105 ちょっとお話を
来週から土曜、日曜がお休みになります。
「悪い、ちょっと聞いてもいいか?」
警備隊に近づくと、グレンが気さくな感じを出しながら話しかける。
グレンの態度はものすごく自然だった。声も表情もいつも通りに見える。横にいるナインから見ても、これから探りを入れようとしている人物には一切見えないくらいだ。
声をかける前に決めた通り、ナインの役目は、グレンに大人しくついていく。これだけだ。ただし、何かあっても顔に出ないように気をつけなければいけはい。
顔に変な力が入る。こりゃ喋るなと言ったグレンが正しかったな。口開いたら演技がバレそう。
「何だ?何かあったか?」
隊長らしき男性は、すぐに真剣そうな表情をすると、何か問題でも起きたのかといった様子で聞き返してきた。
まあ、巡回中の警備隊に話しかけるような状況といえば、大概が何か問題が発生した時くらいなので、この反応になってしまうのも仕方ないだろう。
僕達の用事は・・・、まあ問題と言えば問題か。領主を疑ってる訳だし。
「いや、問題は無えよ。昨日市場の近くで爆発が起きたろ?あの時俺ら近くにいてよ。んで、すぐに警備隊員が走っていくのが見えたから、どうなったのかと思ってよ。」
すらすらとそれらしい事を並べたて、隊長らしき男性に質問するグレン。
言った事の半分ほどが嘘では無いので、もし何か聞かれても誤魔化す事も問題無い。
それはそれとして、グレンが妙に手慣れているように感じる。貴族なのにヤンチャな奴だったのかもしれない。
「何故そんな事を聞く?君らに何か関係があるのか?」
凄みを効かせるような目つきに変わった隊長?と2人の警備隊員に、ナインは内心ビクビクする。
そりゃそう言われても仕方ない。どう見ても関係無さそうだもん。
対してグレンは、そんな凄みなどどこ吹く風といった様子で、隊長らしき男性に言葉を返す。
「俺ら、月末にある豊漁祭目当てでカルヴァースに来たんだよ。パーティーメンバー全員が初めてでな。なのに町に入る時に爆発事件が起きてるなんて言われてよ。大丈夫か?だて思ってたら昨日も爆発が起きてたじゃねえか。だから俺らは、このままだと祭りが開催されねえんじゃねえかと心配なのさ。」
またもやグレンがそれっぽい事を捲し立てていく。今度は嘘が多い。
実際は、豊漁祭はついでで大陸移動がメインだし。祭りの開催より、住民とルチルが心配なだけだ。
本当な部分は、メンバー全員が初豊漁祭である事と、爆発事件が起きてるとか大丈夫なのか?と思っているところくらいだ。
あ、やっぱり祭り開催についても心配だったわ。これも半分本当で半分嘘くらいだった。
「そうか。まあ話はわかった。とりあえず、豊漁祭中止という話は無い。予定通り開催されるだろう。」
グレンの言い分に、警備隊員の威圧するような目つきが治まっていった。完全にでは無いだろうが、一応は信じてくれたようだ。
ただ、表情は軟化したが、そのまま普通を通り越して困ったような表情に変わった。
そして困り顔になった隊長?は豊漁祭開催について教えてくれた。今の発言は結構重要な情報であったと思う。
中止という話は無い。
という言い方をしていた。これはおそらく、上からは中止いった話は下りてきていない。という意味だろう。
まだこれだけでは何とも言えないが、こんな状況でも、上の人間は豊漁祭をやる気なのかもしれない。
・・・ふむ。こんな表情をするって事は、この人は中止した方がいいって思ってるのかな?てことは、やっぱり警備隊は上からの指示を聞いてるだけなのか?
「そうなのか、ならよかった。てことは犯人は捕まったのか?昨日の爆発があった時、すぐに警備隊が走って向かってただろ?」
ここぞとばかりにグレンが質問をしていく。
目をつけられないよう慎重にいった方が良いというのに、彼は恐れを知らないのだろうか?横にいる僕はすごい怖いんだけど?
「すまないが、それについては答えられない。」
「何でだ?まさか捕まってないのか?おいおい、本当に祭りは大丈夫なのか?」
ギリギリを攻めるつもりなのか、グレンがかなり強気に質問していく。
ナインはさらに気が気じゃなくなっていく。足が震えそうだ。
「本当に話せないんだ。だが豊漁祭は我々がいるから大丈夫だ。だから君達は開催まで大人しくしていなさい。わかったな。」
「そうか・・・。いや、悪いな。祭り楽しみにしてたからよ、ちょっと言い過ぎた。すまない。」
「気にするな。こちらも話せない事が多くて申し訳ない。」
「仕方ねえさ。守秘義務があんのはわかってる。時間取らせて悪かったな。」
「理解してくれて助かるよ。それじゃあ他に聞きたい事はあるか?なければ巡回に戻るが。」
隊長?の言葉にグレンが僕をチラッと見る。たぶん聞きたい事はあるか?って意味だろう。わざわざ確認してくれたらしい。
だが申し訳ないが、僕はすぐにでもここから離れたいので質問なんぞ1つも浮かんではいない。正直、一杯一杯だ。気遣いだけ受け取る。
『質問は無いよ』という意味を込めて、グレンに小さく首を横に振る。
「大丈夫だ。」
「そうか、それでは気をつけてな。行くぞ。」
「「はっ!」」
隊長?は後ろの2人に声をかけると、すぐにその場を離れ、巡回に戻って行った。
ナインとグレンは、彼らの後ろ姿を見送り、見えなくなるまでその場に止まる。
「ふぅー・・・、おっ、と。」
そして完全に見えなくなると、ナインは溜まった緊張と疲れを吐き出すように長い息を吐く。
一気に力が抜けたのかその場にへたり込みそうになったが、尻をつくのは嫌だったので、しゃがんで休むことにする。
正直、横にいるだけだったのにかなり疲れた。
あの緊張感というか空気感はかなり辛い。
基本小心者である自分には、ああいうのが向いていないのが良くわかる。
もし次こんな状況があるとしたら、誰かに変わってもらいたい。切実に。
「何だ?疲れたのか?」
しゃがみ込む僕を見下ろしながら、グレンが声をかけてきた。だが表情と声からして、僕を心配している訳ではなさそうだった。
彼の言葉を略さず言えば『何だ?(横にいただけなのに)疲れたのか?』と、多分こんな感じになる。
だが実際疲れている上に事実なので、言い返す気がおきない。
「・・・僕には向いてない。」
これが精一杯だ。
いつかは慣れるのだろうか?
また明日。