聖女は公職。名誉職。
聖女は公職。
あくまで、上位の貴族の子女が婚姻までの期間に任命される名誉職。
いろんな国をまわるうち、こうした聖女職の概念が広まっていることに気がついたわたくし。
もちろん聖魔法を使える司祭は数多く在籍している聖女宮にあって、通常の祭祀はその方達の尽力で執り行われているのも納得できる。でも?
ならなんでその司祭の中から聖女を選ばないの?
そうも思うのだ。
やっぱりね。
聖女というからにはそれなりの力があるのが望ましい、そう思うもの。
もちろん、ナンバーワンの力があるとかそういうふうでもなくてもいいの。
だって、そんなもの比べるものじゃないでしょう?
力が強ければ偉い、そんな考えもどうかと思うもの。
だけどね。
もちろん努力はするべきだと思うのよ。
聖女として、自分は何ができるのか、って。
困った人を助ける。病を癒す。農作物の収穫を助ける。人々が、幸せに生きていけるよう、力を尽くす。
それが聖女だって、そう思うの。
そりゃあね、聖女になりたてでまだ力をちゃんと制御できないわたくしがこんなことを説いたって、聞いてくれる人は少ないよね。そうは思うんだ。
でもさ。
それでもせめて。
自分だけでもそうありたい。
そう思ってここまできた。
マリサ嬢がお飾りな聖女だったっていうのはまあしょうがないとして。
そこのところはもっと努力して欲しかったなぁ。そんな気持ちも正直あるけれど。
でもね、だからと言ってね、あんなふうに婚約破棄するだなんてひどいよね。
まあだからといってわたくしが間に入ると話がもっとややこしくなりそうだから、ここはとっとと逃げるに限る。
帝国皇帝の孫としてのわたくし、レイニーマイン・ヴァレンシアの立場がきっとアルベール殿下の心を惑わせてしまったのだろう。そこのところはマリサ嬢にも申し訳ないなって思うけど。でも。
あ〜嫌だ嫌だ。
わたくしはただの聖女として生きていければ良いのに。
もう、クズな男性は懲り懲り。
なんだかね、そんな心境になってしまっている。
「お嬢様もね、もう一回ちゃんと恋ができると良いのですけど」
メアリィがときどきそんなふうに呟く。
「もういいわ。わたくし、もう、普通に男性を見ても、素敵だって思えないのだもの」
そうこぼして。
「それでも、いつかきっと、お嬢様が素敵だな、好きだな、って、そう思える人が現れたら、素直になってくださいね」
そう、にっこり微笑みしみじみと語るメアリィに。
「もし、そんな男性が現れたのなら、ね?」
とりあえずそう、返しておいた。




