118 フィッシング
本日は2話投稿です。
2話目の投稿は20時です。
入場券の分解を終え、急遽森で始まった状況確認と作戦会議から早1時間。ナインとメイはカルヴァースの町に戻ってきていた。
だがまだ町には入れていない。豊漁祭まであと数日という状況からか、町への入場者がとても多く、門の前には入場待ちの列が出来ていた。
2人は列に並びながら、思念会話で作戦を確認しあう。
『町に入るまでまだ時間がかかるみたいだし、今のうちに改めて作戦の確認だよ。』
『わかった。』
もう何度もしていのに、未だに思念会話に慣れない。目覚めた時からメイが使っていたので、聞くのは何とも思わない。だが喋る側になると慣れない。うっかり口に出しそうになる。
『と言っても別に複雑な事は無いんだけどね。』
『いつも通り、寧ろちょっと警戒が薄い感じの観光客に装うんだっけか?逆に難しいんだが・・・。』
寧ろ意識しちゃいそうだ。
『そこはほら!デートだと思えばいいんだよ!』
『デートって・・・、これから敵を釣ろうとしてるのに無理だろ。』
敵を釣る。この言葉通り、ナイン達は今から敵を誘き寄せようとしている。
おそらく、敵側には僕達が入場券を分解した事がバレているだろう。入場券には位置情報を送信する機能があり、さらにメイが言うには、分解すると送信先に異常を知らせるように作られているらしいからだ。なのでこれを利用し、何かが起きていると敵に思わせ、確認に来たところを確保を試みる。
誘き寄せのやり方はいたってシンプル。
森から門近くまで、メイが入場券を、分解しては組み立て、分解しては組み立てを繰り返す。これにより、敵側に何度も異常を知らせる信号が送られる。これならば流石に敵側も無視はできまい。
門近くまで来たら分解をやめ、ナインとメイが町に入る。気配感知と己の感覚をフルに使い、怪しい気配や視線が無いかを探りながら町を歩く。
気配を察知したら、自然を装い人気の無い場所に移動し確保。という流れだ。
まあこんなスムーズにいく事はあるまい。これでいったら敵がただの馬鹿になる。
『とりあえず、町に入ったら敵の気配なんかを探るんだろ?んで、人気の無い場所で確保する。ならそんなすぐに寄ってくる事も無いだろうし、今の大筋だけの作戦でいって、状況に応じて臨機応変に。でいいんじゃない?』
下手に詰めて作戦を考えるよりそっちの方が動きやすい。臨機応変、ああ、何て便利な言葉なんだ。
『それもそうだね。じゃあ町に入ったら敵が来るまでデートを楽しもっか!』
『嫌なデートだな・・・。』
いい笑顔で見上げてくるメイを見ながら、ナインは聞かれぬよう、そっと溜息を溢した。
カルヴァースの町中に戻って来てから早1時間。ナインとメイは、警戒を続けつつもなんだかんだとデートを楽しんでいた。
「なあメイ。これとかどう?」
「いいと思うよ!ねえ、私は?これどう?」
「いいんじゃないか?でも白は汚れやすくない?」
「もう!オシャレをするのにそんな事気にしてたらダメなんだよ。」
ちなみに今は、ちょっと高めの服屋にいる。まあ完全にデートだ。側から見ると兄妹にしか見えないが。店員が微笑ましそうな顔で見ているのが少し恥ずかしい。
町を歩いて1時間経ったが、まだ怪しい気配も視線も感じていない。生暖かい視線なら感じている。
これは、来ないのか?あまりにもあからさま過ぎたのか?やはり分解と組み立てを何度もやったのがダメだったか?
敵が現れない理由を色々と考えながら、メイが変わる変わる持ってくる服に感想を述べる。
「そうなのか。でも、白より今の黒っぽい色の方がいいと思うけどな。僕達の髪の色って真っ白だから。」
あと4日しか無いのだ。出来れば来て欲しい。しばき倒してやるから。
森で押さえ込んでいた怒りが沸々と湧き上がってくるの感じながら、何とか冷静を保とうと顔に笑顔を貼り付ける。殺気が出ないようにも気を付けなければ。
そうしてナインが服を見ながら怒りと戦っていると
「っ!?」
不意に粘つくよう視線を感じた。
「ナイン。」
咄嗟に店外の通りを振り返りそうになったナインに、メイが冷静な声で呼びかける。
振り返りそうになるのを何とか止め、小さく深呼吸をする。3度ほどゆっくりと呼吸し、冷静さを取り戻す。
『・・・ごめん。来たか?」
『来たね。まず間違いない。とりあえず出よっか。あ、これは購入ね。』
『・・・ああ。』
メイに思念会話で確認を取ると、間違いないようだった。店に被害が出ないとも限らないので、ナイン達は何でもないような様子で店外に出る。
洋服を購入した事については、演技のためだけではあるまい。たぶん普通にメイが欲しかったからだろう。お金無いんだけどなぁ・・・
『それじゃあ、また倉庫街に行こっか。』
『ルチルが逃げた場所か。確かに、町の中心からは離れてるし人もいないな。』
『そうそう。多少荒事になっても問題無いだろうしね。』
問題はあるだろ。壊したりしたら普通にダメなんだから。
だが、かと言ってスラム街に行くわけにもいかない。なんだかんだスラムにも人の目はあるからだ。よって、ナイン達の目的に1番合致した場所は倉庫街になる。
町が吹っ飛ぶよりマシか・・・。
全部より一ヶ所だけなら、と自身の中で何とか折り合いをつける。
「じゃあ行くか。」
「うん。」
思念会話ではなく、声に出してメイに呼びかけ、ナイン達は港に向かって進み始めた。
僕達の背には、粘ついた視線がずっと張り付いていた。