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レゾンデートル  作者: 星街海音
第二章 海町は明日を願う
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106 留守番組1


 「洗い物しゅーりょー。おやつ食べよう。」


 宿の部屋に備え付けられたキッチン。そこに併設されたシンクにて、朝食に使った食器を洗い終えたメイとルチルは、一仕事終えたとばかりに休憩に入る。


 部屋のシンクには水の魔道具が付いていなかったので、朝のうちにナインに置いて行ってもらった。


 メイは薬缶に水を入れ、すぐに火にかけると使い終わった水の魔道具をマジックバッグにしまう。代わりにお茶の葉と果物、それからお菓子を取り出した。


 今の彼女のマジックバッグには着替えとお茶の葉、おやつしか入っていない。


 普段使用する魔道具なんかは、全てナインが所持している。


 メイも普通の人より魔力があるのだが、基本、魔力に余裕があるナインしか使わないので、彼が常に持ち歩くようにしているのだ。


 最近じゃグレンが所持していた魔道具すらナインが持っている。


 それだけナインの事を信用してくれているという事なので、妻としては嬉しい限りだ。


 「あ、私も出しますね。」


 「ありがとう。どれどれ・・・、わぁ!美味しそうだね!」


 「ノースト大陸にいた時に買ったココナッツケーキです。」


 ルチルが自身のマジックバッグから箱を取り出すと、嬉しそうにキッチンに持ってくる。


 開けて中を確認すると、白いふわふわとした美味しそうなケーキが4ピース入っていた。


 ココナッツは、ノースト大陸の下半分、その海岸付近に多く自生するココヤシになる実のことだ。


 ノースト大陸の下半分、大陸南側は温暖な気候であり、内陸に行くと熱帯雨林なんかも存在する地域だ。


 逆に、上半分の北側は寒冷といった具合であり、雪と氷が大半の地域である。


 何故こんなに極端なのかと言うと、ノースト大陸にいる神が原因だ。


 ノースト大陸には神が2柱おり、水神が南を、氷神が北を管理している。


 そのため、水神のいる南側は川や湖、そして海と、水に関わる場所が多い。内陸が熱帯雨林になっているのも、湿度が高いのが原因だったりする。


 氷神がいる北側はとにかく寒い。年間通して雪が降っており、溶ける事は無い。かなり過酷な土地ではあるが、それでも平野部は雪が少ないので、街や集落が普通に存在している。


 ちなみに、管理領域がきっちり二分されているので、神同士の仲が悪いのでは無いか?と噂されていたりするが、別に悪くはない。というか逆に良かったりする。


 何せこの世界が始まった時からの旧友なのだ。もはや腐れ縁である。


 「ココナッツケーキかぁ。懐かしい。昔に食べて以来だから、かなり久しぶりだよ。」


 「昔・・・?」


 「うん。その辺についてはお茶しながら話すよ。まずは準備しよっか。」


 「わかりました。・・・ケーキは1人1ピースでいいですよね?」


 「ん?いいんじゃない?」


 「ですよね。それじゃあ残り2ピースは後日2人で食べましょう。・・・ナインさんとグレンさんには内緒です。」


 そう言ってケーキを皿に取り出すと、ルチルは口元に人差し指を立てた。


 大人しそうに見えるルチルのその仕草に、

何だかいけない事をしている気分になり、楽しくなってくる。


 「そうしよう。2人には悪いけど、これは女子の特権にしよう。」


 メイはにっこり微笑むと安物のポットにお茶の葉をセットし、お湯を入れる。


 お茶の準備を終え、ケーキや果物、お菓子何かと一緒にテーブルに運ぶと、2人ともソファに座る。


 「さて、じゃあお茶しながらだけど私の事を話そっか。あ、ナインも関わる事だからね。」


 「わかりました。」


 「それじゃあまずは、私の事から話すね。まず私はーー」


 お茶を開始してすぐ、メイは何でも無いことのようにケーキとティーカップを片手に、自身とナインの事を話し始めた。












 「ーーとまぁ、こんなかんじだね。」


 30分ほどかけ、魔人であることや2000年くらい生きている事などを語った。結構長く話をしたので少し喉が渇いた。


 ティーポットからカップに注ぎ入れ、冷めたお茶を一息に飲む。少しではなく、かなり喉が渇いていたようだ。一杯では足りず、もう一杯飲もうとカップに注ぐと、ポットの中が空になった。


 もう一度お湯を沸かそうと思い、キッチンに行く前に無言になってしまったルチルの様子を確認する。


 もしかしたら話を聞いて気持ち悪いと思われてしまったのかもしれないと、少しだけ不安になる。だがもう話しをしてしまった後なのでどうしようもない。


 メイはルチルを信じ、声をかけてから立ち上がる。


 「・・・お茶入れてくるね。」


 ポットを持って静かにソファから離れ、キッチンに向かう。


 考えを整理する時間が必要だろうと、なるべく音を立てないように薬缶でお湯を沸かし始める。


 すると後ろから、ギシッと小さな音が聞こえてきた。どうやらルチルが立ち上がり、キッチンに向かってきているようだった。


 メイは音だけでなく気配でも様子を伺っているので、ルチルがこちらに来ていることは後ろを見ずともわかっていた。


 近づいてくるルチルに何を言われるのかと不安が大きくなり、鼓動がドキドキと早くなる。


 「・・・メイさん。」


 「なに?」


 かけられた声に、出来る限り普通に返す。表情も問題無い。


 鼓動がさらに早くなっていく。


 「お茶、手伝います。」


 優しく微笑みながら、彼女は手伝いを申し出てきた。


 それ対して私は。


 「・・・ありがとう。」


 2つの意味でお礼を告げた。

また明日。

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