108 帰宅とお酒とお金
「ただいまー。」
「おかえりー。」
これから日が沈もうかという時間、情報収集と買い物を終えたナインとグレンは、疲れた顔をしながら宿に帰ってきた。
突然の思念会話でのお使い要請に、予想以上に時間がかかったせいだ。
野菜だけであればその辺の店で買えるので、たいして時間はかからないのだが、魚介類は港付近の市場まで行かなければ買えない。
であるので、情報収集で市場付近の爆発現場から警備隊に探りを入れるために大通りまで来ていたナインとグレンは、とんぼ返りするように再度市場まで戻る事になった。
「買ってきた?ていうかお願いだけしておまかせしてたけど、何買ってきたの?変な物買ってないよね?」
胡乱げな目をしたメイが近づいてくるなりどこか信用してなさそうな事を言ってきた。
お使いくらい普通に出来るんだが?
「変な物って何だよ。一応魚屋の店主に聞いて、一般的に家庭で食べられてるってのを買ってきたよ。」
何の問題も無い事を伝えながら、買ってきた物をドサドサとキッチンに乗せていく。
思念で言われた通り魚と貝を数種類、そらから野菜も数種類だ。量としては2日か3日分くらいだろう。
野菜も魚介に合う物を八百屋の店主に聞いて買ってきたので、問題無いだろう。
「ん?これは何?」
「僕のでは無い。」
メイがキッチンに置かれた食材の中にあった謎の瓶を一本取りだすと、目を細めて僕に詰め寄ってくる。
即座に自分のものでは無い事を証言する。
「グレンがどうしても買うってうるさかったんだ。もちろんお金は自分で出させたぞ。」
「お酒か。私達の分は?」
「無いよ。」
「なんで!?」
嘘だ!?とでも言わんばかりに驚愕の表情貼り付けたメイが叫び声をあげる。
え?そんなに飲みたかったの?でも
「高いから。」
このお酒は1本で10000トリアもする。渡航費用を貯めているナインとメイには、とてもじゃないが買えない値段だ。
もちろん安いのも売ってあった。だが買おうとは思わなかった。
不測の事態なので高い宿代を払う事は仕方ないが、それとこれとは別である。
渡航費用が貯まるまでの間は、僕とメイのお酒購入は無しだ。グレンは自分のお金なので別だが。
「そんなぁ・・・。」
あまりのショックに膝から崩れ落ちるメイ。
その落ち込み具合にちょっとかわいそうだと思ってしまったが、ここは心を鬼にして節約だ。
だからその酒瓶は離しなさい。それはグレンのだ。
「ほら、夕飯のしたくするぞ。僕はお腹が空いた。」
「あぁ・・・。」
自分の物だと言わんばかりに抱きしめる酒瓶を取り上げると、メイから何とも情けない声が漏れ出した。
だがナインは鋼の精神でそれを聞き流すと、手を貸して立ち上がらせる。
「・・・仕方ない、我慢するよ。」
メイは溜息混じりに呟くと、渋々といった様子で夕飯の支度を始めた。
はぁ・・・仕方ない。
「あー、今日はもう無理だから、明日だけな。」
「え!?いいの!?」
「明日だけだぞ?それと、買うのは安いお酒だからな。」
「いいよいいよ!ありがとう!」
「はいはい。ほら手止まってるぞ。」
まあ1日だけならいいだろう。宿代とか食費とか考えるとマジで余裕はそんなに無いんだけどな。
どうも彼女には甘くなってしまう。見た目が幼いからか?会話の内容はお酒だけど。
「おっとごめん。・・・ふふーん。」
ご機嫌で鼻歌を口ずさむ彼女の姿を見ていると、まあいいかと思えてしまう。
お金に関しては足りなくなった時に考えよう。
そう考えを切り替え、ナインもメイと一緒に夕食の支度を始めた。
後ろにいた仲間2人が生暖かい目を向けていた事に、ナインとメイが気づく事はなかった。
「それじゃあ今日の報告を始めんぞ。」
夕食後、後片付けを終え、お茶とお菓子などをテーブルに並べると、グレンが今日の情報収集の報告を開始した。
グレンの前にはお茶とお菓子ではなく、買ってきたお酒とおつまみ用のナッツが置かれている。
ナッツを買った記憶は無いので、手持ちの物を出したのだろう。ちょっと美味しそうだ。あとで少し分けてもらおう。
「はーい。」
「お願いします。」
報告を始めると聞き、楽しそうに何かを話していた留守番組の2人は、すぐに会話を止めると真剣な表情に変わった。
それにしても、メイとルチルが何か仲良くなってる気がする。
留守番中に何かあったのかな?僕とメイの事を話すって言ってたけど、それが理由か?
まあよくわからないが、仲良くなるのはいい事だ。メイにはまだルチルの護衛してもらわなきゃいけないからな。
「とりあえず俺がメインで話すぞ。なんか補足する事があったらナインがやってくれ。」
「わかった。」
「そんじゃまずは昨日の爆発現場からだな。とりあえず行ってみたんだが、ぶっちゃけこれといった発見は無かった。」
また明日。