路地裏
暗い路地裏で立ち止まって、周囲を確認する。人の姿は見えないが、悪臭が鼻に付いた。
「大丈夫か? 足をくじいたりしてないか?」
ディアベルは肩で息をし、涙ぐんでいる。見るからに辛そうだ。
「……はぁ……はぁ……足は問題ない……じゃが……」
怖いのだろうか。震えていたフィーネを思い出す。魔神とは言え、こうしてみるとただの女だ。抱きしめると、ディアベルが胸の内で呟いた。
「……うぷっ……気持ち悪い……」
すぐさま突き放す。
ディアベルがその場にしゃがみ込んで、情けない声を上げる。
「……うえぇ……しぬぅ……」
「ただの飲みすぎだろーが!」
「……違うんじゃ……急に走らせるから……うえぇぇぇぇ……」
とうとう吐き出した。このままここに置いていってやろうか。しかしこんなのでも一応は護衛対象様だ。金は貰ってる。金は貰ってるのだ。
気持ちを切り替えて、路地裏から通りに目を向けた。まだまだ距離はあるが、複数の松明が近付いてきている。やはり追手が増えた。おそらく街にいる追手は今近づいてくる奴らだけじゃない。できればどこの奴らなのか、一人を脅して問い詰めたいが、ディアベルという大荷物を抱えている以上、余裕がない。