昔話
「何を話したところで、俺の立場は変わらなかったんだろうが!」
「試させてもらったが、そなたを見極めるためだ。ここへ来たのは、そなたと話をするためなのだから」
話がまどろっこしくてうんざりだ。俺のことを知りたいのなら、最初からディアベルに聞けばいい。誘拐犯の俺と違って魔神のあいつはかわいそうな人間の娘なのだから。
「こんな湿気た牢屋にわざわざ偉そうな奴が来たかと思えば、俺に何の用だ! さっさと要件を言うか、ここから出せ!」
「騒ぐでない。少しばかり昔話をしよう。昔といっても我々にとってはほんの最近の出来事に他ならないが」
「はっ! 年寄りの説教を黙って聞いていれば出してくれるっていうのか?」
「無礼にも程があるぞ‼ 立場を弁えるがいい‼」
男のエルフが前のめりに言う。そんなやりとりはお構いなしにアルディールが話を続ける。
「二十年ほど前の話であったな。かつて栄華を極めたゴルドバーグには、古くからの友人が住んでおった」
ゴルドバーグ‼ その名を聞いて唖然とする。
「友というのはドワーフのことでな。そやつはドワーフの中でもことさら変わった奴で、それでいて不思議と気の合う友であった。今となってはドワーフとの縁も断たれて久しいが……」
「……」
「その懐かしき友がある日、森で人間の子を拾ったと言っておったのだ。そして拾った人間を我が子のように育てたそうなのだが――」
「モーモントを知ってるのか⁉」
「運命とは誠に数奇よ。少々無鉄砲ではあるが、人間にしては真っすぐで聡い子だと聞いていたのだ。まさかこのような形で巡り合おうとは……」
本当にモーモントの知り合いらしい。エルフの知り合いがいるなんて聞いたことがなかった。