素直に……。
「レイニー様!」
お爺さまは到着するなりこの国の重鎮たちが集まる謁見の間に直行した。
ユリアス兄様とわたくしが通された控室に待っていたのは先輩たち三人で。
「マキナスさま?」
部屋に入ったわたくしの前に跪き、わたくしの手を取る彼。
上目遣いでこちらを見る眼鏡の奥の目が少し涙で潤んでいるようにも見えて。
「お助けできなくて申し訳ありませんでした。ずっと念を送っておりましたが反応も無く……」
ああ、そうか。魔道士の塔は結界で念話は阻害されていたかもで。
「帝都から帰る時にクレイン陛下が貴女様を連れてこられて来た時も、信じられない思いでしたけれど……。貴女に何が起こったのか、本当に心変わりなさったのか、確信が持てずやきもきしておりました」
「ごめんなさい。ご心配をおかけしたのね。馬車で帰る時のわたくしはどうやら傀儡の魔法で心が操られていたみたいで何も覚えてはいないのです……」
目を臥せてそう答える。
昨夜は結局何も詳しく話せないまま寝てしまってた。
兄様は優しく、わたくしから事情を聞くよりもゆっくり休ませてくれることを優先してくれたから。
ここはもしかしたらわたくしの事情聴取の場になるのでしょうか?
先輩たちと兄様だけだから、遠慮なしにもう何でも素直に話せそうではあるけれど。
「わたくし、逃げ出したあと隠れていた時に、わたくしの捜索をマキナスさまにさせるってクレインが話しているのを聞いたのです。だから、マキナスさまのお立場もあるだろうから、迷惑をかけるといけないから、って思って助けを求めるのを躊躇して……」
「そう、でしたか。クレイン陛下からは魔に侵され夢現のままふらりと抜け出してしまったレイニー様の捜索を、との命令を受けました」
「マキナスがそう教えてくれたお陰で、僕らも貴女の捜索に動くことができたのですよ。ユリアス殿下にもお伝えし協力を仰ぐこともできたので」
オールベル先輩?
「魔に侵され熱を出し寝込んでいる君には会わせられない、の、一点張りだったからね。クレイン王は。君の真意を確かめたくてここまで来たというのにずっと君には会えず仕舞いで」
兄様……。
「まあ、しかし。クレイン陛下が一人で手勢を駆使して王宮中を捜索していれば騒ぎになりますから。いつまでも我らに内密というわけにもいかなかったでしょう。とは言っても、我らが全員レイニー様の無事を願いすぐさま動くとは、陛下もお考えにはならなかったご様子です」
普段無口なジンライト様も饒舌にそう言う。
お顔にはうっすら笑みも。
ああ、よかった。本当によかった。
あのままクレインに隷属の首輪を嵌められていたらと思うとゾッとする。
兄様はもちろん、わたくしのことを心配してくれた彼らみんなを本心では無い言葉で裏切るところだったと思うと。
そうならなくて本当に、よかった……。
わたくしは気がついてから起こった全てのこと、クレインやリリスとの会話も覚えているだけ全てを滔々と話し始めた。
話している間に感極まって涙するわたくしに、兄様が優しく寄り添ってくれた。




