1話
「…んーむ」
朝の陽ざしが掃き出し窓から室内に差し込み、脳が覚醒していく。
今日は土曜日。
休日である。
寝起きのコーヒーを淹れるため、ベッドから起きだしてキッチンへ向かう。
季節は秋。
そろそろ寒さが本格的になる季節だ。
このアパートは木造だが、古い建物のせいなのか、冬になるととても寒く感じる。
引っ越しは考えたが、引っ越しの作業も面倒に感じてしまい、結局ここに落ち着いている。
ポットがコトコトと音を出しながら蒸気を排出口から出すと、カチッとスイッチが降りてランプが消えた。
インスタントの粉を入れたマグにお湯を注ぐ。
蒸気とともに広がるコーヒーの香りが寝起きの頭に心地よい。
「さて…今日はどうするか」
やらなければならない家事はあるが、最近は仕事で忙しく、ゆっくりしたい気持ちもあるし、パーッと遊びたい気分でもある。
「温泉…」
そうだ。
温泉だ。
良いではないか。
ドライブでそこら辺を流しながら、日帰りでもよいし、なんなら一泊しても良い。
温泉に行こう。
よし、決まりだ。
となれば、替えの服やタオルなど持ち出さねば。
俺はリビングから立ち上がり、隣の部屋へ向かう。
このアパートは2LDK。
独り身には広いが、前述のとおり古い建物のため、家賃は安いのだ。
1部屋は寝室。
もう1部屋はクローゼット兼納戸になっている。
「温泉はどこへ行こうかな…」
ガラガラ。
引き戸を開け、着替えとタオルを…と思ったのだが。
目の前の空間には、いつもの部屋ではなく、全く別の空間が広がっていた。
ログハウスのような空間で、内壁もクロスとかではなく、木そのもの。
元の部屋は6畳間だが、それよりも倍くらい広い。
元々あった俺の物は一切無く、無くなったというより、別の部屋にすり替わったような感じだ。
「え、あ…」
驚きすぎて、何も言葉が出なかったのだが、その空間に色々な物体がある中で、一際目立つものが。
人である。
扉から一番離れた奥側に、ベッドがあるが、そこに女性が寛いでいるのである。
壁に腰をもたれかけ本を読んでいたようだが、こちらと目が合った瞬間、彼女も声が出ないようだった。
「あ………」
「え…?」
「あれ、あの、おかしいな。はは、俺の部屋のはずなんだけど。ごめんなさい、お邪魔しました」
バタン!
逃げるように扉を閉めてしまった。
どういうことなのだろう?
朝起きたら、部屋が全く違う空間につながっているというのは。
よくあることなのだろうか。
少なくとも、俺はこの人生で初めてである。
どうしようか。
閉めてしまったはいいものの、また開けたらそのままなのだろうか。
気まずい事この上ない。
先ほども俺のコミュ障っぷりが遺憾なく発揮され、逃げ出してしまった。
もう一度開けて話す勇気がこの俺にあるだろうか。
…警察呼ぶか。
いやいや、なんて説明するんだ。無理だろ。
開けるしかない。
逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。