会合。
今回、帝国皇帝クラウディオが来訪するという事で急遽設えられた謁見の間には、上座に皇帝の座する玉座を、そしてその周囲に帝国からのお歴々が並ぶ椅子を用意し。
そしてその反対側にロクサンシームの王、そしてその重鎮が座るという形式で。
あくまでロクサンシーム側が帝国からの賓客をもてなすための会合という形を計画していた。
昨夜の事件はまだ表立って広まってはおらず、クレイン国王はあくまで帝国皇帝を迎え入れるこの国の主人として座席に腰掛ける。
宰相、筆頭公爵がその両隣を固め、とりあえずの形式は取り繕っていた。
周囲からは、彼、クレイン自身がどう考えているのかはその表情からは窺う事はできずにいたが。
元々、聖大祭の後帝国帝都に残るはずだった皇帝の孫にあたるレイニーマインロクサンシーム王妃が、皇帝クラウディオに挨拶もなく予定を変更して帝都を去ったことに対して不審に思った帝国側から、使者が王妃本人に謁見し詳細を尋ねたいと申し出た事に対して王国側からの良好な回答が得られなかった事に剛を煮やしたクラウディオによる強硬な訪問ではあった。
「魔に侵され高熱を発して寝込んでしまった為の面会謝絶」
「現在王国魔術士による治療の継続中」
そんな回答に納得出来なかったクラウディオはまず先遣として皇太子ユリアスをロクサンシームに向かわせ、そして自らも周囲の反対を押し切ってロクサンシーム王国訪問を強行したのだった。
突然の皇帝陛下の訪問通告に慌て右往左往する国家の重鎮たちに対し、クレイン国王はその準備等々を彼らに丸投げし。
自身は魔道士の塔に篭もりきりとなっていた。
王妃を心配するあまり政務に精を出せないのだろうと好意的に判断する重鎮たちの中、再側近であるはずの三人、筆頭公爵、宰相の子息、騎士団長の子息たちだけが、何故か国王から距離を置かれている状況に不審がる者もあったが、それも皇太子が来訪するまでのこと。
皇太子ユリアスの来訪を合図とする様に、全ての事柄が動き出したようにも見えて。
♢ ♢ ♢
着座し、表向きの挨拶が終わったところで。
帝国皇帝クラウディオが、その威厳のある声で切り出した。
もう何も飾り付ける言葉もいらないと、いうばかりに。
「クレイン王よ。昨夜の出来事はすべて把握した。そなたの所業は帝国法を鑑みても犯罪であるのは明確。レイニーが帝位継承権を保持していると知った上で計画したのであれば、帝位簒奪を目論んだ反逆罪、極刑に値する。何か申し開きはあるか」
何もまだ聞かされて居ないロクサンシームの重鎮の間からざわめきが起きる。
それまで、ただただ寡黙に着座していたクレイン国王。
目をゆっくりと見開き、その皇帝の言葉に反論する。
「帝位簒奪など考えたこともございません。全てはレイニーを愛する故のこと。行き過ぎた愛情表現ではあったかもしれませんが、それも夫婦ゆえの、わたくしとレイニーとの二人の気持ちの問題であると」
あくまで冷静にそう答えるクレイン。
「傀儡や隷属の魔術が愛ゆえに、だと?」
ざわめきが一層ひどくなった所で、宰相、ベルナレス・ルルードル侯爵が、ごほんと咳払いをした。
その無言の圧力に、重鎮たちは我を取り戻し口をつぐむ。
「ええ。彼女はもう十歳の頃からわたくしだけを愛してくれていました。レイニーがわたくしを嫌うはずがないのです。もしそのようなことを口走るとしたら、それは本心ではありません。勘違いからくる一時的な気の迷いでしかありません。ですから彼女が後悔することの無いよう魔術で引き留めたのです。陛下とて、ご自身が返す返さないでは無い、と、おっしゃったではありませんか。全てはレイニーの気持ち次第であるとわたくしはそう判断いたしました」
「だから? 心を操って無理やり従わそうとしたというのか!?」
「ええ。それもこれも彼女の為を思えばこそ。一時の気の迷いでわたくしから離れてしまうのは彼女の本意では無いはずだと確信しております」
「心を操っておいて、なおかつそれがレイニーの為であったと、そう申すのだな」
「はい。わたくしとて、赤の他人に対してこのような行為はいたしません。あくまで彼女がわたくしを愛してくれていたからこそ。夫婦として年月を過ごしてきた間柄だこその今回であると、そう思って頂けたら。
それに。
わたくしは彼女を心から愛しています。それは例えこの場で断罪されたとしても変わらないでしょう」
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