バツゲーム(MMR Ver.)
今のわたしは、とってもゆううつ。
だって、好きな人がムリヤリ嫌がることをさせられるのを見る日がくるなんて、考えたくもないじゃない?
「よし、じゃあはじめるぞ」
「いつものメンバー集まれー」
「今日は何で決めるんだ?」
はあ、また始まった。
わたしはある1人のかけ声で教室の角に群がってくる男子を見ながらため息をついた。
そこの中心にいるのはムードメーカーというのにピッタリの人。
ただ、それは男子のみの話。女子にとっては、すこぶる評判が悪い。
その原因は、これからはじまるゲームにある。
「よし、今日の負けはおまえだな!そうだな…じゃあ、次に教室に入ってくる女子にデートの申し込み!」
…こんなことを言っている人が、女子に好かれるわけないよね。
運悪くこのタイミングで教室に入ってきてしまった子は、突然のことに顔を赤くしている。でもすぐ後ろで口笛ではやしたてている男子を見て、
「バッカじゃないの?」
と言って足を進めた。
「あーあ、ふられてやんの」
こんなことが、毎日のように繰り返されている。
わたしは毎回その被害者の女子に同情しながらも、いつ自分がその対象になるかと心配になっていた。
ましてや、それが…
わたしはそのゲーム、通称そのままだけどバツゲームと言われているものがひと通り終わって解散しかかっている男子の方を見る。
そのムードメーカーの隣で話している人物に、目が行っていた。
何か話している…でも聞こえない。
この2人は一緒にいることが多い。たぶん、親友ってやつだ。わたしとしてはなんであんな奴と親友なんだろう、なんて思ったりする。
…だって、わたしの好きな男子だから。
気が弱いけど、優しくて…だから、このバツゲームにも参加しなくちゃいけないって思ってるんだ。
好きになった理由がそのままバツゲームの参加理由になっているなんて、皮肉かも…
もし彼が負けて女子に何かするなんてことになったら…と考えると、彼も辛いだろうし私も辛い。
神さま、そんなことになりませんように。
今の私にはそう祈ることしかできなかった。
ドアを開けると、頬をなでる風が出迎えてくる。
昼休みにだけ開放される屋上…まるでお風呂の中に入っているような感覚のする日差しが心地良くて、ここのところわたしは毎日必ず、来るようにしている。
ただ、もうやめようかなと思う時もある。
「よーし、じゃあはじめるぞー」
…なんで、こんな場所に来てまで。
リフレッシュしようとしている時にまで彼らにかまってはいられない。わたしは無視して、遠くの風景を眺めていた。
だけど…その時はついにやってきてしまった。
「あ、あのさ!」
わたしの背中に向かって呼ぶ声がして、振り返る。
すると目の前には、彼がいた。
好きな、人が…
神さまへの祈りは、どうやら通じていなかったみたい。
それどころか、よりによってわたしだなんて。
でも、呼ばれておいて何も言わないわけにもいかない。
「な、なに…?」
「ずっと、好きでした。よければ…付き合ってください」
…なんでそんなこと言うの?なんでそんなこと言わせるの?
今まで私が見てきた中でも、告白とか…冗談でしちゃいけないようなことはなかったのに。
言われて嬉しくないわけじゃない。だけど、今は悲しさの方が大きい。
離れたところで男子たちが見ているのが分かる。やっぱり、バツゲームでやらされたことだって分かったから。
そのショックは思いのほか、大きくて…
「ねえ、わたしのことからかって、楽しい…?」
「え!そんなことないよ!からかってなんか…」
…うそばっかり。それしか私の言いたいことはなかった。
実際に、言ってしまおうとも思った。それができないのは、まだどこかで彼のことを好きだという気持ちが残っているからかもしれない。
あーあ、辛いなぁ…
そんなことを考え込んでいたものだから、その声を聞くまで彼の隣に誰かが来たということも気づくことができなかった。
「あー、はいはい。どうやら彼女には俺らの言ってたことが聞こえてなかったようだ」
それは…あのムードメーカーの男子。
わたしの気持ちは崩壊寸前で、しかも今回のこの状況を作った原因が出てきたことで、突然怒りが沸いていた。
「どうして、こんなことするの…?好きだって思う人にこんなことされたら、辛いんだよ…?」
もうどうにでもなれと思った。冗談で告白してきたってことは、わたしのことなんか意識してもいないってことなんだろうから。わたしから告白しているってことは気づいたけれど、別にそれもいいやって気持ちだった。
それで、少しでも深刻に考えてくれると思ったら。
「えっ」
「おおっ」
彼らの反応は全然そんなそぶりはなくて、むしろ喜んでいるようにも見えた。
でも…そうだよね。
「からかったのが本当に想われている人なんだもんね。楽しいでしょうね」
もはや怒りの上に諦めがわたしの気持ちに覆いかぶさっていた。
だけど、それでも動じていない。むしろ笑顔でいる。なんで?
そんな中、ムードメーカーの男子が言う。
「はは…いいか、これから言うことは本当のことだからよく聞けよ」
「な、なによ…」
もうなに言われても動揺しない。そうわたしは確信できていたのに。
「こいつに出したバツゲームは『好きな女子に告白してこい』だ」
途端に顔が熱くなる。
えっ、それって、もしかして…
「みんな協力してたんだぜ?こうやって女子と話するんだってな!」
「俺らもスリルがあって楽しかったからOK!」
「全然コクるそぶりも見せないんだもんなー、こうやって後押ししないといつまで経っても平行線のままだからさー」
いつものバツゲームメンバーが一斉にわたしたちのところにやってきては、口々に言いたいことを言っていく。
更に驚いたことは、この時はじめて彼までもがその事実を知ったようだったということだ。
「なっ…みんな、グルだったのか!」
彼がみんなの方を向いて言う。
「みんなサイテー!」
いろんな意味をこめて、わたしは叫んでいた。
「絶対、付き合ったりなんかしないんだから!」
周りの男子がはやし立てるけど、気にしない。
しばらく彼なんて口もきかないんだから。
…彼は知らなかったんだから、ちょっとかわいそうだけどね。
仕方ないから、撤回してあげようかな。
でも彼のうろたえる姿がかわいいから、あと少しだけ。
それは、わたしからのバツゲーム。
この物語は奈宮柚優さんの「バツゲーム」(N8357G)を読んで、自分だとこういう展開にするかな…と思い、書いたものです。
許可をいただき、載せさせていただきました。ありがとうございます。
あんまり中学生っぽく感じないですね、これ。
もうちょっとはじけたキャラクターにしたかったな…