101 翠の賢者
「やっぱり知ってるんだ。なんか僕だけ知らないみたいだからさ、ちょっと教えくれない?」
自分だけ全くわからないのは、なんだか仲間はずれみたいに感じてしまう。それは少し寂しい。
なので教えてほしいとお願いしてみる。
「まあいいよ。」
「メイさんは翠の賢者について詳しいんですか!?あ、あの、私にもおしえてください!!」
「うわっ!?」
翠の賢者について教えてもらおうと話していると、その会話が耳に入ったのか、いきなり立ち上がったルチルが興奮した様子でメイに詰め寄って来た。
そして、そのまま無理矢理メイの隣に座ると、鼻がくっついているんじゃないかと思うくらいの距離まで顔を近づける。
何となくルチルという女性の生態がわかった気がした。
彼女は、自分の好きな事についてだと凄まじくテンションが上がる人なようだ。
魔道具しかり、魔法しかり。話題には気を付けた方が良さそうだ。ちょっと怖いから。
「わ、かった。でもちょっと離れてね。話しにくいから・・・。」
「はい!」
「・・・声も落としてね。」
「はい。」
まだ話をしていないのに、メイが疲れきった表情をしている。気持ちはわかる。助けないけど。
飛び火したら面倒だからな。話も進まないし。
「こほん。さて、ナインが知らないようだから、まずは翠の賢者についての説明だね。翠の賢者とは、2000年前に存在した最強の魔法使いの事だよ。」
「最強?」
本当か?過言じゃないのか?
初っ端から飛び出した内容に、少し疑ってしまう。
「あ、疑ってる?でも本当だよ。」
ナインの顔色から疑っている事がわかったのか、念押ししてくる。本当に最強の魔法使いのようだ。
「ルチルも最強って言われてたのは知ってた?」
「はい。」
「グレンは?」
「最強なのは知らねえけど、めちゃくちゃ強かったって言うのは聞いた事があるぜ。」
2人とも知っていたようだ。2000年前の人物とはいえ、かなり有名なようだ。
「ルチルは翠の賢者について、どんな事を知ってるんだ?」
メイの解説が始まったばかりだが、現代ではどの程度有名なのか知りたいので、話の腰を折らせてもらう。
それに、何を知っていて、何を知らないのかわかればメイの手間も省けそうだし。
「えと、憧れてはいますが、あまり知らないんです。」
「そうなの?」
「はい。何せ2000年前の人ですから、現在まで残ってる逸話も少ないんです。私が知ってるのは、最強の魔法使いだった事。緑の髪とローブを着ていた事。ソロだった事。重力魔法と風魔法で空に浮いていた事。あらゆる魔法を使いこなしていた事。とこれくらいなんです。」
「なるほど。」
ルチルが知る翠の賢者についての情報は、かなりざっくりしているようだった。
憧れているルチルでさえこれくらいとなると、現在までにかなりの情報が途絶えてしまっているのかもしれない。
「かなり少ないね。やっぱり時の流れと力は強いねえ。」
メイが年寄りのような言い方で残念さを表す。
「まあでも、それなら私が色々教えてあげれると思うよ。」
「お願いします!」
「それじゃあ説明を再開するね。次は翠の賢者のスキルについてがいいかな。」
そう言ってメイは両手を顔の高さまで持ち上げると、全ての指を立てた。
いきなりのよくわからない行動に、続きを待っていたナイン達は首を傾げる。
「10個。これは、翠の賢者がセットしていた魔法スキルの数だよ。」
「「「は?」」」
3人とも、メイの言葉が上手く理解出来ない。それほどにありえない数だ。
セット出来るスキルの数というのは、10個までだ。だというのに、翠の賢者はその全てを魔法スキルにしていたということになる。
「混乱してるだろうけど、詳しく説明するよ。まずエクストラスキルからね。翠の賢者が持っていたエクストラスキルは、時空魔法、瞬間発動、スキル枠拡張の3つだよ。」
思考がぶっ飛んで行きそうになっていると、メイが解説の続きを始めた。
お陰で思考が戻ってきた気がする。たぶん。
「時空魔法と瞬間発動の説明はまた今度ね。今はスキル枠拡張の説明をするよ。」
話が進まなくなるから今度にしろとでも言いたげな様子で、先に釘を刺してきた。なので大人しく聞くだけにする。
「スキル枠拡張はその名前の通り、スキル枠を増やすエクストラスキルだよ。これで2つ増えて、スキルを12個セット出来るようになるね。」
なるほど。
時空魔法という名前からして、これも魔法スキルだろう。という事はこれで1個。
そして、スキル枠拡張によって12個に増えたスキル枠の内、9個が魔法スキルという事だろう。
それでもヤバいな。どんなスキル構成だったんだろう?
「そうして増やしたスキル枠に何を付けていたかと言うと、魔法スキルが9個。その他3つは、MP回復UP、消費MP減少、CT減少だよ。」
「んんん?」
予想通り、魔法スキルが9個だったのはいい。いやそれもおかしいんだけど。それよりも、残り3つのスキルが予想外過ぎた。
魔法使いだけじゃなく、魔法を使う者なら必ずと言っていいほどのスキルが存在しなかったか。
「・・・何で魔力制御系のスキルが無いんだ?」
また明日。