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薄幸男の異世界転生譚 ~転生したのに不幸体質が治ってないんだが~

今日は俺の五歳の誕生日だ。

普段ならば忙しくあまり一緒に過ごすことのできないソロモンが、ささやかながらも誕生パーティを開いてくれたのだ。これも日々の関係性の賜物だろう。


「実にめでたいのぉ」

ソロモンはしみじみという。

「ありがとう、じいちゃん」

俺はこの日何度目かの感謝を述べる。最初はソロモンと呼んでいたがどうも反応が悪く、じいちゃんと呼んでみたところ目を輝かせたのだ。そんなこんなでじいちゃん呼びが定着したのだった。

「プレゼントなんじゃが、もう少し待っていてはくれぬか。」と申し訳なさそうに言う。

「それは全然かまわないけど、二つお願いがあるんだ。」

「もちろん、何でも言っとくれ」


俺のお願いというのは二つだ。

「魔法を教えてほしいんだ。それと将来的に学校に行ってみたい。」

するとソロモンは関心したような表情を浮かべる。

「まさかその歳で魔法に興味があるとはのう。しかし儂は厳しいぞ?」

正直俺へのデレデレぶりを見ていると多少疑わしい。まあそうなるように行動はしたのだがここまでになるとは思ってもなかった。しかし厳しいのは望むとことである。自身を守るために学ぶべきだ。

純粋な興味もかなり大きいが。


意外かもしれないが俺はいまだに魔法を一切使ったことがない。

一人でやったらとんでもない失敗をしでかしそうだからである。


「絶対やり遂げてみせるよ。」

「よう言うた! それでこそわしの孫じゃ」

「それと学校じゃが元々通わせる予定じゃったからそちらも問題ないの。」

学校は多少反対されるかもと思っていたがもとからその予定だったらしい。


「それでは明日から早速始めから今日はしっかりと休むのじゃぞ」

「うん、明日からよろしくね」

そういうと任せておけと意気込んでいるのがわかる。

少し張り切りすぎなのが怖いところだ。


そういうことなので俺は期待に胸を膨らませつつ、英気を養うのだった。


~・~・~


「ではこれより魔法の授業をはじめるぞ」

「よろしくお願いします!」やる気マックスだ。

「まず、わしが許可を出すまで魔法を使ってはいかん」

「約半年くらいじゃ」

「……え」思わず声が漏れる。

想像していたより長い。


「理由を知りたそうな顔じゃな」

そりゃもちろんとばかりに首を縦に振る。

「そもそもフィンは魔力が何かということを知っておるか?」

確か魔力は世界と自分をつなぐ潤滑油のようなものだったはずだ。

「確かに本にはそう書いてある。そしてそれは事実じゃ。」

ソロモンはさらに言葉を続ける。

「付け加えると魔力とは生命力そのものじゃ。」


つまりはこういうことらしい。

ヒットポイントとマジックポイントのように別れているのではなく、両方の役割を担っている。

ゲームではマジックポイントがなくなっても通常攻撃を行えるが、生命力を魔力として使ってしまっているのでこの世界では死んでしまうということだ。

よって体力と魔力は同一の存在であり、わかりやすく言い換えているに過ぎないということだ。

もちろん傷をおったりすれば、その分魔法も使えなくなる。


「なので半年間で魔法の座学と体づくりをしてもらう」

なるほど、そのための半年間なのかと感心する。

「マジックキャスターは魔法ばかり鍛えるものが多いが、わしから言わせればそれは半人前の証じゃ」

チームを組んでいるときはいいが、いつか一人で戦わなくてはいけないときが必ず来るとのことだ。

確かにできることが多いほうが戦術の幅が広がるというものだ。


……できることならば争いには関わらない方向でいきたいものだ。

俺はそんなバーサーカーではないのだ。


「わかってもらえたかの?」

これだけの理由があるのなら、納得しなほうがおかしいというものだ。


「では、気を取り直していくぞい」

こうして座学の授業が始まった。



始まったはいいものの、やはり最初は初歩的な内容なので復習程度に聞いておく。

しかし中には初耳の情報があったりする。

例えば魔法の分類についてだ。

本には初級、中級、上級、超級の四段階に分かれていると載っていたが、さらにその上に殲滅級というものがあるのだという。これは神話やおとぎ話上の存在とされているために一般的には認知されていないものの、実際には存在するとのこと。ちなみに一発ごとに地図を書き換えなくてはいけないらしい。

本当にこの世界の魔法と言うのはシャレになっていない。

中級魔法ですら人を死に至らしめるほどの威力があるというのに。


個人的に本を読んでいた関係でいくつかの呪文は知っていたが、それを教えてくれることはなかった。

半年間は基本魔法そのものについてのみ学習するようだ。

実際に発動させるのは知識をしっかりと身につけてからということだろう。


授業は二時間ほどで終わった。普通の五歳児だったら二時間も座って勉強することなどできないだろう。俺が小さい頃はできなかった。幸いなことに精神は大人なので今は問題ない。

五歳児換算するとスパルタなのかもしれない。


ちなみに午前中に座学、午後に体力作りの予定だ。

体は年相応なので午後は覚悟したほうがいいかもしれない。


~・~・~


予想通りというか予想以上にきつかった。

腹筋や腕立て伏せといった基本的な筋トレから始まり、ランニングで持久力を鍛え、そして最終的な仕上げ。これが一番きつい。


この仕上げというのが、家の裏の森の中にあるソロモンお手製のアスレチックだ。

家の裏といってもあたり一面森なのだが。始めて外に出たときには俺も驚いた。

家の中にいても人気を感じることはなかったので、「ずいぶんと田舎に住んでんなー」くらいにしか考えていなかったが、まさか人っ子一人いないとは思ってもみなかった。


そんなことはさておきこのアスレチックだが、かなり凶悪だ。

そもそもこれはアスレチックというよりはトラップ祭りというほうが正しい。

一応スタートからゴールを目指すという形式になっているものの、道中の仕掛けが凶悪だ。

体力をつけるためというよりも体の使い方を覚える練習らしいが、丸太が飛んできたり、三メートル近い落とし穴があったりどう考えてもやりすぎだ。

もちろん素人の俺にかわせるはずもなく数々のギミックの前に完全敗北している。


不幸体質も相まってぽっくり死んでしまったらどうするのだろう。

一応ソロモンにはそれとなく伝えたが、即死でなければ大丈夫とのことだ。

即死はしないけど死にかけるかもね、ということだろうか。

あんなに俺にデレデレだったのに今や品定めかのように鋭い視線でもってこちらの様子を見ている。

午前中との疲労の差が酷い。



結局、体中あざだらけになりながらもなんとかゴールにたどり着く。

「よく頑張ったの」

のんきな声でそういわれるとどうしても怒りが体の内から湧き上がってくる。

「殺す気かよ……」

息絶え絶えにもかかわらず思わず口からこぼれる。

「最初に死にはしないといったじゃろ」


そうはいったが予想以上すぎた。

「もうやりたくないか?」覚悟を問うかのような口調だ。

そういわれてしまうと言葉に詰まってしまう。最初に啖呵を切った以上やりたくないとは言えない。

「いや、ドンとこい!」

我ながら馬鹿だと思うがこれは必要なのだ。やっておいたほうがいいことなのだ。

そう自分に言い聞かせる。そうでもしなければこれから先やっていける気がしないからだ。


「さすが儂の孫じゃ!」

少し驚いたような顔をしてから満足げにいう。やけくそで言ったのだがなんだか見直してくれたらしい。少しだけ喜びを覚える。


「そんなやる気たっぷりのフィンのために、わし頑張っちゃうぞ」

内心嫌な予感を感じながらも問いかける。

「……いったいどう頑張っちゃうの?」

「毎日コース変えちゃうかも」


ギャーという俺の悲鳴が森中に響き渡る。

気持ちはうれしいけど勘弁してくれよ。そう思わずにはいられないのだった。


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