心、はじけて。
真っ黒な感情が可視化したかのような黒い闇。
そんな闇に飲み込まれそうになったところで自分の心の奥底にあった塊が、はじけた。
怖い。怖い。怖い。
嫌、嫌、いや!
だめ! いや! 嫌!! 助けて! いやーーーーー!!!
——もう、この時のことはよく覚えていない。
きっとわたくしの心もどこか壊れていたのかも知れなくて。
とにかく怖くて逃げ出したくて泣き叫んだ、と、思う。
クレインが好きだった。
そんな気持ちは、この時に完全に消えて無くなった。うん。間違いなく——
たすけて! キュア!!
そう、無意識のうちに精霊キュアに助けを求めていた。
自分の身体の奥底からマナが溢れかえり膨らんで、金色の粒子となって広がる。
キュアが、わたくしのマナを吸収し、力を、その権能を発動したのはわかった。
嵐のように吹き荒れる金色の粒子。
そしてそれは、クレインの黒の闇を完全に吹き飛ばし。
そしてそのまま周囲を取り囲んでいた魔道士たちをもかなりの距離弾き飛ばした。
そして。
その金の嵐は月の光と共に王宮全体にシャワーのようになって降り注ぐ。
一瞬、まるで夜昼が反転したかのような光で溢れ。
王宮にいるすべての人が、その異常事態に気がついたのだろう。ざわざわと人が起き出す気配がした。
「レイニー」
吹っ飛ばされ倒れていたクレインが、頭をあげそう言ったのがわかった。
その声を聞いて、はっと理性が戻った、らしい。
「え!? これって……」
一瞬、わけがわからなかった。
泣いて、叫んで、何かの魔法を発動してしまった?
そうも思ったけど、皆はどうやら吹っ飛んではいるものの、そこまで大きな外傷はない様子。
回復魔法「キュア」を唱える必要もない?
そんなふうに思案していると、バタバタと大勢の人の足跡が近づいてくる。
ああ、騎士団とかだったらまずい?
クレインが倒れていたら、わたくしが悪者にされてしまう?
そんなふうに一瞬躊躇して。
でも、もしわたくしが事実を話してもそれでも罪に問われるのであれば実力行使に出てでもここから離れよう、と、覚悟を決めたときだった。
「レイニー!!」
え?
「レイニーマイン様!」
ええ?
月の光に煌々とうつしだされたのはユリアス兄様とオールベル先輩。
彼らが大勢の騎士を引き連れこの中庭に踏み込んできて……。
「無事で、良かった……心配したんだよ……」
「兄様、どうしてここに……」
「そっか。僕が来ていることも君は知らなかったんだね。ほんと、どう言うことだろうね? クレイン王?」
「陛下、この騒ぎはどういうことでしょう? きちんと説明してくださいますよね?」
オールベル先輩はクレインを無理やり起こし、そう詰め寄った。
項垂れ、一言も発しないクレイン。
「ふむ。マクレーン公爵。こうして夜も更け気温も下がってきている。レイニーが風邪をひいても大変だ。まずは中に入って話を聞くとしよう」
「はい。ではジンライト、ここで伸びている魔道士らは拘束し事情を聞くように。クレイン陛下、よろしいですね」
有無を言わさぬ勢いのオールベル先輩に、クレインはただただ項垂れ、引きずられるように王宮の入り口に消えて。
わたくしは、ユリアス兄様に手を引かれて温かい屋内へと向かった。




