飛び降りて。
そして。
彼がこの部屋にふたたびやってきた。
何のために?
復縁を迫るとかそんな甘いことを考えているわけじゃないだろう。
だとしたら?
♢ ♢ ♢
お湯を頂いて身体を拭いている最中に扉がノックされた。
「マリー? できたらわたくし新しいワンピースが欲しいのだけど」
着ているワンピースはずっと同じもの。随分と汗で汚れてる。もういい加減新しい着替えがもらえないかとそう扉の向こうに声をかけてみる。
「メイドじゃない。私だ」
え?
扉の向こうからそうクレインの声。
間違いない。
慌てて、脱いでたたんであったワンピースを手に取り羽織る。
かちゃんと扉が開き、彼が部屋に入ってきた。
「そんなに怖い顔をしないでもいいだろう?」
「あら、リリスと同じことを言うのね」
「寂しいな、あんなに愛しあったのに」
「あなたのは愛じゃ無かったって、気がついたんだもの」
「そっか。じゃぁしょうがないね」
手を広げてて呆れたような顔をするクレイン。そのまま一歩前に出る。
わたくしはそんな彼の歩調にあわせ、後ろに後退った。
ジリジリと。捕まらないように。
「何をしにきたの?」
「何をしにきたって、あんまりだね。自分の妻に会いに来るのに理由が必要かい?」
「騙されないわ」
「私が君を騙す? どうして」
「わたくし、公園であなたが真摯に謝ってくれた時、本当に嬉しかったのよ? なのに、まさかそれがわたくしを騙すためだったなんて」
クレインは右手に何かを持ったまま、近づいてくる。
でも、力ずくで何とかしようって風ではない。そこは油断をしてくれているのかもしれない。
魔法で押さえつけられたら、今のわたくしにはもう何もできないもの。
怖い。
口では反発しているけど、本当はもう何も言えないくらいに怖い。
「君を手に入れるためにはしょうがなかった」
「そんな! わたくしの心はどうだってよかったんですか!?」
「いいさ。この隷属の首輪があれば、レイニー、君は一生私のものだ」
そう言って掲げる首輪? のようなもの。
そこにはあのルビーのように、真っ赤な石が嵌まっている。
いやだ。
あんなものでまた心が操られるなんて。
あとずさった体が壁に当たる。
もう。
このままじゃさがれない。
「はは。これを手に入れるのには苦労したんだよ。帝都で昔遊んだ夜の街の一角に知り合いの魔女がいてね。そこで頼んでいたものがやっと届いたんだ。金は積んだが、それでお前が手に入るなら安いものさ。なあ、レイニー」
狂ったような瞳でこちらをみるクレインに。
「いや、よ!」
拒否の言葉を投げつけて、わたくしは窓枠に手をかけ、そこから一気に飛び降りた。




