魔族
もしかして馬じゃなくてもいいんじゃないか?
「お前、オルトロスのように魔族を手懐けられるのか?」
「貴様のいう魔族がどういうものか知らぬが、ガルグとベルデ、その配下の群れは特別じゃ。まず頭の悪そうな奴はわらわに怖れを抱いて逃げるじゃろうな。逆に襲い掛かってくるやもしれん」
「オルトロスは魔法で手懐けたんじゃないのか?」
「そんなことせん。ガルグとベルデは、まだこんな小さいときに群れから追い出されておったんじゃ。それでも距離を取りながら群れに付いていく姿が不憫であったから少し手助けしてやったんじゃが、立派な頭になっておったのう。それに魔力で支配するなどと、わらわの趣味ではない」
「……なるほどな。それならお前の大好きなオルトロスを呼んでもらって、さくっと森を抜けたいんだが、できるか?」
エリクシオンからオルトロスに乗っていれば危険な目に合わずに済んだのかもしれない。逃亡者になった時点で、魔族を手懐けていることがばれても構いやしないのだ。またあの凶暴な牙にこの身を預けるのは、この際仕方ないとして。
「こんな森の中では、わらわの香りも荒野まで届かんな。風が吹いておらんし、風があったとしても、鬱陶しい木々に囲まれておっては無理じゃろう」
「風か……」
確かに荒野でディアベルがオルトロスを呼んだときには風が吹いていた。森の中では諦めるしかないようだ。ずるい手は使えないとして、この速度で歩くとなれば無理をしてでも先に進んでおくほうがいい。