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9.イケメンとトマトの組み合わせはありかもしれない。

透き通った青い水面の上を、一匹の白い水鳥がかすりながら飛んでいく。水面から持ち上げられた茶色い足には銀色の小魚が握られ、ピチピチと音を立てながら動いている。水鳥はそれを器用に嘴で持ち替え、飲み込むと仲間が待つ上空へと飛んで行った。


オスカルさんたちの船に乗り込み、沖へ出航した私は甲板で異世界人生初となる船からの景色を楽しんでいた。目の前にオーシャンブルーが広がる光景はいつ見ても気持ちがいい。


水鳥を見送った私は、陸の方へと視線を移した。ケオジャの町よりも少し南に進んだこの場所からは、ケオジャの町以外の町の風景が見える。どうやらケオジャの町から少し離れた場所には標高が高い切りだった海岸があり、その海岸に添うようにして建物が並ぶ町があるようだ。


色とりどりの小さな建物が、傾斜となった岩の側面に添うようにして立ち並んでいる風景は、おとぎ話の世界に入り込んだかのようだ。


綺麗な海と綺麗な街並みが生み出すロネマの風景に、私は潮風に吹かれながらうっとりと見惚れていた。


「ポルジターノ領か……。こうやって海側から見たのは初めてだなぁ。凄く綺麗な町だよね。こうして見ると、カラフルな建物がまるで海へ流れ落ちる色鮮やかな滝のように見える」


私の隣にやってきたレナートさんが、眩しそうに目を細めながら言った。どんな町なのか気になった私はレナートさんにポルジターノ領について尋ねた。


レナートさんによれば、私たちが住むケオジャの町はヴィオネッツァ領の一角なのだが、ポルジターノ領はその南西に位置する領土のようだ。


ポルジターノ領はこの国の中で最も小さい領地らしく、今見えている海岸の一角しかない。どうやらポルジターノ領は昔、ロネマ帝国の発展のために他国から連れてきた技術者に、貢献した褒美として与えられた領地で、ロネマ帝国の貴族が持つ一般的な領地とは少し異なるようだ。今も、その技術者の末裔が領主としてこのポルジターノ領を経営しているのだとか。


「初代領主はロネマコンクリートを生み出した人で、この国の建築に大きな革命を起こしたんだ。首都ロネマの凱旋門や円形闘技場、あれを作ったのもその人なんだよ。彼は生前、自分の技術を全てつぎ込んだ芸術のような町を作りたいと願っていたようで、特別にこれまでの功績をたたえて国が領地を与えたんだ」


コンクリートの発明。建築に詳しくはない私でもそれが如何に革命だったのかは何となく分かる。スネラルツ王国に比べて、ロネマの建物がどこか近代的に思えたのは、コンクリートを使った建物が多いからなのかもしれない。


「そうしてできたのがあの町。殆どの建物が200年以上姿を変えずそのまま残っている。凄いよね」

「歴史のある町なんですね……」


凄いなぁと感慨しながら町を眺めていた私は、ふと横にいるレナートさんに視線を向けた。彼の町を見つめる瞳はどこか優しく、そして悲しげだった。


「レナートさんは、あの町に行ったことがあるんですか?」


レナートさんの瞳がこちらに向く。寂しげな微笑みを浮かべた彼は静かに口を開いた。


「……もともと僕はあの町の生まれなんだ。訳あってケオジャに移動してきたけどね」

「えっ!?」


まさかその町の住人だったとは……。どうりでポルジターノ領について詳しい訳である。


「あの町はもう、殆ど人が住んでいないんだ。見た目は美しくても殆どが空き家だよ」

「え……?」


あんな綺麗な町なら、人も多く住みそうなのに……。どうして人がいないんだろう?


「見た目は素晴らしい町なんだけどね、生活はとても過酷なんだよ」


聞けば、ポルジターノ領は農地も漁業ギルドもないことから、食料の自給自足が難しく、他領からの輸入に頼っているという。そのうえ、鉱物などの資源もなければ主要産業もなく碌に仕事もないのだとか。


「昔は芸術関係者や職人達が集まる活気ある町だったらしいんだけど、度重なる重税と、住みにくさがあだとなって、どんどん人がいなくなっちゃったんだよね」


そう言うとレナートさんは深いため息をついた。


「焦った領主が町を活性化させるための資金を増やそうと、色々投資をしたみたいなんだけど、全部騙されたみたいで……国が助けてくれればよかったんだけど、ポルジターノ領主は初代以外、あまり国に貢献できていないこともあって、国としては存続させる意味がないと思っているらしく、領地事態をヴィオネッツァ領に統合させる動きがあるらしいよ」

「そうなんですか……」


ということは、今頃ポルジターノの領主は焦っているんだろうなぁ。領地没収ってことは貴族から降格されるわけだし。……自暴自棄にならなければいいけど。人は焦った時、何をするか分からないからなぁ。


「もうすぐ目的地につくぞ」


景色を眺める私たちにそう声をかけてきたのはオスカルさんだった。片手には何やら赤いものを持っている。あれは……トマト?


「とりあえず、目的地についたらヴィシュートの捕獲に入る。全部捕獲し終わるまで食事がとれないから、お前たちもこれを食べておくといい」


そういってオスカルさんは私たちに手に持っていた赤い物体を手渡してきた。顔に近づけてそれを観察したが、やはりトマトである。私はレナートさんと顔を見合わせた。


「……なんだ?トマトは嫌いか?」


残りのトマトにかぶりつきながら不思議そうに私たちを見つめるオスカルさん。若干の負のオーラを感じて、私たちは慌てて首を横に振った。


「いえ、好きです、トマト」

「美味しいですよね、トマト」


すると、オスカルさんは満足げな微笑みを浮かべる。く、イケメンだとトマト齧ってるだけでも様になるな。なんか口から滴れ落ちる赤い汁が色っぽくみえる。


「そのトマトは絶品だぞ。フィレッツァからわざわざ取り寄せているからな」


言われるままに貰ったトマトを齧ってみると、確かに美味しかった。じゅわっと甘味が口いっぱいに広がって、トマトよりフルーツを食べているような気分になる。


「おーい、オスカル!悪いが帆を下げるのを手伝ってくれ!」


しばらくトマトを食べていたところで、後方で舵を取っているネロさんがそう叫んだ。オスカルさんは返事をすると、食べかけのトマトを一気に口に放り込みネロさんの元へと駆けていく。


私たちも急いでトマトを食べきるとネロさんたちの手伝いに行くのだった。


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