月夜。
まんまるの月がぽっかりと浮かんでいる。
星の光も眩くて、もうすっかり夜も更けているのがわかる。
このまま庭園を抜けるように空を飛べば、とりあえず王宮の敷地の外には出られるかな?
ちょっと月明かりが思ったよりも明るくて目立ちそうだから、なるべく樹々に紛れるようにしたほうがいいかな。
そんなふうに逡巡していた時だった。
「ここにいたぞ!」
「陛下に報告を!」
そんな声。
建物の影から数人、黒尽くめのマントを着た魔道士が数人現れてジリジリとこちらに近づいてきた。
魔道士。
この国魔法の研究職。文献を読み解き呪文を極めより効率化を図る魔法陣の開発に勤しんでいると、そう思われがちではあるのだけれどそれだけでは無かったりする。
生産的な聖魔法の使い手はもっぱら聖女宮の方に所属する為、魔道士の塔に所属する術士には攻撃魔法を得意とするものが多い、らしい。
肉体派の騎士団に随行しての魔物退治も彼らの仕事。
黒いフード付きのマントで夜に紛れ建物の影に身を潜めていた彼ら。
何か小声で詠唱を始めたと思ったら、空気がなんだか変わって?
急いで転移して逃げようとしたわたくしのアウラの権能がブロックされた。
いくら伸ばそうと思っても、転移先の空間が掴めない。というかそこまで空間が認識できなくなっている。
「お妃様、貴女の周囲の空間は封じました。転移を使って逃げることはもうできませんよ」
黒尽くめのリーダーみたいな男が、そうこちらに向かって近づき。
唐突に両手を前に掲げた。
途端に伸びてくる蔓? のようなもの。
ダメ。あれ、拘束魔法?
傷つけようとする意図は感じられなかった。でも、あんなのに絡まれたら身動き取れなくなっちゃう。
「ファイヤ!」
一瞬だけ周囲に炎の壁を纏う。
伸びてきた蔓はその炎にまかれ消し炭になって消えた。
「やはり。魔封じの効果は消えているようですね。これは困りました」
ジリジリ近づきながらそんな台詞を吐くその魔道士。
どうしよう。
困ったのはこっちだよ。
向こうがわたくしを傷つける意図がない以上、強力な攻撃魔法を撃たれる心配はないとしても。
大勢で取り囲まれ物理的に拘束しようと向かって来られた時、彼らを殺さずに排除する力加減なんかわたくしにはできない。
彼らにもそれがわかっているからこうして取り囲むしかできないのだろうけど。
いつのまにか人数が増えた魔道士。
そんな彼らと睨み合っているうちに、とうとうクレインが到着した。
「かくれんぼはここまでだよ。レイニー」
人垣を掻き分け目の前まで来た彼。にやっと笑いながら、一歩前に出た。




