力
レルゴめ、逃走用に馬を貸すならせめてもう少し早い馬にして欲しかった。
松明の明かりが近付いてくる。とうとう後ろに付かれた。四頭の馬に四人の追手。
「囲め囲めぇ! 男は殺しても構わん! 女は生かしておくんだ!」
自分たちの影がゆっくりと左右に分かれていく。
「わらわは生かしてもらえるみたいじゃな。どうするんじゃ? 貴様は殺されてしまうらしいぞ?」
「黙ってろ‼」
右手で戦斧を抜き、戦闘の準備をする。松明の火が消えたかと思えば、追手が松明を捨て、剣を抜いたようだ。ディアベルがいるからなのだろう。弓を使わないだけましだ。
左右に二騎ずつ、交戦距離まであと少し。戦うにしても、ディアベルを逃がすため最低三人は引き付けたかったのだが、自滅覚悟で片側の二人に飛びかかるしかない。あとは飛び移るタイミングだ。
「……ふむ。このまま捕まっても面白くないのう」
なにやら呟くとディアベルは器用にも後ろ向きで馬の背に立ち始めた。
「おい何してる⁉ 遊んでる場合じゃないんだぞ‼」
ディアベルが落ちないよう、その足を抱いて腰から顔を出した。こんな体勢では追手の馬に飛びかかれない。当の本人はお構いなく、俺の肩に手をやり、そして大きく息を吸い込むと――
「止まるんじゃ‼」
「っ――‼」
鋭い殺気。びりびりと肌が粟立ち、体が硬直する。なんとか騎乗しているのが精いっぱい。その殺気をもろに感じ取った追手の馬たちがいななき、離れていく。
「こら! 言うことを……!」
「どうどう! 暴れるんじゃない! ……うわあ!」
全身の硬直が少しずつやわらぎ、ようやく横目で確認できたのは、慌てた馬同士がぶつかって落馬する様子だった。
ディアベルは後ろ向きのまま腰を下ろし、至近距離からどや顔で見つめてくる。
「ふふん。どうじゃ?」
「……どうじゃってお前……何をしたんだ……?」
褒めろと言わんばかりの表情が気に障るが、ひとまず助かったのは事実だ。だが走っている馬が怯えるほどの殺気を放つなんて、普通の人間ではまず真似できない。なんとか落馬せずに済んだが、その殺気を目の前で喰らった俺もかなり危なかった。
やはりこいつは魔神。