113 何が爆発?
「・・・うん、理由はわかったよ。ナインは爆裂魔法じゃなく、何かの爆発物だって考えたんだね?」
僕の推測を正しく理解したメイは、顔を上げると真剣な表情で聞いてきた。
「うん。爆裂魔法を使って犯行に及んだ、っていう事にして、本当の犯行方法を隠したんじゃないかなって。」
犯人が領主側にいる上の人間であれば、可能だろう。なにせ犯人をルチルにし、警備隊に確保を命じているくらいだ。そのくらいの改竄は余裕なはず。
そして何かの爆発物。まあこれは爆弾だな。この爆弾が感知式か遠隔式かはわからないが、犯行現場に設置し、爆発させているんじゃないかと僕は考えている。
メイと話しながら、ナインがさらに爆弾による犯行方法について考えていると、グレンから待ったがかかった。
「待てよ。爆発物って事は爆弾だろ?だがどの事件も爆発は道の中心からっぽかったぞ。そんなもん置いてあったら気付かねえか?」
「う、ん・・・。気付くね。」
この6日間で今までに起きた事件の現場には足を運んだ。どの場所も人通りが無く、対して広くもない道だった。かなりの火力だったのだろう、まだ爆発の跡も残っていた。
そしてどの場所も、爆発の痕跡であろう放射状の跡が道の真ん中にあった。
道のど真ん中に置いてある物のその真上を通る奴は、あまりいないだろう。ましてやほぼ全ての事件で。
それを思い出したナインは、不承不承ながら納得する。
それならあってもおかしくない物はどうだろう?
「置いてあってもおかしくない物って、なにかある?」
3人に聞きながら、自身もないかと思考を巡らせる。
「・・・うーん、箱、とかでしょうか?」
「道の真ん中にか?狭い路地とはいえ目立たねえか?それにそこそこでけえ爆発だったぞ?つう事はサイズもそれなりにあるだろ?」
「なら、魔道具ならどうですか?魔道具なら、炎の魔石を使えば大きい爆発も起こせると思います。あとはそのサイズを出来る限り小さくして、地面に置いて箱を被せたら、目立ちにくいんじゃないですか?」
「魔道具にしたらサイズは小さくなるけど、爆発起こすくらいの魔道具なら、それ自体がそれなりに魔力保持してない?」
「・・・してますね。」
「なら、いくら一般市民とはいっても魔法スキル持ってる人は多いんだし、魔力感知で気付くんじゃない?」
「・・・気付きます、ダメですね。」
あってもおかしくない爆弾について、3人が議論を重ねていく。
だが、どれを挙げても否定出来る材料が見つかるため、中々これだという答えが出ない。
やはり置いてあってもおかしくない物は無いのだろうか?それとも爆弾ですら無い?
自身の推測に自信が持てなくなり、思考がまとまらなくなっていく感覚がしてくる。
次第には、段々と考えが迷走しだし、ありえないだろうという方向にズレる。
置いてあるのがおかしいなら、持っていてもおかしくないならどうだ?持ってたら道の中心で爆発してもおかしくないじゃないか。
よし、これも話して意見を聞こう。
爆発するなんて思わないとはいえ、よくわからない物を持つなどありえない。
迷走したナインの思考からは、こんな当たり前の事がすっかり抜けていた。
「なあなあ、置いてあるのがおかしいならさ、持っててもおかしくない物ならどう?」
「「「は?」」」
「え?」
白熱とした議論を重ねる3人が、ぐりん!と音がしそうな勢いでナインの方を向く。そして声を揃えると、まるでアホを見るような目で見つめてきた。
あまりの迫力と呆れを多量に込めた目に、ナインは若干気圧される。
言った本人は、そんなに変な事言ったかな?というくらいにしか思ってなかった。
「・・・ナイン。」
メイに可哀想な目で見られた。
「無えだろそんなの。」
グレンがぴしゃりと否定する。
「ナインさん・・・あの、ある、かもしれないですね。」
ルチルは一生懸命フォローしようとしてくれた。
・・・そんなに?
「・・・そっか。何でもない。」
全員からの否定に、ナインはすごすごと引き下がった。
そんなに無いかな?もっと考えてもいいのでは?
議論の再開した3人をぼーっと見つめながら、内心愚痴をこぼす。
3人には否定されたが、ナインは1人、持っていてもおかしくない物を考え続ける。
だが、このナインの迷走が一つの答えに繋がっていた。
そういえば、さっきルチルが魔道具って言ってたよな。魔道具なら持っててもおかしくないだろう。でも拾うのはおかしいよな。よくわからない物を貰ったりもしないだろうし。
うーん。拾わない、貰わない、ならあと考えられるのは、買うくらいか。みんなが買う魔道具なんてあるか?そん・・・な、もの・・・。
あった。
誰が買ってもおかしくない魔道具。
ナインは急いで自身のマジックバッグに手を伸ばす。
議論を続けていた3人は、ナインの行動に驚き、話を止めるとバッグを漁る彼を無言で凝視する。
ナインは3人の様子に気付くことなく、バッグから一つの魔道具を取り出した。
「・・・これだ。」
また明日。