110 進まぬ捜査
警備隊に話を聞いてから早数日、正確にはあれから5日経過した。
今日は10月26日。時刻は夕方だ。
本日も町で情報収集をし、へとへとになりながら宿に戻ってきた。
そして今、全員でテーブルを囲み、夕食前にちょっとだけ会議をしている。
この6日間、ナイン達は一生懸命情報収集に励んだ。
だが、結果は芳しくなかった。
いや、はっきり言おう。何も進まなかった。
「さて・・・、どうしよっか。」
この5日、過去の事件現場を調べたり、住民への聞き込みだったりと、今自分達にできそうな事を重点的に行った。
その結果新たにわかったことは、
被害者の年齢、性別などは全てバラバラ。
現場は人通りのとても少ないところで、時間もバラバラ。
共通点と言えそうなところは、人通りが少ない場所で起きていることくらいだ。
それと、今日までに起きた爆発は10回。ルチルが犯人扱いされたあの爆発が10回目だ。その後爆発は起きていない。
ちなみに被害者数は9人だ。ルチルの時を抜かして1度につき1人出ている。いずれも全員死亡しているらしい。
「どうするって・・・、うーん。」
集まりの悪い情報に、メイも答えが出ない。
仕方ないだろう。6日ほどかけて大した情報が集まらなかったのだから。
「・・・もう突撃してみる?」
あまりにも解決に進まない状況に、以前話した最終手段が口から出る。
「領主館にか?それ選ぶのはまだ早えだろ。」
「だよね、言っただけ。」
「まあ気持ちはわかるがよ。」
手詰まりのように感じるこの状況に、グレンもうんざりした表情を浮かべる。
今の僕も似たような顔をしていることだろう。
どうしたものか。最悪、何とかしてルチルを町から逃すのも手か?いや、指名手配とかされる可能性もあるか。そうなると他の町にも入れなくなる。
やっぱり領主館突撃かなぁ・・・。
「はあ・・・。」
深い溜息を吐きながらソファに体を沈み込ませる。
体が重くなったように感じる。まるで気持ちの重さが体にまできたような感じだ。
ナインの溜息が妙に部屋に響いていた。
暫し無言の時間が流れる。
「・・・すみません、私のせいで。」
外からのうっすらとした喧騒が聞こえる中、ルチルの掻き消されそうなほど小さな声が耳に届いた。
すみません、私のせいで、ね。
「違うよ、ルチルのせいじゃない。悪いのは事件を起こし、君に罪を着せた奴だよ。だから、絶対にルチルのせいじゃない。」
下を向き、悲痛な表情を浮かべるルチルに最大限伝わるように断言する。
絶対に違う。こんな事をやった奴が悪いのだ。巻き込まれた彼女が謝るなど間違っている。
「私もそう思うよ。ルチルのせいじゃない。」
「ああ、俺もだ。ルチルが悪いとは思ってねえ。」
ナインに続き、メイとグレンもルチルは悪くないと伝える。
「たとえ領主が相手でも、僕達はルチルの味方をする。そうじゃなきゃ、君を匿ったり、情報を集めたりなんてしないよ。だから、自分が悪いなんて思わないでくれ。悪いのは君じゃない。」
精一杯の想いを、決意を、ルチルに伝える。
僕達は最後まで味方であると。
「・・・はい。すみ、ません、ありがとう、ござい、ます。」
僕等の言葉を受け、ルチルが途切れ途切れに謝罪と感謝を口にする。
膝の上で堅く握られた彼女の手に、ポタポタと雫が落ちていく。
嗚咽と鼻をすする音がする中、ナイン達はルチルを静かに見守る。
そして改めて、各々が意思と決意を固める。
絶対に彼女を助ける。
だって、他人を犠牲にするような奴が、僕は大嫌いだから。
ナインは視線を宙に向けると、怒りを込めた両目でしかと睨みつけた。
見ている先は部屋の壁や天井ではない。
さらにその先。未だ判明せぬ、犯人へと向けて。
領主か誰か、今はまだわからないが、待っていろ。
叩き潰してやる。
また明日。