第二話 はじめてのおじいちゃん
目が覚めてしばらくした俺は軽く考えをまとめていた。
まず一つ目、本当に異世界転生したらしい。
おそらく魔法のようなものを使っていたので、理由はよくわからないがよくありがちな剣と魔法の世界に転生してしまった……のだろう。もしや死の直前に願ったのが功を奏したのかもしれないがとりあえずおいておく。
次に二つ目、この体の生みの親はなくなっている可能性が高いということ。
これは状況から推察したので確実ではないが可能性はかなり高いと思う。
まず先ほど見た光景はどうやら農村のようだった。そこの住民が虐殺されていたということは俺の両親も殺された可能性が非常に高いだろう。たまたま出かけていたというパターンもあるがそしたら俺は今頃両親の腕に抱きかかえられていてもおかしくはない。
最後に三つ目、気が動転していて全く気付いていなかったが、この世界の文字はなぜか聞き取れるし、なんとなくの意味を読み取れる。
今のところ喋ることだけできないが体の成長とともにできるようになっていくだろう。
理由は全く分からないが、これは純粋にうれしい。
正直今わかっているのはこんなところだ。
それと今後の方針だが、情報収集を一番優先すべきだろう。
そうはいっても体が赤ちゃんだから外に繰り出すのは最もあり得ない選択肢だ。
俺の不幸体質も相まって死ぬ未来しか見えない。
一番良いのはあのリアルダンブ〇ドアに保護してもらうことだ。
どう考えてもそこいらの一般人よりも強いだろうし、目が覚めてからずっといるこの図書室のような空間には俺の知らない情報がたくさんあるだろうから情報収集にはもってこいというわけだ。
さらには部屋の内装を少し見ればわかるがすごくきらびやかだし、貴重そうな古本もたくさんある。
もしかしなくともお金持ちなのだろう。
この世界には魔法があるっぽし、少しでも教えてもらえれば万々歳だ。
俺だって男の子だ。小さいころに魔法が使えたらと何度思ったことか。
けれども考えれば考えるほどあれが頭をよぎる。
そもそもあれは体質というよりは強力な呪いみたいなものだと思っている。
ことごとく不幸を運んでくる。
考えるだけでも忌々しいくらいだ。
最も最悪なパターンが何かといえば外に頬りだされることだがそれはないと願いたい。
それをするなら俺を助ける必要はなかった。
あのまま放置しておけば勝手に殺されていたのだから。
言い切れないあたり自分でも恐ろしいのだが……
次点で施設に送られることだ。
前世の記憶では全くいい思い出がない。
誰からも必要とされず、邪魔者扱いを受けた記憶がよみがえる。
もちろんすべての施設がそうであるわけではないが、送られてしまえば最悪を必ず俺ならば引くだろう。そのくらいには不幸を呼び込む能力に関しては自信がある。
それを踏まえると引き取ってもらえるようになついたふりをするのが最も効果的なように思える。
命の恩人をだますようで気が引けなくもないが、二度目の人生のために心を鬼にするとしよう。
ちなみにおもらしはちゃんと処理してくれたらしい。
体が赤ちゃんだからしょうがないよね。
……うん、そうゆうことにしておこう。
これが精神衛生上一番よろしいのだ。
~・~・~
そんなこんなで脳内作戦会議を一通り終えるとターゲットと二人の美女が部屋に入ってきた。
一人は見事な黒髪を腰まで伸ばしており、一瞬日本人ではないかと思ってまったものの明らかに日本人離れした抜群のプロポーションときりっとした顔立ちでで動きやすさを重視しているであろう服装で腰に剣を差した美女だ。
もう一人は肩口で切りそろえられた淡い青色の髪を持ち、眼鏡をかけたまさしくクールビューティーを体現したかのようなきびきびとした印象を与える白衣を着た研究者らしき美女だ。
三人の関係性が気になるところではあるが、先ほどから何か揉めているようだ。
もしや不倫とかでもしたのだろうか。
そう思うとなんだか娘たちに責められている父親というかつて映画で見た構図に見えなくもない。
「ソロモン、あんた本気なわけ?」
黒髪美女がリアルダ〇ブルドアことソロモンに問いかける。
「さっきも言たじゃろう。 クラウディアよ、おぬしは反対かのぉ?」
黒髪美女はクラウディアというらしい。それぞれしっかりと覚えておこう。
「さっきからあたしとヒルドはずっと反対だって言ってるでしょ…… ねぇ?」
クラウディアがいら立ちを隠すように問いかける。あまり隠せてはいないが。
「……そうね。わたしも最初から反対しているのだけど」
とジト目でヒルドが答える。
「けどソロモンが言い出したらもう止まらないわ」
「たしかにいままでとまったためしがなかったわね……」
クラウディアが頭を抱えながら言う。
「いっつもあんたの後始末させられるのは、結局あたしたちよ」
「儂だって協力してるじゃろ?」
二人がソロモンをじっと睨む。
「……いつも途中で研究があるからってこっちに丸投げしてる。 ……わたしも研究したいのに」
ソロモンはおどけながら「すまんすまん」といって笑っている。
同時に二人の視線が強くなる。しかしソロモンは悪びれる様子もない。
こいつやべぇ、と俺は内心思うのだった。
~・~・~
さてさてそんなこんなでやっとおれの番がきましたよ、と。
脳内シミュレーション通りにやればきっと大丈夫なはず……
まずはステップ1 自己暗示
できるできるできるできるできるできる……と、松岡〇造のように心の中で唱えまくる。
プラシーボ何たらである。
そしてステップ2 手を伸ばす
今の俺はとってもプリティイな赤ん坊である。そんな赤ん坊が手を伸ばしてきたのならば抱っこ不可避のはずだ。
最後のステップ3 ひたすらにしがみつく
赤ん坊にしがみつかれたのなら無理やりは引き離せないはず。
そうして情を誘ってやる。それができなくとも根負けさせてやる。
こちとら人生かかってんじゃー! なめるなよー!
そうして息巻いていると、「よし、じゃあ今日からおぬしは儂の孫じゃ」と、一言。
あまりにもあっけなく決まった。
え、俺のシミュレーションは?
というより、いつ決まったの?
もしかしてさっき?
赤ん坊受け入れるかどうかで揉めてたの?
確かにお世話とか大変だろうけど、俺そんなに嫌われてるの?
……まあ、でも一番良いようになったからプラマイゼロと考えよう。
「儂の孫になったからにはぬくぬくとは暮らさせんぞ。 ビシバシ行くからのぉ!」
ふぉっふぉっふぉ、と笑いながら言ってはいるがこいつ目が本気である。
しかし魔法に限らず知識は必要なので臨むところではある。
不安要素は多々あるが……
~・~・~
夜になり知ったことだが、クラウディアとヒルドたちとは一緒に住んでいるわけではないようである。
となるとあそこまで受け入れを渋った理由が全く分からない。
単純に嫌われていたか、不幸体質を見抜かれていたのかもしれない。
それなら仕方がないか、と納得できてしまうあたり非常に情けない。
前世では体質が体質がといい途中からいろいろと諦めていたのかもしれない。
ならば今回は幸せを手に入れるために、できることすべてやるべきだ。
転生できたという自身唯一の幸運を生かすためにも。
俺は寝転がりながら「異世界転生、かかってこい!」と、叫ぶ。
喋れないので心の中でだが。
そのまま俺は意識を手放した。
赤ん坊の夜は早いのだ。