ガラッド
「お前が先に乗れ。右足を持ち上げるから一気に跨るんだ。せーのっ!」
「わわっ‼ ……馬に乗ったことなどないぞ‼ 振り落とされたりせんか⁉」
続いてディアベルの後ろに飛び乗る。
「ご安心をディアベル様。フィーネ様は乗馬も堪能なお方。きっと体が覚えておいでだ」
「この娘のことなぞ知らぬわ! なんとかするのだぞ下僕よ!」
「わかったから、黙ってないと舌を噛むぞ」
「早馬を用意できればよかったのだが、こればかりは……。教会側もすぐに馬で追いかけることになる。ご武運を」
「助かった! クラインにも礼を言っといてくれ! はっ!」
拍車をかけて一気に走り出す。暗闇の通りを駆け抜け、北門へ。
「道をあけろ‼ 轢いちまうぞ‼」
門の前で言い争っていた集団が馬に気づき、身構える。
「馬だ! 避けろ!」
教会の連中と揉めていた行商一行のすれすれを走り抜けていく。やけに体格のいい商人の前を通り過ぎる瞬間、その商人と目があった。
ガラッド‼
その目はテリオスの酒場で見た。
『期待している』
こんな夜中に行商人が到着するのもおかしな話だと思ったが、ガラッドが手をまわしていたようだ。
難なく北門を通り抜けたところで、眼前に広がるのは夜の草原。今夜も月明りが出ているのであたりが良く見渡せる。しかしこうも見渡せるとなると、俺たちの姿も捉えやすい。逃走の夜なら暗闇のほうが良かった。