 

 「そうだな。あ、魔道具に詳しいみたいだし、ルチルなら起爆装置について何かわかるかな?入場券の構造とか、魔人達がやろうとしている事がわかったんだ、もしかしたらそこから推測出来るかもしれないだろ?」


 「あー、確かに。よし!なら急いで戻ろう!」


 ルチル頼みの考えにメイは首をこくこくと頷かせると、返事すら待たずにさっさと移動を始めた。


 「あ、ちょっと待って。まだ僕汚れたままだから。」


 爆発でナインの防具と服は焼けなかったが、土煙による汚れはしっかり付いていた。頭と顔も同様に汚れている。こんな状態で大通りを歩けば、目立つだけではなく先の爆発に関わったとバレるかもしれない。


 ナインはバッグから水の魔道具を取り出すと、急いで汚れを洗い始める。


 先に進んでいたメイが、それを見て戻ってきた。


 「ほら、手伝うから急いで。」


 その後、メイの手伝いによって早々に汚れを落とすと、一応は人目を避けて宿へと帰還した。


 ちなみに何故人目を避けたのかと言うと、まだ警備隊を警戒していたから。というのが半分。


 そしてもう半分は、ナインの髪が長すぎるせいで全く乾かず、目立つから。という理由だった。

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