魔力。
魔法っていうのは神から与えられた加護を使って権能を行使する方法の事。
体の中にある神の氣であるマナをゲートから放出し、加護によりその力を貸してくれる精霊に渡す事で、その精霊が行使しうる権能を解放するのだ。
たとえば。わたくしの周りにはいつも『キュア』っていう精霊たちがいた。
普段、この世界の空間のちょっと位相がずれた場所に丸まって存在している精霊たち。
普通の人には見ることも触ることもできないそんな精霊と、わたくしは心を通じ合うことができたのだった。
でも。
「ねえ、あなたたち。この鎖を外すことはできる?」
そう呼び掛けても、ふわふわとまとわりつくキュアたちには何もすることができないでいる。
——何もできなくてごめんなさい。
そんな声がなんとなくだけど聴こえてくる。
物心ついた頃から近くにいてくれた彼らといつも遊んでいた。
そんな彼らに心の中からマナを取り出して与える事で、周囲を浄化したり傷を治療したりいろいろなことができた。
きっとこれはお母様からの遺伝なのかな?
そんなふうにも感じて。
五歳の時、お爺さまに連れて行かれた聖女宮での魔力測定では同い年の子供の中では一番魔力特性値が高かったって言われたっけ。
「あなたは立派な聖女になれるわ」
って、その時カッサンドラ様に言われたの、なんとなく覚えてる。
貴族院で魔法の基礎は学んだけど、それでも結局実践はあまりしてないから、自分がどれだけの魔法が使えるのかとかそんな限界に挑戦したこともないけど、それでも。
今みたいな全く魔力がない、マナが体の外に出ない、そんなのは初めてだった。
ドアからはその向こうは見えないけど。
壁側の窓から身体を乗り出してみると、ここがほぼ塔の最上階に近い場所だっていうのはわかった。
「うーん、どうしよう」
魔法が使えるのなら、短距離だったら転移もできる。
知った場所だったらそこまで跳ぶことは可能だし、なんならここから自分の使ってた部屋までくらいだったら一瞬で移動できるんだけど。
パーティ会場でクレインをまいて姿を消した時も、こっそり転移してお爺さまのお部屋まで跳んだのだもの。もちろんこんな力があるってことはクレインにはずっと内緒にしてきたけど、それでも魔法でなんとかしたんだろうくらいはバレたのかな?
ほんと迂闊だったな。
正直なところ、わたくしの方がクレインよりも魔力が強い。
でも彼よりも強いだなんて、そんなの嫌われちゃうかなって思ったから、ずっと弱いふりをしていた。
公園で会う話になった時も、乱暴なことをされそうになったらサッとメアリィを連れて逃げるつもりだったし、なんならマキナス先輩に念話を送って助けてもらうことだって考えてた。
ほんと、たいていの事ならなんとかできるって、そんな変な自信があったのがいけなかったのだろう。
まさかこんな魔力封じのネックレスを彼が持っているとは思わなかったもの。
どうしようか、と。
そんなことをつらつら考えてたら日が暮れてきた。
ここには灯りもないのかな?
そう思ったところで、入り口のドアがキイっと開いた。