捜索。
身体がきゅっと縮こまる。
コツコツと、歩き回る靴の音。
クレイン?
かもしれない。
探してるんだ、わたくしを。
「陛下、どこにも見当たりません!」
「そんなはずはない! どこかに絶対に隠れているはずだ。あんな格好でどこにも行けるわけはない」
「しかし」
「ええい。人手を増員しろ。ああ、マキナスを呼べ! 奴に捜索の指揮を取らせる!」
「わかりました!」
バタバタと遠ざかる足音。
「くそ! まさか塔から身投げするとは! しかし、まだレイニーは魔法が使えないはずだ! 精霊が力を貸した? だろうな。しかしそれもそこまでだ!」
そう言い放つクレイン。
寝室に人が踏み込んだ形跡が無かったからか、そのまま扉をバタンとしめる音がした。
「ふう」
止めていた息を、ふうと吐いて。
どうしようかと考える。
魔法を使って強行突破?
ダメダメ。塔には戦闘向きの魔道士がいっぱいいるはず。
そんな彼らと戦って、勝てる自信はないよ。
他の人よりも魔力特性値は確かに高いし魔法だって色々使える。精霊の加護も多いわたくしだけど、実際に人と戦ったことなんてないもの。
他人を殺さずにどうこうできるだけの技術は自分にはないから。そう逡巡して。
じゃぁ空を飛んで逃げる?
うーん。流石に魔法で空中浮遊をするのもそんな長距離は。
試してみたことないから、ちょっとわからなかったりする。
そもそも、自分の魔力を目一杯引き出したことなんてないもの。
わたくし自身の力がどの程度か、とも。
そんなのだって定かじゃ無かったりするから。
それでも。
マキナスに連絡を取るのも、ちょっと控えないとまずいかな。
彼が捜索隊の指揮を任されるとしたら、下手にわたくしを庇えば彼の身が危うい。
わたくし自身は逃げてしまえばいいけど、クレインのことだ、「裏切り者」には容赦しないかもしれない。それはちょっと、だめ。
とりあえずこのまま夜を待つ。
夜の闇に紛れ、この王都から抜け出すことができたら。
まず、そこから、かな。
♢ ♢ ♢
クローゼットには窓がないから、もう夜になったかどうかちょっと定かじゃなかったけれど。
お腹も空いてきた頃合い。
廊下のバタバタと人が行ったり来たりする音もしなくなった頃。
クローゼットの扉を内側から開けてみたら……暗い。
窓にはカーテンがかかったままだけど、それでも外が暗くなっているくらいはわかった。
どうしよう?
一瞬悩んで。
ここから歩いて出るのはまだ怖い。
外に出てしまえば空中浮遊を使ってでも王宮の外に出るのは可能、かな?
クローゼットに置いてあったバッグに少しくらい小銭も入ったままのもあったし。
街まで出たら食べ物屋さんくらいあるだろうし、まずそこで食事して……。
そんなふうに考え塔の横のあの落ちた中庭を目指して転移した。
あそこはもともと人目のあまりない場所だから。
他の場所よりもましだろう、と思って。