喜び。
朝食は兄様とご一緒に頂いた。
王宮の食堂で作られたものでそんなに珍しい料理じゃないし、もともとわたくしの好みとか反映された味付けだったりしたので、普通に美味しかった。
なんだかひさびさに食べた普通の朝食。
たっぷりのお野菜を使ったサラダ。みずみずしいトマトにきゅうりが美味しい。
ゴマとマヨネーズがたっぷり使ってあるドレッシングはわたくしの提案。昔の御本にあったレシピだけれど、なんだかすごく懐かしい感じがして。
崩した茹で卵を和えてあるのがまたなんともたまらなく美味しいのだ。
透き通るような琥珀色のスープはまた味わいが身に染みる。
具は溶けきって美味しさのエキスだけになったかのよう。
魔道士の塔に幽閉されているときのお食事にはここまでの美味しさは無かったから、やっぱりこれは王宮の厨房の味なのかしら?
というかわたくしが結婚する際にヴァレンシア公爵家から連れて来たシェフだから、元は帝国からお母様についていらした方なのかもしれない。
「美味しいわ」
そう、頬に手を当て、思わず笑みがこぼれる。
「良かった。君が笑顔になって」
兄様もそう、笑顔になる。
「陛下の馬車はもう国境まで来ているそうだよ。そうだな、このペースならお昼には到着なさるだろう」
「兄様。この国は、ロクサンシームはどうなってしまうのでしょう?」
クレインが王として失格だったのは間違いがない。
それでも、彼がそんなふうであったことも、ここまで勘違いをしてしまったことも。
きっと、わたくしにも責任の一端はあるはず。
国が、国民が路頭に迷うような事だけはなって欲しくない。
「うん。全ては皇帝陛下のお心一つ、かな」
そういうと目を逸らす。
兄様。わたくしに言えないことでもあるの?
窓の外の空は澄み切った青。
午後からの話によってはこの国に暗雲が垂れ込める可能性があるだなんて信じられないくらいに綺麗、だった。
♢ ♢ ♢
「お爺さま!!」
馬車から降りたお爺さまにそう飛びついて抱きついたわたくし。
「はは。レイニーや無事だったか。良かった。ユリアスからの早馬で事情は把握したが、この目で見るまでは本当に安心は出来なかったよ。ほんとうによかった」
そう、わたくしの身体を抱きしめて持ち上げ、まるで子供のように頬擦りをしてくださるお爺さまに。
「もう、お爺さまったら、わたくしもう子供じゃないんですよ?」
と、笑って見せた。
心配かけてごめんなさい。
心の中で何度もそう言って。
「でも、本当に嬉しいです。ありがとうございます」
そんなふうに囁いて。お爺さまの逞しい胸に、顔を埋めた。




