表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/36

30

 渡船場を訪れたミレイとモーレスが、コーエン夫妻の住居を調べていた。


「モーレス、何かあったかい?」

「いや、そっちは?」


「うーん、特に変わったものはないんだけどねぇ……」

 ミレイは含みを持たせるように言う。


「どうした?」

「何て言うのか、こう……違和感があるんだよ」


「違和感? こざっぱりとして良い部屋だと思うが」

 言いながらマーカスは、壁に掛けられた絵画の額の位置を直した。


「そうなのさ、やけに片付いてるっていうか……こう、生活感を感じないのさ」

「そうか?」


「ほら、見てみな。テーブルにある食べ残しのパスタ」

「それがどうかしたのか?」


「パスタは減ってる」

「はは、そりゃそうだろ」


「よーく、見な」

 ミレイは腕組みをしたまま、パスタの盛られた皿を見下ろしている。


「え? んー……なんだ、まったくわからんが……」

「ったく、あんた、良くそんなのでアタシに大きな口叩いてたもんだね」


「あー、わかったよ、悪かったから。で、何だってんだ?」

「フォークだよ、フォークを見な」


「ん? あ……」

「料理の方は減ってるってのに、なんでフォークが汚れていないのさ」


 モーレスは口元を片手で覆うようにして無精髭を撫でた。


「おいおい……誰かに連れ去られたのか、それとも……」

「ああ、良くないことが起きてるよ。恐らくコーエン夫妻は手遅れだね……」


「チッ……いったい、何だってんだ」

「問題は犯人がまだオルディナの町にいるってことさ」


「クソッ! 何か手がかりはねぇのか⁉ 見つけたらぶん殴ってやるのによぉ!」

 憤り、壁を殴るモーレス。


「よしな! 騒いだってどうにもならないよ。それより、犯人の目的は何だろうね……」

 部屋の中を歩きながら、ミレイが言うと、


「大方、気が触れた野郎の仕業さ、決まってる」とモーレスが投げやりに返した。

「そうさねぇ、それならまだ、諦めがつくかも知れないね……」


 ミレイが呟くように言った、その時――。

 家のドアを誰かがノックする音が聞こえた。


 二人の動きが止まる。

 ミレイは手ぬぐいを拳に巻き付け、モーレスに扉を開けに行くよう目で合図を送った。


 小さく頷いた後、モーレスはわざと大声を出して扉に向かった。


「誰だー? いまは取り込み中なんだが――」


 扉を開けると、黒い大きな鍔のある帽子を被った祭司が立っていた。


「えっと……祭司様?」


 祭司は笑みを浮かべたまま、帽子を取った。


「こんにちは、私は大聖堂の祭司を務めております、ミハイル・ウォーカーと申します。渡し船を利用しようとしたところ、誰もいらっしゃらないようでしたので、こちらにお邪魔してみたのですが……」

「ああ、えーと、残念ですが、船は当分休みなんですよ」


 扉の死角にはミレイが息を潜めている。


「そうですか……残念ですが仕方がありません」

「祭司さ……」


「――伏せな!」

 ミレイがモーレスを押しのけた。


 その瞬間、派手な音と共にミハイルの拳が壁にめり込んだ。


「なっ⁉ なにしやがる!」

「逃げるよ!」


 ミレイがモーレスの襟首を掴み、部屋の反対側にある窓に向かって走った。


「ちょ……ま、待て待て」

「いいから来な! アレとはまともに戦っても勝ち目はないよ!」


 窓硝子に体当たりをして外に転がり出る。


「走りな!」


 ミレイの背中をモーレスが必死に追いかける。

 だが、すぐ先にある茂みから、いつの間にか回り込んだミハイルが姿を現した。


「申し訳ありません。残念ですが、このまま帰すわけにはいかないのです……」


 黒縁眼鏡の位置を気にしながら、ミハイルは笑みを浮かべた。


「クッ……こりゃマズいね」

「おいミレイ、あいつは何なんだ?」

 モーレスが小声で訊ねる。


「フンッ……加護持ちさ」

「加護持ち⁉」


「わたしにゃわかるのさ、戦争で散々見てきたからねぇ……」

「じょ、上等だ……やってやろうじゃねぇか」


 モーレスは拳を握り、構えた。


「いいかい、あいつらは特別な力を持ってる、パッとしないものから、化け物みたいな力まで、それこそピンきりさ」

「ハッ、じゃあ、あいつがパッとしないことを祈ろうぜ!」


 モーレスが飛び出し、ミハイルに向かって殴りかかった。


「この馬鹿!」


 慌てたミレイがフォローに回る。

 モーレスの拳がミハイルの頬を打ち抜こうとした瞬間、ミハイルの瞳が紫色に輝いた。


『――戒めの楔――』


「がっ――⁉」

「くっ――な、何を……」


 モーレスとミレイはその場で固まっていた。

 まるで体が鉄にでもなったように、指一本動かすことができなかった。


「なるほどなるほど、あなたは加護の存在をご存じでしたか。今はもう随分と珍しくなりましたからねぇ……」


 ミハイルはゆっくりとミレイの髪に触れた。


「さ……さわ……るな……」

「ほほぅ、驚いた。まだ言葉が出せるのですねぇ! 素晴らしい! あなたのような方を浄化するのは惜しいですが……これも私に課せられた使命、悪く思わないでいただきたい」

「ミ……レイ……」


 モーレスから声が漏れる。

 ミハイルは驚いたように目を大きく開き、


「おや、あなたもですか……これは少し興味が湧いてきましたねぇ。どうでしょう、少し話をしませんか?」と二人を交互に見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ